人間、あるていどの歳になると、この子守唄のようなもんだなと思うようになるなあ。
・・・。それを読んだ。子供のときから知っている古い子守唄だつた。
十人のインディアンの少年が食事に出かけた
一人が咽喉をつまらせて、九人になつた
九人のインディアンの少年が遅くまで起きていた
一人が寝すごして、八人になつた
八人のインディアンの少年がデヴァンを旅していた
一人がそこに残つて、七人になつた
七人のインディアンの少年が薪を割つていた
一人が自分を真つ二つに割つて、六人になつた
六人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた
蜂が一人を刺して、五人になつた
五人のインディアンの少年が法律に夢中になつた
一人が大法院に入つて、四人になった
四人のインディアンの少年が海に出かけた
一人が燻製の鯡(にしん)にのまれ、三人になつた
三人のインディアンの少年が動物園を歩いていた
大熊が一人を抱きしめ、二人になつた
二人のインディアンの少年が日向に坐つていた
一人が陽に焼かれて、一人になつた
一人のインディアンの少年が後に残された
彼が首をくくり、後には誰もいなくなつた
(アガサ・クリスティ、『そして誰もいなくなった』、清水俊二訳、「世界探偵小説全集」、I、昭和24年。)