知っておきたい認知症の基本

 

年齢にかかわらず誰もがなり得る認知症について、一人ひとりが「自分ごと」として理解する必要があります。認知症になってからも、本人の意思が尊重され、住み慣れた環境で自分らしく暮らし続けることができるよう、認知症や認知症の本人についての理解を深めることが大切です。


そもそも、認知症とは?どんな症状が出るの?症状が出たらどうすればいい?家族や周囲は、本人とどう接したらいいの?困ったときに気軽に聞ける相談先は?そのような疑問にお答えします。

 

1認知症とは?

 

「認知症」とは、様々な病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に変化し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障を来した状態をいいます。

 

我が国では高齢化の進展とともに、認知症と診断される人も増加しています。65歳以上の高齢者を対象にした令和4年度(2022年度)の調査の推計では、認知症の人の割合は約12%、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI※)の人の割合は約16%とされ、両方を合わせると、3人に1人が認知機能にかかわる症状があることになります。なお、軽度認知障害のかた全てが認知症になるわけではありません。

 

また、65歳未満で発症する認知症は、「若年性認知症」と呼ばれます。若年性認知症の発症年齢は平均54歳と若く、女性が多い高齢者の認知症と違い、男性が女性より少し多いという傾向があります。今日、認知症は、誰もがなり得ると考えられています。

 

※MCI=Mild Cognitive Impairment記憶障害などの軽度の認知機能の障害が認められるが、日常生活にはあまり支障がないため、認知症とは診断されない状態。MCIの人のうち年間で10%から15%が認知症に移行するとされている。

65歳以上の高齢者における認知症の現状(令和4年(2022年)時点の推計値) 

 

資料:厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」から政府広報室作成

 

「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い

 

年をとれば誰でも、思い出したいことがすぐに思い出せなかったり、新しいことを覚えるのが苦手になったりしますが、このような「加齢によるもの忘れ」と「認知症」は違います。

 

加齢によるもの忘れ

  • 体験したことの一部を忘れる。
  • 例)朝ごはんを食べたことは覚えているがメニューが思い出せない。
  • もの忘れの自覚がある。
  • 症状は極めて徐々にしか進行しない。

認知症によるもの忘れ

  • 体験したことの全てを忘れている。
  • 例)朝ごはんを食べたこと自体を忘れている。
  • もの忘れの自覚がない(初期には自覚があることが少なくない)。
  • 症状は進行する。

※ここに挙げたものは一例です。


また、認知症とよく似た状態(うつ、せん妄)や、認知症の状態を引き起こす体の病気も様々あるため(甲状腺機能低下症など)、早期に適切な診断を受けることが大切です。

 

認知症の主な種類

 

認知症の種類について代表的なものは、次のとおりです。

 

アルツハイマー型認知症

 

長い年月をかけて脳内にたまったアミロイドβ等の異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳に萎縮が起こるアルツハイマー病が原因となり発症する認知症です。初期では、昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。徐々に進行し、やがて時間や場所の感覚がなくなっていったり、状況に応じた判断が困難になったりします。

 

血管性認知症

 

脳梗塞や脳出血によって一部の神経細胞に十分な栄養や酸素がいき渡らなくなる脳血管障害が原因となり発症する認知症です。高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主な危険因子です。脳血管障害が起こるたびに段階的に進行します。また、障害を受けた部位によって症状が異なります。

 

レビー小体型認知症

 

「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質が脳内を中心に蓄積しながら、神経細胞が破壊されるレビー小体病が原因となり発症する認知症です。現実には見えないものが見える幻視や、手足が震えたり筋肉が固くなったりといった症状が現れます。歩幅が小刻みになり、転びやすくなります。

 

前頭側頭型認知症

 

脳の前頭葉や側頭葉で、神経細胞が減少して脳が萎縮する前頭側頭葉変性症が原因となって発症する認知症です。感情の抑制が効かなくなったり、社会のルールを守れなくなったりといったことが起こります。

 

2認知症の初期症状は?

 

認知症ではないかと思われる言動として、以下の例が挙げられます。思い当たる言動が複数ある場合は、認知症の初期症状かもしれませんので、専門医や専門家にご相談ください。

 

もの忘れがひどい

今切ったばかりなのに、電話の相手の名前を忘れる。

同じことを何度も言う・問う・する。

しまい忘れ置き忘れが増え、いつも探し物をしている。

財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う。

 

判断・理解力が衰える

料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった。

新しいことが覚えられない。

話のつじつまが合わない。

テレビ番組の内容が理解できなくなった。

 

時間・場所がわからない

約束の日時や場所を間違えるようになった。

慣れた道でも迷うことがある。

 

人柄が変わる

些細なことで怒りっぽくなった。

周りへの気づかいがなくなり頑固になった。

自分の失敗を人のせいにする。

「このごろ様子がおかしい」と周囲から言われた。

 

不安感が強い

ひとりになると怖がったり寂しがったりする。

外出時、持ち物を何度も確かめる。

「頭が変になった」と本人が訴える。

 

意欲がなくなる

下着を替えず、身だしなみを構わなくなった。

趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった。

ふさぎ込んで何をするのもおっくうがり、いやがる。

 

出典:公益社団法人認知症の人と家族の会「家族がつくった「認知症」早期発見のめやす」 

 

3認知症かな?と思ったら

 

認知症の早期診断・早期治療につなげるために、自分自身のほか、家族・同僚・友人など周りの人について「もしかして認知症では」と思われる症状に気付いたら、一人で悩まず専門医や専門家などに相談しましょう。

