便秘は「寿命を削る病気」「脳卒中のリスクが」 男性も要注意の便秘の完全予防策
中高年の寿命を削る「便秘」予防策とは
がん、脳梗塞、肺炎。これらの命を奪う病気と比べると、便秘などというものは取るに足らず、場合によっては「病気」として認識すらされていないかもしれない。だが、しかし……。たかが便秘にあらず。それは確実に中高年の寿命を削る「死に至る病」なのだ。【高野正太/大腸肛門病センター高野病院理事長】
便秘ごときで……。
下(しも)の話は何となくはばかられることもあるせいか、便秘で病院にかかるのを躊躇(ためら)う人は少なくありません。便が出ないくらいで、お医者さんの世話になるなんてとんでもない。便秘程度のことは自分で何とかするものだ、と。
しかし、慢性的な便秘は医師の診察を必要とするれっきとした病気です。とりわけ、中高年にとってはとても深刻な問題といえます。なぜなら、「便秘ごとき」が寿命を削ってしまうからです。
〈こう警鐘を鳴らすのは、「大腸肛門病センター高野病院」理事長の高野正太氏だ。大腸と肛門の病気を総合的に治す専門病院である同院などで長年、研究・治療を続けてきた「便秘対策のプロ」である。
たしかに「1日、2日、便が出ないくらいで死ぬわけでもなし」と、“たかが便秘”扱いされている感は否めず、「便秘は病気」との認識を持っている人は決して多くあるまい。
だが高野氏によれば、近年、便秘がもたらす弊害に関しての研究がさまざまに進み、便秘を「死に至る病」の一つとして捉える見方が広まっているという。〉
便秘の人の10年生存率は…
健康の原点は「食べて出すこと」。食事という「入り」があるのに便という「出」がなければ、体が変調を来すのは当然のことです。
極端な例ではありますが、便秘がひどくて便が固まり過ぎてしまい、内視鏡でポリープを切る時に使うワイヤーを用いて、便を切り刻んで何とか取り出したというケースもあります。
にもかかわらず、「便秘ごとき」「たかが便秘」との認識はまだまだ根強いものがあるように感じます。そうした人に向けて、まずは便秘に関するさまざまなデータを紹介したいと思います。
米国ミネソタ州で約4000人を対象に行われた追跡調査では、便秘を報告しなかった人の10年生存率は85%であったのに対し、便秘を報告した人の10年生存率は73%にとどまり、実に12ポイントもの差が出ました。その後も継続して行われた同調査では、便秘の人はそうでない人よりも20%以上亡くなっている人の数が多いとの結果も報告されています。
「寿命を削る病気」
また、東北大学の研究者らによる「大崎国保コホート研究」という4万5000人超を対象にした大規模疫学調査では、排便頻度が「1日1回以上(A)」の人と比べて、循環器疾患で死亡するリスクは「2〜3日に1回(B)」の人で1.21倍、「4日に1回以下(C)」の人で1.39倍だったとの結果が出ています。中でも、脳卒中による死亡リスクに関して言えば、Aの人よりもBの人は1.29倍、Cの人に至っては1.90倍と、2倍に迫ることが判明しています。
これらのデータから、便秘は「たかが便秘」などと甘く見ることはできず、「寿命を削る病気」であることは疑いようがありません。では、なぜ便秘は寿命を縮める恐れがあるのでしょうか。
要因は「老化」
便秘、つまり便が出にくい状態になると、便を出そうとして強くいきみます。「いきみ」を医学用語では「怒責」と言いますが、いきみ過ぎることは体にさまざまな悪影響を及ぼし、例えば呼吸が乱れるため肺に負担がかかり、呼吸器疾患を悪化させることにつながります。
特に中高年にとっては、いきむことは致命的なダメージをもたらす危険性があります。いきむと血圧や心拍数が急激に上がりますが、中高年は加齢に伴い血管のしなやかさが失われているため、いきんだ時の血管や心臓への影響が大きく、脳卒中や心血管疾患などを引き起こす恐れが高くなるからです。実際、救急搬送された患者の11%はトイレで倒れた、という救急救命センターの報告もあります。
