台湾映画「オールド・フォックス 11歳の選択」を観た。
これは私の感受性の問題なのだけど・・・
私はこれまで、台湾映画に苦手意識があった。
観てる途中でウツラウツラしてしまったり、観終わって少ししたら何も思い出せなかったり、だった。
ハリウッド映画ほどわかりやすくないし、
抒情的と言われればそうだけど、
「誰が、どうして、どうなった」がはっきりとわからなくて、ストーリーが追えなくなることもしばしば。
(居眠りしてるからだよ!)
「抒情性」の方向としても、
ヨーロッパ映画の抒情性ならまだ馴染みがあるけど、台湾映画は年齢がいってから観始めたからなのか、なかなか慣れなかった。
「台湾が好き」だから応援の気持ちで観る、
という謎の上から目線で鑑賞していた。
が、この映画を観て、印象が一変。
台湾映画に対する、私の第三の目が開かれた。
つまり、とても面白かった!
以下のあらすじや感想は、ネタバレありです。
あらすじ
公式HPより↓
台北金馬映画祭で4冠を達成した感動のヒューマンドラマ。
台北郊外に父と二人で暮らすリャオジエ。
コツコツと倹約しながら、いつか、自分たちの家と店を手に入れることを夢見ている。
ある日、リャオジエは“腹黒いキツネ”と呼ばれる地主・シャと出会う。
優しくて誠実な父とは真逆で、生き抜くためには他人なんか関係ないと言い放つシャ。
バブルでどんどん不動産の価格が高騰し、父子の夢が遠のいていくのを目の当たりにして、リャオジエの心は揺らぎ始める。
図らずも、人生の選択を迫られたリャオジエが選び取った道とは……!?
感想 ・ ネタバレあり
物語の前半、
父タイライと息子ジエの生活が温かい。
お互いが大好きで大切に思いあって。
周りの人(不動産屋のキレイなお姉さんや近所の人)にも愛されて、つましいけれど、そこには実感できる生活がある。
お金を貯めるために、
謎のガス代節約法を試したり、勤務先のレストランの残った料理を持ち帰って一緒に食べたり。
器用なお父さんは何でも手作り。
作りかけの白い上着を息子の身体にあてて確認しながらミシンを踏むシーン、ほのぼの。
「おいで」と言われて、嬉しそうに腕を広げて立つジエ、愛おしい。
ジエは11歳。
この頃の年齢って可愛い。
大きくなってきて、照れもあるんだけど、
まだまだお父さんが大好き。
この可愛さがずっと続きますように、と祈るような気持ちになる。
でも、不動産価格の高騰を背景に、
二人の共通の夢で、絆の象徴だったはずの「家を買って店を持つ」という目標が、だんだんとその姿を変えてゆき、親子の間に隙間を作り始める。
つらい・・・。
そして、強く頼れる成功者としてシャ社長が現れ、ジエに「他人のことなど考えるな」「思いやりを持つな」と教える。
絶対に家を諦められないジエには、優しく誠実な生活者のタイライが弱く思え、シャ社長に惹かれていく。
強者と弱者。
勝ち組と負け組。
ジエの幼い自我と葛藤。
その一方で、不動産屋のキレイなお姉さんや近所の人、それから門脇麦さん演じるタイライの幼馴染みの周辺にも、だんだんに不穏な空気が立ち込め始める。
と、一気に緊張が高まり、それまでの温かな世界が壊れ、その裂け目から非情な何かが流れ出すように物語が走る。
そのアンコントロールな感じがすごくて、スクリーンから目が離せなくなる。
きっと、私が暮らすこの世界も、実はもろいもの。
何かのきっかけがあれば、穏やかな日常は去り、醜く、恐ろしい存在に屈服させられる。
そんな風に思えて、心がヒヤリと冷たくなった。
ジエはどちらの世界で生きることを選ぶのか。
ドキドキしながら、祈るような気持ちでスクリーンをみつめた。
ほのぼのしたり、ドキドキしたり、映画としてとても面白かった。
また門脇麦さんがパンフレットのインタビューでお話しされている通り、「人生に何を望むか、といった哲学的なメッセージを感じる脚本」だと思った。
テーマが明確に伝わってくるし、人物描写もしっかりされている。
登場人物の持つ深みや葛藤が描かれているとも思った。
例えば、強者として描かれるシャ社長も、100%の冷血人間ではないと私は思った。
シャ社長がジエを自宅に招いた際、「負け組だった」とする自分の母親の肖像画がチラリと映る場面があったが、その肖像画は温かく優しい色合いに満ちていた(ように見えた)。
そこに愛情があるからではないか。
大好きだからこそ、「弱く死んでいった母親」が悔しくてしかたなく、その反動によって「嫌いだ」という言葉や態度になるのではないか。
嫌ってるということは、その母親のあり方に執着しているということのように思う。
「だって強くないと生きていけなかったじゃないか!」
「俺は成功したじゃないか!俺が正しいんだ!」
というシャの心の声が聞こえるような気がする。
そして、その心の声は、かつての少年のままのように私には思えた。
この映画を題材に、いろいろ語れそうだ。
例えば、「お金は人を幸せにするか?」、「あなたにとって家族とはどんなものか?」、「信頼とは?」、「人間の愚かさとは?」、「素晴らしさとは?」、「幸せとは?」
登場人物を自分に置き換えて、一言では答えが出ないテーマについて語り、考える、そんなきっかけになる映画だと思った。
余談だけど、シャ社長を演じたアキオ・チェンさんはビートたけしさんに容姿がそっくりだった。
役柄としても、もし日本版が制作されるとしたら、たけしさんが演じるのがピッタリに思えた。
あとは、國村準さんとかもいいかも。
本当におもしろかったので、二回目を観ようか迷ってる。
これからは台湾映画をもっと観てみよう!と思えた映画だった。