まさかのエープリルフール、ではなかった。巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏(38)と、ミスターこと長嶋茂雄氏(77)の国民栄誉賞は喜ばしい。
プロ野球界では過去、868本塁打の王貞治氏(72)、当時は世界記録の2131試合連続出場の衣笠祥雄氏(66)のような“偉業”が受賞対象となった。その意味で、ミスターには傑出した記録はない。
しかし…。戦後の高度成長期とともに、プロ野球を国民的娯楽へと誘った功績は大きい。天真爛漫(らんまん)な明るさ、勝負強さ、エンターテイナーぶりは国民を驚喜、歓喜、乱舞させた。「記憶に残る男」として、後世まで語り継がれるのは言うまでもない。
公式戦、オールスター、日本シリーズのいずれも打率3割に達しているのは長嶋氏だけ。「国民みんなが注目しているビッグゲームですか? 大きな舞台では不思議と力が出ました」と自らを解説したことがあった。
最大のイベントは1959年6月25日、後楽園球場で行われた阪神戦。昭和天皇・皇后両陛下が観戦された天覧試合である。2本塁打のうち、最後は同点で迎えた9回裏の劇的なサヨナラ本塁打。“燃える男”の真骨頂であろう。
天皇陛下にとって29年の早慶戦、47年の都市対抗、50年の早慶戦に次ぐ4度目の野球観戦。いつ終わるともわからない中、お帰り予定の“3分前”にミスターの一発で決着がついたという。
以前、その試合で左翼塁審をしていた富澤宏哉さん(81)がこう話してくれたことがある。
「陛下が時間ぎりぎりだと後で知って…。時間内に長嶋がケリをつけたでしょ。彼だからこその瞬間だね」
生涯成績は17年間で首位打者6度、本塁打王2度、打点王5度、セ・リーグ最優秀選手5度。やっぱ、すごい。
30年ほど前、大リーグのワールドシリーズに同行した。球場内で長嶋氏と一緒にいると、突然、現地の人から声をかけられた。「彼は俳優かい? 独特のオーラが出ている」と。「日本で最も人気のある野球選手さ」と答えると、「納得だね」とウインクされた。外国人も“ちょっと見”だけでスター性を見抜いた。輝いている証拠である。
喜寿を迎え、国民栄誉賞。拙稿は還暦!? メデタイなぁ。