体の「コゲ」、糖化を抑える生活習慣とは?

「健康寿命を100歳に延ばす ~日常生活でのコツ~」セミナーレポート(後編)

 

元気で自立した生活を送れる「健康寿命」を延ばす重要なカギとなるのが、老化を加速させるサビ(酸化)、コゲ(糖化)を抑えることだ。日本抗加齢医学会が2023年2月に開催したメディア向けセミナーから、愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授、伊賀瀬道也氏による「健康寿命を100歳に延ばす~日常生活でのコツ~」の内容を2回に分けてレポートする。前編で紹介した酸化に続いて、後編では糖化のメカニズムと、糖化を抑え健康寿命の延伸につながるポイントを紹介していく。

 

 

体の中に蓄積する「コゲ」の正体、終末糖化産物(AGEs)とは?

 

 人生100年時代と言われ、長生きが珍しくない時代になった。しかし、誰もが長寿になるわけではない。また、健康で自立した生活が過ごせる期間(=健康寿命)はできるだけ長くしたいもの。近年は老化研究も進み、老化を加速させる要因も明らかになってきている。

 

 中でも注目されている要因が「酸化」と「糖化」だ。前者はいわゆる「サビ」、後者は「コゲ」などに例えられる。酸化は、前編で紹介した通り、釘が酸化によりサビて茶色く変色するのと同じように、体内の活性酸素により細胞が傷つき細胞の老化が進んでいくことを指す。

 

 もう1つの要素、身体で生じる「糖化」について、愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授の伊賀瀬道也氏はこう説明する。

 

 「人の肋骨の軟骨(肋軟骨)のコラーゲン組織を調べた研究によると、若いうちは色が白いのに、年をとるにつれて少しずつ茶色くなり、65歳以上ではさらに濃い茶色になると言います。これが加齢とともに体の中で増える『コゲ』であり、その成分として重要なのが、終末糖化産物、AGEs(*1)という物質です」(伊賀瀬氏)

 

*1 AGEsはAdvanced Glycation End-productsの略。

 

糖化とは、体内のたんぱく質が糖質と結びつき、そこに体温の熱が加わって劣化するという現象のこと。そして糖化によって生じる物質がAGEsだ。これが体に蓄積するコゲの正体であり、全身の老化が進む要因の1つとして近年注目されている。

 

 各種臓器、皮膚、筋肉など体のほとんどはたんぱく質でできているため、糖化は体の様々な組織で起こりAGEsが蓄積される。認知症や、動脈硬化をはじめとする血管の老化、生活習慣病、腎臓や心臓の病気、骨粗鬆症、神経変性疾患、網膜症、そして血管の老化とも深く関係する糖尿病合併症など、様々な病気の発症リスクが高くなっていくという。皮膚のコラーゲンが硬化して皮膚の老化が起こり、肌にシミやシワが生じるのもAGEsが関与している。

 

 AGEsが増加する要因には、糖質過剰、脂質過剰、喫煙・飲酒、外因性のAGEs(食品からの摂取。詳しくは後述)、酸化ストレスなどがある(下図)。どれも「悪い生活習慣」からくるものばかりだ。

 

 

「糖化は体内にある過剰な糖質がたんぱく質と結びつくことによって起こります。当然、糖質のとり過ぎは糖化を促進させAGEsを増やします。脂質が過剰な状態、飲み過ぎ、そして喫煙も避けたいところです」(伊賀瀬氏)

 

 前編で体のサビ(酸化)を起こす酸化反応について触れたが、この酸化反応は、AGEsが作られる糖化反応の過程にも深く関連することが分かっているという。強い酸化ストレスもAGEsを増やす一因であるため、酸化と糖化の両方を抑える対策が必要となる。

 

「糖化」の言葉通り、AGEsは血糖値と深い関係があり、血糖値が早く上昇するほどAGEsがたまりやすい。血糖値が上がりにくい食べ方を心がければ、AGEsを抑えることにもなる。当然だが、糖質のとり過ぎはNGだ。

 

