28日の昼
昨晩から体調を壊した自分宛に
妻から電話が入った。
深夜3時から陣痛がはじまり
間隔が段々狭まっているとの連絡であった。
玄関にはいつでも連絡が入ったら出れるように
バックパックされた衣装
そして我が子の撮影用機材を置いていた。
ものの30分ほどで足早に準備を整え
車を走らせながら
これから出会う我が子のことを想像して
心は踊っていた。
妻の実家に到着すると
妻の陣痛の間隔は約10分
陣痛の時間は40秒で安定し
1時間ごとに10分から8分
そして5分と次第に狭まっていく。
まだ笑顔が出ている妻
なんとか楽にしようと
いつものたわいもない会話にも
まだ余裕が見えていた。
そして間隔が5分を切ったところで
歩いて3分の産婦人科へ
産婦人科に入ると
すぐに検査を行い
個室の病室へ
その間にも陣痛は狭まり
先程までの余裕が無くなってきた妻
その後、約3時間ほど
病室内にいたが
助産婦さんが内見をした結果
少々早めではあるが
分娩室へと向かう

いよいよ出産開始
思えば
この出産にあたり
僕は、大きな大きな大切な約束を
大切な人にしてきた
妻のお父さんが他界する直前
病室でお父さんとふたりになった時
「元気で健康な子供を生ませる」
と、お父さんに強く約束した
亡き兄に
闘病生活の時に
どんなことをしても直してやる
他界するときに
またどこかで会おうと
と心に深く約束した
今の自分は
何としても五体満足な子供を産ませること
それ以上に望むものは一切なかった
分娩室で次第に陣痛の増す妻
出産に必要な出口幅は10CM
心音計からは我が子の心音が分娩室に響く

助産婦さんが分娩室に入ってから約3時間
出口幅の進行具合が少々遅いことを伝えてくれた
8CM あと2Cm
そして1時間後
9Cm
あと1CM
その頃
丁度妻が分娩室に入るタイミングで
隣の部屋で検査をしていた
妻より出産の促進が遅かったはずの方が
強い陣痛とともに部屋に戻ってきて
無事出産
よかった
と思う反面
妻にもプレッシャーが感じ取れた
そんな中
妻も次第に出産真近へと近づく
しかし
ここから進行が弱まり
通常10Cm開かなくてはいけないものが
9.8Cmでストップ
ここで助産婦は
自然分娩の為に
破水を促す処置を行う
しかし
破水して陣痛が促進されなくてはならないはずなのに
陣痛が止まり
我が子の心音が低下ぎみ
これを監視していた医師が現れ
現状に関しての説明をされる
陣痛開始からの我が子の出産ペース
そして妻の体力を考えても
促進剤の投与
そして
吸引、鉗子による出産を視差した提案をしてきた

もう既に分娩室で7時間が経過
妻の体力にも
疲労が見られ
脈なども乱れぎみ
そして何よりも
我が子の脈も荒れている
しかし
吸引も鉗子も
3回やってダメなら
緊急帝王切開も余儀なくされる状況
そして吸引をした際のリスク
鉗子のリスクなど
医者からの説明を受けているときに
難産であるということを強く感じた
助産婦さん、医師の表情は
はじめに比べて笑みがない
その状況は
放心状態である妻以外
全員が共有していた
妻の
会陰裂傷、膣壁裂傷、頚管裂傷、尿道膀胱裂傷、出血
我が子の
分娩損傷、頭血腫、帽状腱膜下出血、産瘤が大きくなる、頭蓋内出血
妻へのリスク、我が子へのリスク
いろんなことが葛藤した
お父さん
僕は健康な子供を産ませられないかもしれない
兄貴
俺またなんもできないよ
また救えないよ
僕は貴方のあだ名を託す
我が子を救えないかもしれない
何故なら
妻への影響が一番リスクのないものを
選ぶと決めていたから
でも本音は
妻も我が子も無事でいて欲しい
スマートフォンで時間の無い中
とにかく検索しまくった
そして吸引を選択し
いよいよ出産へと入る
助産婦さんに
出産シーンは見れないと言われたが
医師の横で
無理矢理見物する
そして吸引を開始
がしかし
吸引器は見事に外れ
スタッフ全員の顔が曇る
まったく動いていない。。。
何故だろうと悩む医師
そして2回目
多少の動きを見た医師が
状態は
通常子供が下向きで出産するのだが
上をむいてしまっている
とのことだった
そして3回目の吸引をあきらめ
鉗子による出産を心見る
医師も恐らく
鉗子は1回で決めたいのか
妻にいままでより強く
「この1回でいきますからね」
と告げた
苦悶の表情の妻
体力もこれが限界であろうといった状況
そして医師が鉗子を掛け
助産婦さんに
力がある彼がお腹を押して
助産婦さんに鉗子を引っ張る指示を出した
そして鉗子による出産が始まる
その瞬間
出産とは思えない
血糊が妻の顔まではじけるほどの出血
分娩室はもはや
手術室のように
床には妻の血痕