デンマークの研究では、便秘の症状がある人は、便秘のない人と比較して、心筋梗塞になるリスクが1.24倍、虚血性脳卒中が1.50倍、出血性脳卒中が1.46倍だったとの結果も出ています。
このように、とりわけ中高年にとっては便秘が招く強いいきみは、「いきみごとき」「たかがいきみ」とは言っていられません。さらに厄介なのは、中高年は強くいきむことをより避けるべきなのに、若い人と比べてより便秘になりやすい、つまり強くいきまなければならない事情を抱えていることです。高齢になればなるほど便秘リスクは高まるのです。なぜなら、便秘をもたらす要因の一つは、大雑把に言えば「老化」だからです。
中高年が便秘になる理由
排便しようとする時、私たちはお腹に力を入れます。すると、骨盤内にある骨盤底筋が自然と緩み、便が排出されます。これを排便協調運動(骨盤底筋協調運動)と言います。一般的に、年を重ねると排便協調運動がうまくできなくなっていき、骨盤の筋肉が緩むのではなく逆に固まりやすくなる。すると、便の通り道が塞がれ、便が出にくくなり、便秘につながるのです。
また、何もしないと加齢とともに筋肉量は減っていくため、便を押し出そうとするお腹周辺の筋肉の力も落ち、便を出しにくくなる。これも中高年が便秘になりやすい要因です。
さらに、やはり加齢によって直腸肛門の感覚が鈍くなるので、便が直腸に到着していることに気付かず、便がたまり、便秘を招いてしまいます。
男性も要注意
排便を促す腸の蠕動(ぜんどう)運動が起きる時、自律神経は副交感神経が優位になっています。つまり、リラックスしている状態で蠕動運動は起きるわけです。旅行に行くと便秘になるという人がいると思いますが、これは旅先で環境が変わり、副交感神経が優位になりにくくなっていることが影響しています。年を重ねていくと、普段から自律神経の働きが乱れやすくなるので、このことも中高年が便秘になりやすい要因になっています。
その他、高血圧対策としてのカルシウム拮抗薬や、うつ病のために抗コリン薬を服用すると腸の蠕動運動が低下すると指摘されていて、薬を飲む量や種類が増えがちな高齢者は、この点でも便秘になりやすいリスクを抱えています。食事量が減ることなども、加齢に伴う便秘リスクです。
なお、便秘というと女性がなりがちなイメージが強いかもしれませんが、実は男性も50歳ごろから増え始め、75歳以上になると便秘有訴者の割合は女性より男性の方が多くなります。そして、男女合わせた便秘有訴者の割合は75歳以上で9.59%と、10人に1人近くになります。
それでは、老化が大きな要因の一つである便秘をどう防げばよいのでしょうか。
やや前傾姿勢
まずは「習慣づけ」です。例えば、腸の蠕動運動が一番強くなるとされる朝食後に、便器に座っていきんでみる。加えて就寝前にもう一度。1日2回くらい便器に座って排便しようと習慣づけることをお勧めします。とはいえ、先ほど説明した通り、過度のいきみはさまざまな弊害をもたらす恐れがあるので、せいぜい1分程度にとどめてください。
また、便が出やすい姿勢として、一番よいのは和式スタイルです。直腸が真っすぐになって便が出やすくなり、同時にいきみやすい姿勢でもあるからです。
しかし現在、多くは洋式トイレになっています。では、洋式トイレで排便する際に最も便を出しやすい姿勢とはどんなものでしょうか。私たちが検証を重ねた結果、ロダンの彫刻「考える人」のポーズが、最も排便しやすい姿勢といえます。
具体的には、便座に腰かけてやや前傾姿勢を取る。太ももと前傾させた上半身の角度が50度くらいになるのがベストです。この姿勢だと、やはり直腸が真っすぐになって排便がしやすくなります。それでも出にくいという人は、足を乗せる台を用意するとよいでしょう。さらにいきみやすくなり、直腸圧の増加率が高まるという検証結果が出ています。
温水シャワーの問題点
一般家庭の8割に広まっている温水洗浄便座の温水シャワーの刺激を、浣腸の要領で排便に利用している人もいます。たしかに刺激によって排便が促されるかもしれませんが、使い過ぎると感覚が麻痺してしまい、いくら温水シャワーの水圧を利用しても便が出ないという事態になりかねませんので要注意です。
