大学時代を本州で過ごし、そこを卒業して、

北海道の東にある港町に戻るための汽車に

乗り、余り好きではなかったその故郷の町の

駅に着いて、汽車から降りて、その駅を出た

瞬間に、地元の人がゴメと呼ぶカモメの鳴き声が聞こえて来た。子供の頃から、聞きなれていたその鳴き声に、ようやく故郷に帰って来たという実感がわき、安堵に包まれた。それは子供の頃からあったごく普通の光景だったからだ。


私が生まれ育ったその町の主要産業は、農業と漁業。故に町の郊外には、雄大な田園地帯が

広がり、防風林が続いていた。北海道の特に港町は、風が強いからである。今は建築技術も進んだから、ほとんど見かけなくなったが、昔は

屋根が風で飛ばされないように、トタン屋根の上に石を乗せてた家もあり、世界遺産で有名な知床の羅臼では、まだそんな家は残っているようだ。


さて私が高校生の時に建てられた現在私が住む

家は、崖の上にあるために、遮るものはなく、とても風通しが良い。時にはその風により、建物が振動することもあり、幼い頃に母の帰りを待っていて、激しい風の音にも心震えたことがトラウマになり、今でも同じような状況に陥る

瞬間があるし、海岸沿いに住む人々は、その

潮風のために、愛用してる車は錆び付き、屋根のトタンも張り替えたり、何度もペンキを塗り直す必要がある。


私の父は漁師だったから、その風向きにより、天候を察知することが出来たが、よくだし風等という業界用語を用いていたようだ。また私が住む町から、車で30分ほどの所にゴルフ場があり、水商売やどこかの企業の経営者等の富裕層が、常連として、ゴルフを楽しんでいるが、風の方向に従い、その飛距離も左右されるようだし、小さな船で魚や昆布等を取る漁師らは、

浜で取れた昆布を、海辺の石が敷き詰められたエリアで干すのだが、風がそれらを干す役割を

担っている。それは水分を失くせば、昆布自体が軽くなることと、処理が簡単だからだ。


街路樹の葉を落とし、時には被ってる帽子を飛ばす風も、こんな風に生活の役に立っているのである。そして風の猛威を痛感するのは、何と

言っても真冬である。ブリザードと言い、吹雪が酷くなり、滑りやすいアイスバーンの道、

視界がないほどに吹き荒れる雪と強い風が、 

吹く瞬間は、いかにも北国を思わせる。


今年は9月頃から、秋風が吹き始めた。早い所では、コスモスが咲き、夏の終わりを感じさせた。木々も徐々に色づいており、風も益々冷たくなるだろうが、それがいかにも港町らしいと思う今日この頃である。