 食事をする際は食べる「順番」も気にしたい。なぜなら野菜などを先に食べ、糖質を最後にすると血糖値の上昇が抑えられるためだ。理想的なのは、最初に野菜を食べてから、肉・魚などのたんぱく質、最後に糖質を含むご飯やパンなどの主食、と箸を進める順番だ。炭水化物については、血糖値がゆっくり上昇するような雑穀米や玄米を少量食べることをお勧めしたい。「要するに会席料理の順番に近い食べ方です」と伊賀瀬氏。このような食べる順序のルールを守ると、AGEsの増加が抑えられる。

 

香ばしくおいしそうな料理が、体の中に「コゲ」を蓄積させる

 

 伊賀瀬氏は、AGEsを多く含む食品の摂取も控えたほうがいいとアドバイスする。AGEsは体内で生成されるだけでなく、食品にも含まれており、わずかながら体内にも蓄積される。同じ食材を摂取するにしても、調理法によってAGEsの含有量は変化する。具体的には高温で調理された食品のほうがAGEsが多くなる。

 

 食品における糖化を語る上で、避けて通れないのが「メイラード反応」という化学反応だ。「グルコースなどの還元糖と、たんぱく質などのアミノ化合物を加熱すると、褐色物質(メラノイジン)が生まれるという非酵素的な反応が起きます。調理の過程で香ばしい匂いがしたり、おいしそうなキツネ色がついたりするのは、メラノイジンが発生するからです。一流の料理人はメラノイジンをうまく使いこなし、おいしい料理を作っています」(伊賀瀬氏)

 

例えば、玉ねぎを炒めると少しずつコゲて、飴色と呼ばれる茶色に変わってくる。このときに発生するのがメラノイジンだ。「ただし、メイラード反応は食べ物をおいしく、香ばしくすると同時に、AGEsを生み出す反応でもあります。食事由来のコゲであるAGEsをたくさん食べ続けると、体に蓄積し、体の老化を進めるリスクが高くなります」(伊賀瀬氏)

 

 AGEsが多い料理はあまりとり過ぎないほうが賢明だろう。AGEsの含有量は調理法により違ってくるため、調理法も工夫したい。

 

 「下表の通り、90gの鶏むね肉にパン粉をまぶし、油で20分間揚げたときのAGEs含有量は8750KU(キロユニット)です。皮つきで45分間焼く方法(5975KU)、皮なしで15分間焼く方法(5245KU)にすれば少し下げることができます。電子レンジで調理すれば油を使わずに済みますが、皮なしの鶏むね肉を電子レンジで5分間調理した場合でも、1300KU以上になります。揚げ物、焼き物に比べれば少ないとはいえ、ある程度はAGEsの含有量が多くなることが分かります」(伊賀瀬氏)

 

鶏むね肉(摂取量90gの場合)の調理法別AGEs含有量

 

 

(J Am Diet Assoc. 2010;110:911-916.を改変引用)

 

 ゆでる料理にすればAGEs含有量はさらに下がる。皮なしの鶏むね肉を100度以下で15分間ゆでると1000KU以下となる。もっと抑えるなら、生のまま食べれば700KU以下だ。

 

 「AGEsの摂取量は、一般的に1日1万KUを超えないのが望ましいと言われています。パン粉をまぶして揚げるという、いかにもおいしそうな料理にすると、鶏むね肉90gだけでAGEsが9000KUになるので要注意です」(伊賀瀬氏)

 

ちなみに鶏むね肉を同じ量(90g)の豆腐に換えれば、AGEs量をもっと低くすることができる。ソフト豆腐(絹ごし豆腐と木綿豆腐の中間程度の柔らかいタイプ)を生で食べるなら、AGEsはわずか439KUだ。「しかし、ヘルシーだと言われる豆腐でさえ、焼き豆腐にすると4000KU程度まで増加します。やはり焼いた状態の料理はあまり食べ過ぎないほうが良さそうです」(伊賀瀬氏)。もちろん、魚料理でも同じことが言える。刺身や蒸し料理ならAGEsは増えないが、焼き物にするとぐっと増え、揚げ物なら大幅に上昇してしまう。

