「最近は60代や70代の方も“物忘れ”で来院」「スマホ依存で本物の認知症に」 専門家が警鐘を鳴らす「スマホ健康被害」
「心臓や肺が圧迫されて……」
【前後編の後編/前編からの続き】
シニア世代にも欠かせぬ日常ツールとなったスマートフォン。それがもたらす深刻な健康被害を、あなたはどれだけご存じだろうか。加齢による体へのリスクを抱える中高年だからこそ、しっかり学んでおきたい「実態と対策」の最新知見をお届けしよう。
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前編【「ドライアイで“瞬間的な失明”」「スマホ老眼で近くのものが見えないように」 スマホの健康被害について専門家に聞いた】では、スマホを習慣的に使用することによって起こる「スマホ老眼」「ドライアイによる“瞬間的な失明”」について、専門家に解説してもらった。後編では、目以外の場所に起こる「スマホ健康被害」について紹介する。
あなたが手元にあるスマホを使う際、おのずとうつむき加減になってはいないか。同じ体勢を長時間続けることが習慣化すれば、背骨の変形が加速。いずれは「スマホ猫背」となってしまう。
神経障害や脊柱管狭窄症、また圧迫骨折などにつながる要因の一つとされている背骨の変形。恐ろしいのは、心臓や肺が圧迫されて、心肺機能が低下し高血圧を招くこと。また胃や腸などの臓器も圧迫されるので、胃腸障害や逆流性食道炎などのリスクも高まるのである。
清水整形外科クリニックの清水伸一院長によれば、
「若い頃と比べて、高齢者は筋肉も靭帯も関節も固まっているので、スマホ猫背のリスクは高まります。一般的に、高齢者は齢(よわい)を重ねる度に背骨が曲がっていく。そうなると、重心が前に傾きバランスが取りづらくなって、転倒の危険性も上がってしまいます」
腰まで曲がっていく
そうした体の状態を補うため、今度は腰まで曲がっていくというのだ。
「そうなると、股関節や膝関節、足の爪先などにも負担がかかるようになります。背骨のゆがみは全身にさまざまな影響を及ぼすのです」
スマホ猫背が悪化すれば、背骨の胸椎の前には肋骨があるので、体が前後に曲がるだけでなく、左右の横方向にも体がねじれて曲がってしまう。
これが「側弯症」につながりかねないという。
「高齢者の側弯症は重大リスクといってもよいでしょう。体が前後左右に曲がっているので、非常にバランスが取りづらく本当に転倒しやすい。しかも前方に倒れるなら手をつくことができますが、横に回るように倒れると手もつけない。側弯症は特別な自覚症状もないので、背中に痛みを感じたら、時々はレントゲンで検査して、側弯症に移行していないか確認したほうがよろしいかと思います」
「スマホを使う際は、30分に1回ストレッチを」
そもそも筋肉に柔軟性がある若者なら、一日中スマホを使用した後でも、ある程度は背骨が元の状態に戻る。片や高齢者はといえば、すでに筋肉の柔軟性が失われて固まっているため、スマホ猫背が改善することは期待できないというのである。
いったいどうすればいいのか。清水院長に聞くと、
「スマホを使う際は、30分に1回はリセットして、伸びる運動と肩甲骨を動かすのが大事です。胸を張って肩甲骨周りの筋肉を縮めて、再び伸ばすという運動を10回前後くり返す。とにかく同じ姿勢のまま固まらないように動かすことが大切なのです」
スマホを使う際、お手本とすべき姿勢はあるのか。
「目線の高さにまでスマホを持ち上げて使うのがベストですが、それでは腕が疲れてしまって、習慣化することは難しいと思います。体の不調を訴えてくる70代から80代の患者さんたちに聞くと、ほとんどが仕事も運動もしないで一日中ずっとスマホを見ています。そこでスマホの使用時間を減らして、前述した30分に1回のリセット運動を実行してもらうと、背中の痛みが消えたと喜んでいただけたケースもあります」
「最近は60代や70代の方も“物忘れ”で来院」
リタイアしたシニア世代の方が、若者よりスマホに割ける時間は多い。コロナ禍で外出が制限されたことで、スマホの魅力に目覚めた人々もいるのではないか。
その中にはスマホに依存して、心身がむしばまれてしまった人が存在する。
「高齢者こそスマホの依存に対して真剣に取り組まないと、健康被害が大きくなると危惧しています」
そう話すのは、おくむらメモリークリニックの奥村歩院長である。
「ウチは物忘れ専門のクリニックですが、昔は80歳代の本物の認知症患者さんが多かった。ところが、最近は60代や70代の方もたくさん来るのです。例えば70代前半の患者さんは“先生、人の名前もモノの名前も、まったく出てきません”という。試しに米国の大統領とか日本の首相の名を聞いても、本当に思い出せないと言うのです」
検査すると、確かに認知症患者と同じ程度に脳の働きが低下していたという。
「しかし、その方は脳が萎縮しアルツハイマーを発症するほどの状況ではない。話を聞くと『スマホ認知症』が原因になっているのではないかと思ったのです」
脳が疲れて認知機能が低下
「スマホ認知症」とは奥村院長が名付けた造語で、スマホの使い過ぎで脳が疲れてしまい認知機能が低下する状態を指す。
「本当の認知症と違うのは、スマホの使い方や生活習慣を見直せば治ることです。依存症になると、トイレや風呂へ行くにもスマホを持ち歩くようになる。アナログ時代に比べ処理すべき情報量が圧倒的に多くなるので、結果として脳が疲弊する。そうした脳の疲れを取るのに一番効率がいいのは、絶対に睡眠なのです」
長い歴史の中で、人間は大型動物など外敵から身を守るため、脳内物質オレキシンを働かせ、脳を覚醒させることで生き延びてきた。
「大半の人は昼間に一生懸命働いて覚醒状態にあるわけですが、その際に脳内ではオレキシンが大量に分泌されているんです。それが夜になると沈静化して睡眠に誘われるわけです」
「スマホ依存で本物の認知症に」
しかし、スマホを長時間使うと、オレキシンが過剰分泌され、夜になっても満足に眠れなくなってしまう。
「本来、脳は睡眠中に昼間に得た情報を整理整頓してリフレッシュさせているのですが、同時に認知症の最大の原因となる『アミロイドβ』という毒素を分解しています。スマホ依存症になってキチンとした睡眠ができないと、本物の認知症になってしまうのです」
そうした悪循環を断つために、奥村院長は日光浴や簡単なリズム体操を勧める。
「“イチ! ニッ! イチ! ニッ!”と心の中でつぶやきながら、規則正しく散歩やサイクリングをして体を動かす。台所で野菜を切る時につぶやいてもいい。太陽の光を浴びたり規則的に体を動かしたりすると、オレキシンの暴走を止める脳内物質セロトニンが分泌され、夜はぐっすり眠れます」
スマホは酒やたばこと同じく依存性があることを肝に銘じて、上手に付き合うべしと警鐘を鳴らすのだ。
前編【「ドライアイで“瞬間的な失明”」「スマホ老眼で近くのものが見えないように」 スマホの健康被害について専門家に聞いた】では、スマホを習慣的に使用することによって起こる「スマホ老眼」「ドライアイによる“瞬間的な失明”」について、専門家に解説してもらった。
「週刊新潮」2025年3月20日号 掲載
※ 2025/03/23 11:07 デイリー新潮
の掲載記事から引用しました。参考になれば幸いです。
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