ボルクレール伯爵とボルクレーゼ皇太子妃。


(※画像はイメージです)

屁的に高貴な二人が清廉な空気が満ちたボルクール庭園で密会している。
あろうことかその清らかな大気中に臭気を帯びた可燃性の気体を逆説的に放出せんがために。

詩的かつ屁的なその逢瀬(おうせ)の一部始終をここに記す。



二人は会話する。

ボルクレーゼ「誰もいませんわね」
ボルクレール「いかにも」
ボルクレーゼ「検知器が仕掛けてありませんかしら」
ボルクレール「大丈夫ですぞ」
ボルクレーゼ「火の気はありませんかしら」
ボルクレール「心配ないですぞ」
ボルクレーゼ「じゃあ安心ですわね」
ボルクレール「うむ」
ボルクレーゼ「ではそろそろいたしましょうか」
ボルクレール「いざ」


二人は木陰に移動する。

「力を入れますわよ」
「うむ、しからばわたしも」
「背筋をお伸ばしになって」
「うむ、伸びておる」
「膨張的感覚ですわよ」
「ううむ、もう膨らんでおる」
「そろそろ圧縮的気体を内的に充填なさって」
「ほふう、うううむ、ううむ」
「膨張率を確認なさって」
「現在85%を記録しておる」
「それではいざ」
「ううむ(薄目)」
「いざですのよ」
「ふううむ(半ば白目)」
「いざああああ、」
「おほおおううむ」
「いぃざあああああっ」
「うほおおおううむっ」


強烈な爆裂音と共に、腐敗的に構成された分子構造の気体が放出される。



それはまるで目に見えぬ巨大な未知の生物のように大気中を周回し、その幾らかは密会する二人の鼻腔にふれ、その幾らかは大気中のちりに吸着し、またその幾らかは無目的に雲散霧消した。

その後の数十秒ほど二人の脳内には春芋を満載した三輪車が片輪を失いつつも乱走していたが、やがて春芋は荷台からぽろぽろとこぼれ落ち、曲りくねる坂道をゆっくりと下っていった。



***

翌1763年にボルクール共和国がヘヲヒル12世の即位と共に成立したが、二人が放った多数の不可視な春芋が高次元を介してそれに関係したかどうかは定かではない。

しかしその後に伝え聞くところによると、ボルクールのほぼ全土に空から大量の芋が降り注ぎ、それは三日三晩の間止むことがなかったという。


 
後に芋は教会によって詳細な検分が行われ、芋の降下は公式に奇跡として認可されたが、その際に神官たちが芋を食し放屁を行ったかどうかは定かでない。



現存するボルクール共和国の田畑の多くは芋の産地であるが、そこにボルクレールとボルクレーゼの碑は建っておらず、代わりに時おり牛の群れがのどかに放屁を行うのみである。


わずかに香る牛たちの放屁の漂いが二人の密やかなる情愛を偲ばせるが、その追憶もこの拙なる短文とともに早々に消え去るのみであろう。

***

~内側から放たれるものをひたすら愛せよ。それらは空を舞うであろう~
(ボルクレ聖典 第7章 「目に見えぬ漂いについて」より)



春芋の御名(みな)は、それを放ちし者のみぞ知る。