そんな中で我が子はなんとか出てきてくれた
しかし
普通なら安心の表情を出すはずの
スタッフの方々が
ここからが更に顔色が曇っていた
直視して見ていた自分は
その意味をすぐに悟った
首にへその尾が絡みつき
顔に胎盤の膜が密着してかぶっていたのである
即医師が胎盤を顔からはがして
へその尾を首からはずす
助産婦さんの口には
管のようなものをくわえていて
その管を鼻と口に入れて
血を吸い出していた
小さく泣いた
が
泣かない
産まれて安心した妻は安心した表情であるが
ほか全員が妻を目視することなく
無言で我が子を見つめる
口には酸素を当て
何度も管で鼻、口に混入している混入物を取り除く
そして5分
やっと
やっと
泣いてくれた!!
5分たってはじめて
「おめでとうございます!」
とスタッフの方々みんなが
疲労した顔で言葉をかけてくれた
よかった
本当に
本当に
よかった。。。

今思えば
僕は
立ち会う医療現場で
近年
亡くなっていく人ばかりを見てきた
お父さん
約束
守れました
元気な元気なこですよ
いつかお父さんの竿で釣り糸垂らさせますね
そして
兄貴
今日から君のあだ名を我が子にください
今日から我が子が
「みーくん」です
なんとか我が子を救えたよ
これで兄貴も喜んでくれるかな?
また会おうと約束したけど
今日から我が子が
みんなの「みーくん」だよ
おかえり
みーくん
お父さん、兄貴
これからはみーくんの目から
ふたりが見れなかった沢山のことを見ていてください。
兄の名前は
幹人(みきひと)で
我が子には
光人(みつひと)
と名付けました
光る人

君は
これから先の人生
その目を通じて
亡き人達が見れなかった
いろんなものを見て
いろんなことを体験していって欲しい
勝手な親父の押し付けがましいお願いだけど
聞いてくれたら嬉しいよ
別に僕は
君のモンスターペアレンツなんかには絶対にならない
偉くなろうがどんな子になろうが
何を過大に期待するつもりもない
だけれど
もし君が
何か間違いた道を歩こうとしたとき
今日こうして
君が生まれたことを
君に話そうと思う。
そして
ずっと雲がかかっていた
立ち会う度に
人が亡くなってしまった
僕の過去を
今日一日で晴らしてくれたことに
本当に感謝しているよ
深く
深く
その命が君に宿ってくれたことに
感謝すると同時に
自分にも
そして
たくさんの人にも
温かい
光を当てられる人になって欲しい
何よりも
本当に生まれてきてくれてありがとう
こんな父親だけど
君が晴らしてくれたこの日を境に
これからを
もっともっと大切に
親父もがんばっていくよ
そして
妻へ
貴女がいたから
ここまでこれた
貴女がいたから
この子がいる
自然分娩のみで産めなくてごめんねと言っていたけど
貴女と
我が子が無事なことだけで
十分
これ以上のことはない
何よりも
いつも一生懸命な君に
最大の感謝を!
ありがとう!