 

新しい治療薬について

 

近年は、アルツハイマー病の要因とされる脳内のアミロイドβを取り除いて、アルツハイマー病による軽度認知障害と軽度の認知症の進行を遅らせることが期待される抗アミロイドβ抗体薬による治療も行われています。薬の使用に当たっては、投与が適切か様々な観点から検査・診断が必要になりますので、まずはかかりつけ医や専門外来を受診しましょう。


なお、抗アミロイドβ抗体薬の処方に関する相談や診断が可能な医療機関は、厚生労働省「アミロイドβ抗体治療薬にかかる新たな相談・医療体制」で調べることができます。

 

認知症に関する主な相談先

 

認知症に関する主な相談先は次のとおりです。

 

地域包括支援センターなど 

 

以下のウェブサイトから、市町村などに設置されている地域包括支援センターなどの認知症に関する相談窓口を検索できます。
厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」」

 

かかりつけ医

 

適切な専門医療機関への受診を誘導してもらうため、日頃から受診しているかかりつけ医に相談しましょう。

 

医療機関のもの忘れ外来

 

かかりつけ医がいない場合は、医療機関のもの忘れ外来を受診する方法もあります。下記のウェブサイトからお近くの外来を検索できます。
公益社団法人認知症の人と家族の会「全国もの忘れ外来一覧」

 

認知症の人と家族の会

 

公益社団法人認知症の人と家族の会 0120-294-456

 

※受付時間:午前10時から午後3時
(月曜日から金曜日。ただし祝日を除く。)
※携帯電話・スマートフォンの場合は050-5358-6578(通話料有料)


このほか、SNSを使った無料の電話相談も受け付けています。詳しくは、「認知症の人と家族の会」ウェブサイトまで。

 

認知症の人やその家族を支える地域の取組

 

各市町村ごとに、認知症の始まりから人生の最終段階まで、容態に応じ、相談先や、「いつ」「どこで」「どのような」医療や介護サービスが受けられるのかについて、流れを標準的に示した「認知症ケアパス」があり、市町村のウェブサイトに掲載したり、冊子として配布しています。

 

「認知症ケアパス」には、認知症の人や家族が情報交換をしたり、日頃の悩みを分かち合える交流の場についても紹介されており、その一つに、認知症カフェがあります。

 

認知症カフェ

 

認知症カフェは、各地域の介護や福祉の専門家が運営する、認知症について気軽に相談できる場所です。公共施設の一室やカフェの一角を利用して開催されることが多く、認知症の人やその家族、地域住民、支援に関わる人など、誰でも利用できます。早期診断後の、何も支援がない「空白の期間」を満たし、認知症の人の孤立を防ぐ役割も果たしています。

 

また、認知症カフェ以外にも、認知症当事者による相談支援を行う「ピアサポート」や認知症の人同士が中心になって話し合い発信をする「本人ミーティング」などの取組があり、全国各地で行われています。

 

それぞれの詳細は、お住まいの地域の高齢者福祉担当部局や地域包括支援センターなどにお尋ねください。

 

4若年性認知症の人へのサポートは?

 

65歳未満で、認知症を発症した場合、就労に関することや経済的な負担、育児の問題など高齢者と異なる課題が多くみられます。そのため若年性認知症の人を対象とした専門的なサポート制度も利用することができます。

 

厚生労働省「若年性認知症ハンドブック」

 

5認知症の予防

 

今日の我が国が推進する認知症の予防への取組における「予防」の意味は、認知症にならないということではなく、認知症になるのを遅らせる、認知症になっても進行を緩やかにするということです。


認知症の多くを占めるアルツハイマー型認知症や血管性認知症は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)との関連があるとされています。

例えば、バランスの良い食事を心掛け、定期的な運動習慣を身に付けるなど、ふだんからの生活管理が認知症のリスクを下げると考えられています。

 

コラム1:新しい認知症観

 

令和6年(2024年)1月、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らせる社会の実現を目指すため「認知症基本法(正式名称:共生社会の実現を推進するための認知症基本法)」が施行されました。


同年には、政府は認知症基本法に基づき、認知症に関する施策を進めていくための認知症施策推進基本計画を取りまとめ、その中で、認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人ひとりができることや、やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという「新しい認知症観」を示しました。

 

認知症の人を単に支える対象としてとらえるのではなく、認知症の人を含めた国民一人ひとりが、その個性と能力を十分に発揮しながら、共に支えあって生きることが重要です。

 

コラム2:「認知症希望大使」の活躍

 

認知症の本人が、自分らしく前向きに生きる姿を自ら発信する「希望大使」の活動を知っていますか?厚生労働省では、令和6年(2024年)時点で、40代から80代の7名の認知症のかたを希望大使として任命しています。

 

希望大使は、講演会などでの普及啓発活動や国際的な会合への参加のほか、メッセージ動画の発信などの取組を行っています。


自らの体験や思い、周囲の人とのつながりや毎日の工夫など、それぞれの大使が語るメッセージは、認知症の人への理解を深めることにつながっています。

 

まとめ

 

認知症について、自分ごととして理解し、自分自身や家族が認知症であることを、周囲に伝え、自分らしい暮らしを続けていくためにはどうするべきか、一緒に考えていきましょう。

 

(取材協力:厚生労働省 文責:内閣府政府広報室)

 

 

※ 2025年1月16日  政府広報オンライン

の掲載記事から引用しました。参考になれば幸いです。

 

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