翔さんは眉を下げて俺を見つめる。
俺は見つめられても……困る。
だって俺は…。
「潤が戸惑うのも困るのもわかってるんだ。潤の立場だったら俺だって戸惑うと思うし。」
「俺ね…、好きな人がいるんだ。」
「うん。」
「驚かないの?」
「そりゃ好きな人くらいいるでしょ。あ、でも待って。その人と付き合ってたりすんの?」
「……しないよ。」
「あーよかった。あ!よかったって、ごめん。潤にとってはよくないもんね。でもよかった、うん、俺にとって。」
表情をコロコロ変えながら
翔さんは独り言のように喋る。
「自分の幸せと潤の幸せがいつか同じになったらいいな。」
コロコロ変わる表情から一変して
翔さんは優しく俺を見つめる。
「今はさ、潤が思う幸せの中に俺はいないもんね。」
カズと一緒にいることが幸せ。
そこには智もいて。
母さんと父さんがいて。
もしそれが続いたら
俺は幸せだと思う。
カズはそれが
続かないことをわかってる。
それ以上を望む日がくるってことを。
「翔さんは俺とただ一緒に居たいの?」
「え?それって??」
「それ以上のことは望まない?」
「…潤が警戒するから言いたくないけど、手を握りたいし、抱きしめたいよ。だけどそれは潤も望んでくれたらっていうことが前提だよ。」
「俺が望んだら?」
「うん。」
「じゃあ俺が好きな人のこと忘れたいから翔さんとそうなることを望んだら?」
「……。」
翔さんは悲しい顔をする。
「潤は忘れたいの?今好きだって思ってる人のこと。その先に俺を選択肢に入れてくれるの?」
選択肢…。
なんて失礼なことを。
自分のことしか考えてないこと。
好意を持ってもらっていることに
つけ込むようなこと。
「ご、ごめん。俺めちゃくちゃなこと翔さんに聞いてる。」
酔ってるんだ。
もっとおかしなことを言い出さないうちにやっぱり帰ろう。
目を泳がす俺の手を翔さんは握った。
その手には力がこもってる。
「俺なら忘れさせてくれるって潤が俺に賭けてくれるなら。」
握られた手から翔さんの顔に視線を向けると真剣な表情で俺をじっと見ていて俺は恥ずかしくなる。
「ごめん、俺酔ってて勝手なことばっか言ってるってわかってるから、無視していいよ。」
翔さんは手を離さない。
「この夏だけでいいよ。俺を試してみてよ。」
「試すってそんな…。」
スマホが光る。
『おやすみ潤くん』
画面に浮き上がる着信メール。
カズの一言を見て。
迎えに来てくれるかも、
帰ってこいと言ってくれるかも、
そんな無駄な期待は
スマホの光が消えるとともに
俺の胸からも消えて。
「俺に賭けてみなよ。」
翔さんの言葉だけが今ここに
響いた。
