重苦しい空気を振り払ったのは、やはりこの男だった。井端の適時打で3-3の同点に追いつき、さらに1死満塁で迎えた八回。代打に送られたのは、右膝の違和感で先発を外れていた阿部だった。鋭い打球は二塁手のグラブをはじき、強烈な二ゴロとなって勝ち越し点に。スタジアムのムードは最高潮に達した。
「これが国際大会の難しさ」と指揮官も振り返ったように、試合は薄氷を踏む展開だった。ブラジルに先制を許しただけでなく、相手投手陣の厳しい内角攻めにも苦しみ、七回までに刻んだ安打はわずかに3本。「初戦はやはり難しい」。チーム全体に漂う重苦しい空気を、ベンチにいた阿部も察知していた。
大事な初戦に先発出場できない責任は、背番号10も痛感していた。「自分の不注意でこういう出場(代打)の形になった」と阿部。それでも「監督が最高の場面で使ってくれた」と意気に感じた主将の一打で、チームは見違えるように活気を取り戻した。
ベテランの存在感も光った。代打で同点適時打を放った37歳の井端には指揮官も「これまでの打席は少ないけど、自分のポイントをしっかりと持っている」と称賛。控えの選手も一体になってつかんだ勝利だった。
「大変苦しい戦いをしたが、まず1勝できたことが明日につながる」と山本監督。難産の末につかんだこの日の白星を、3連覇への“良薬”にする.