大学までは、比較的異性関係は、奥手だった。
それは中学の頃の片思いが、原因だった。
初めて恋愛らしい体験をしたのは、二十代半ば
通い始めた教会で出会ったイケメンの教師に、
魅了された。だから教会に行く度に、彼の姿を
探したものだ。当時はその教会には、温和で、
寛容的な牧師を慕って、数人の若者が、よく
教会を訪れていたが、彼もその一人だった。
私から、聖書を共に学ばないかと誘い、礼拝
以外でも、彼に会う機会が増えた。その学びの
後は、いつも町の繁華街にあった喫茶店で、
コーヒーを飲みながら、語り合った。
いつだったか忘れたが、あるお食事処に一緒に
行った時に、彼から東京にいる友達のことを
告げられた。女の勘でその友達は女性で、彼との関係が深いのではないかと、想像された。
彼は何気なく話したつもりだったのだろうが、
後にその頃彼が、その女性と遠距離恋愛を
していて、彼女と離れていた淋しさから、私に
接近したことを、知らされた。私は男として
彼を意識していたが、しばらくは平然と振る舞っていた。本命の女性よりも、長く一緒に
いたにも、関わらず、彼は私の心情には、全く
気づかなかったのである。彼自身は、友達という言葉で、それがいかにも男性であることを、匂わせていたが、何度か彼が住んでいたアパートを訪れる度に、机に飾られていた
恋人の写真が、目につき、彼は本命と自らの孤独を埋めるために、接触してきた私との間を
時計の振り子のように、揺れていた。そして
後日ある喫茶店で、彼からその女性と結婚
することを決めたと告げられ、私はショックで
うなだれてしまった。もしその女性と別れて
くれたならと、願っていたけれど、彼の心には
いつもその女性がいたのだ。だから祝福する
気持ちには、なれるはずもない。その瞬間に、
彼は初めて、女としての私の思いに、気付いた
ようだった。そして大学時代の友人に、その
ことを相談したらしく、彼等から、その恋人の
ことは、私には話さないようにと、忠告されたらしい。
しばらくはその衝撃で、放心状態だったし、
彼が病んで、故郷の町に帰る前に会った時に
[貴女は一人で、生きられる。でも彼女は、僕が
いないと、駄目なんだ。]と、決定的なことを、
言われた。彼は私が、それまで強く見せていた
ことを、知らないのだと感じたし、私の心すら
見ていなかったと、痛感した。やりきれない
思いも残り、彼と共に人生を歩めたらという
憧れも、これで幻になった。彼との関係が
絶たれて、初めて恋を諦めるという体験を
した。生来諦めることが、嫌いだったから、その現実は、心に痛かったので、その後しばらくは、意識的に男性との出会いは避けた。
しかし今では、お互いにパートナーとも別れて
一人暮らしをしているし、私の人生にはかけがえのない友人である。一時的に彼との別れを、
経験して、それを乗り越え、お互いに辛い
経験を重ねてきたから、程好い距離感で、
付き合えるのではないかと、思っている。
だから若くて、経験不足故に、苦しかった失恋も、私には人生の糧には、なっていると思えるし、男と女という関係を越えたソールメートで
ある彼を、これからも大事にしたいと、思っている。