また、温水シャワーの使い過ぎは肛門にも悪影響を及ぼすことがあります。肛門の皮膚は油分を含んだ膜で守られているのですが、強い勢いで温水シャワーを1〜2分肛門に当て続けると、膜が飛んでしまい皮膚がむき出しになってしまいます。その結果、肛門周辺の皮膚に湿疹が出たり、肛門の皮膚が滑らかに伸び縮みしにくくなったりして、排便を邪魔する恐れがあるのです。
病名が付くまでに
さらに、温水シャワーはお尻を洗ってくれる「きれいなもの」という印象があるかもしれませんが、温水シャワーを出すノズルは便のかすなどが付着していて汚れていることも多く、清潔とは言い切れません。ですので、特に強い勢いで長い時間使うのはお勧めできません。温水シャワーの使い過ぎによる諸症状には、いまでは「温水洗浄便座症候群」という病名が付けられています。
排便を促すトレーニングとしては、血液循環が良くなり、腸管の動きも促されるウォーキングが基本ですが、歩きさえすれば快便になるというわけでもありません。
漬け物と納豆
そこで、私たちが病院でお勧めしているのは「ねじり運動」です。文字通り体をねじる運動ですが、腸管を刺激し便秘の改善・予防に役立ちます。また、ねじり運動には体幹筋、とりわけインナーマッスルを鍛える効果もあり、直腸圧が上がることでも排便力が増します。
具体的には、二つのねじり運動を試してみてください。片足を前に出して上半身をねじる運動と、仰向けになって腰をねじる運動です。後者のねじり運動の際に、脇腹に手をあててもみほぐすと、腸を直(じか)にマッサージしている感覚が得られてより効果的です。
便秘対策には「入り」である食事も大切です。加齢とともに腸内環境も乱れやすくなるので、それを改善することが快便のためには重要となってきます。腸内環境のバランスを整えるには、腸に有益な細菌であるプロバイオティクスと、その餌となるプレバイオティクスの二つが重要で、あわせてシンバイオティクスと呼ばれています。シンバイオティクス、すなわちプロバイオティクスとプレバイオティクスを同時に摂取することが腸内環境の改善に役立つのです。
プロバイオティクスを含む食品としては乳製品や漬物、プレバイオティクスを含む食品には海藻類や、食物繊維の豊富な野菜や果物などがあります。例えば「ヨーグルトとキウイ」、あるいは「漬け物と納豆」という組み合わせは、最強のシンバイオティクスの一つといえるでしょう。
発酵食品の取り過ぎに注意
ただし、発酵食品は取り過ぎるとカンジダ菌という菌を増殖させ、その菌の型が変化して腸壁を傷つけ、腸内の免疫系がうまく働かなくなる恐れがあります。最強のシンバイオティクスにしても、週に1〜2回にとどめ、バランスの良い食事に努めるのが基本です。例えば、芋やゴボウは食物繊維が豊富だから便通によいといわれますが、多く含まれているのは不溶性の食物繊維なので、そこに便が絡まって便秘につながってしまうこともあります。やはり、何事もバランスが肝心です。
これまで説明してきたような便秘対策を自分で実践しても便秘が改善しない。あるいは自己流の便秘対策があり、これまでは効果があったのにそれが効かなくなった。その場合は、迷わずに専門医に診てもらってください。
恥ずかしいなどと二の足を踏んでいる場合ではありません。なにしろ便秘は、「便秘ごとき」ではなく、確実に寿命を削る病気なのですから。
高野正太(たかのしょうた)
大腸肛門病センター高野病院理事長。1970年生まれ。東京医科大学医学部卒業。専門領域は肛門科、大腸肛門機能科。米国Cleveland Clinic Floridaで肛門領域の診療を学ぶ。2024年の秋より、大腸・肛門病の専門病院である「大腸肛門病センター高野病院」の理事長を務める。『シニアの便秘は寿命を縮める』などの著書がある。
「週刊新潮」2025年1月23日号 掲載
※ 2025/01/26 11:06 (デイリー新潮)
の掲載文章から引用しました。参考になれば幸いです。
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