 

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終末糖化産物(AGEs)を増やさない調理法

 

生 > 蒸す・ゆでる > 焼く > 揚げる

 

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朝食は抜かずしっかりたんぱく質をとり、糖質食は控えめにする

 

 昭和大学の山岸昌一氏らが行った研究によると、AGEsを増やさないためには下表のような生活習慣が効果的だという。

 

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終末糖化産物(AGEs)を増やさない生活習慣

  • 身体活動が多い
  • 禁煙する
  • 十分な睡眠をとる
  • ストレスの低下
  • 朝食をとる
  • 糖質食を控える

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「ウォーキングなどの有酸素運動が中心になると思いますが、まずは無理のない範囲の運動です。それから、タバコは吸わない十分に睡眠をとる。個人差や年齢による違いもありますが、一般的に睡眠は6~7時間程度が適切だと言われています。そしてストレスを減らすこと、朝食をとることも大事です。朝食をしっかりとると、昼食後に血糖値が上昇するのを抑える効果があります(セカンドミール効果)。もちろん、糖質食を少なめにすることもAGEsを増やさないコツとしておさえておきましょう」(伊賀瀬氏)

 

 手軽に始められる運動として、多くの人が取り組んでいるのがウォーキングだろう。ウォーキングをする際、伊賀瀬氏は実践する時間も考慮するといいという。

 

 「ウォーキングをするなら朝でも夜でも良いのですが、『いつ運動するか』も考慮するといいでしょう。ある研究によると、午前中より夕食前の夕方にウォーキングをするほうが、全般的に血糖値を低めに抑えることができると分かっています。ウォーキング自体は良いことなのでぜひ時間を問わず続けてほしいのですが、可能であれば夕方にしたほうがより高い効果が得られます」(伊賀瀬氏)

 

 朝食に関して最近指摘されているのが、たんぱく質をしっかりとることだ。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、18歳以上の男性は1日60~65g、女性は1日50gのたんぱく質を摂取するよう推奨されている。

 

 「1日のうち、朝食でたんぱく質を摂取する割合が多ければ多いほど、体に筋肉がつきやすいという報告もあります。朝食をとること、そして朝食でしっかりたんぱく質を摂取することを心がけるといいでしょう」(伊賀瀬氏)

 

朝食でのたんぱく質摂取量の割合と筋肉量の関係

 

 

朝食におけるたんぱく質摂取量の割合が多くなるほど、筋肉量も増える。(Kim HK, Chijiki H, Fukazawa M, et al. Front Nutr. 2021;8:797004.)

 

 私たちが普通に日常生活を送るだけでも、糖化によるコゲは蓄積するし、酸化によるサビも避けられない。かといって、生の食材ばかりを食べてもいられないし、酸素なしに生きていくこともできない。サビもコゲも、誰もが避けては通れない現象だ。とはいえ、今回、2回にわたって紹介したように、体内でサビやコゲの増加をできるだけ抑えるように工夫することは可能だ。「今回紹介した血管を含む全身の老化を少しでも遅らせるルールを、人生100年時代を生き抜くコツとして実践してほしいと思います」と伊賀瀬氏は話す。

(図版制作:増田真一)

 

伊賀瀬道也(いがせ みちや)氏
愛媛大学医学部附属病院 抗加齢・予防医療センター長/愛媛大学大学院医学系研究科 抗加齢医学(新田ゼラチン)講座 教授


1991年愛媛大学医学部を卒業後、同大学第二内科(循環器内科)、1993年公立学校共済組合近畿中央病院循環器内科、1999年愛媛大学大学院・医学博士号取得、2003年米国ノースカロライナ州ウェイクフォレスト大学高血圧血管病センター・リサーチフェロー、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長を経て、2019年より現職。近著に『100歳まで生きるための習慣100選』(飛鳥新社)がある。
 

 

※ 2023/4/6 日経 Gooday 田中美香=医療ジャーナリスト

の掲載記事から引用しました。参考になれば幸いです。

 

 

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