勇士と利口者 | 拾い読みあれこれ

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きょ~も適度に息抜き、よいかげん。ゆっくり歩いて遠くまで

この10年、いやそれ以前からか、日本人は確実に貧しくなったようだ。仕事もきつくなった。遅くまでこき使われる人も多い。なかには鬱病になるまで働き続けなければならないこともあるそうだ。それでいて勤労報酬は上がってこなかった。世の中が、やれ結構ですなと浮かれていたときから、気が付いたときには多くのものが取り去られ、失われていた。そんな状況のなか、昨今も増税の話で、「それよこせやれよこせ」だ。そのうち「洗(あら)い浚(ざら)い持って行(ゆ)かれる」のかもしれない。

こんな状況への対応、怒るほかないか。時代がとても重苦しい。なんとかしようと立ち上がる勇士はいるか。いや表面上はみな平静にしかみえない。

「実際現代は息苦しい。重い石が冠(かぶ)さっている。勇気のある者は憤怒(いきどおり)を以って、その重い石を刎(は)ね退(の)けるがいい。勇気のある者は笑っては不可(いけ)ない!肉体的にいう時は、笑った途端(とたん)に筋が弛(ゆる)む。精神的にいう時は、笑った途端に心が弛む。弛むということは油断ということだ。その油断に付け込んで飛び込んで来るのが、妥協性だ。妥協、有耶無耶(うやむや)、去勢(きょせい)、萎縮(いしゅく)、そこで小粋(こいき)な姿(なり)をして、天下は泰平(たいへい)でございます。浮世は結構でございます。皆さん愉快にやりやしょう。粋(おつ)でげすな。大通(だいつう)でげすな。なあアんて事になってしまう。そうやって謳(うた)っている中(うち)に、それよこせやれよこせ、洗(あら)い浚(ざら)い持って行(ゆ)かれる。ヘッヘッヘッヘッヘッこれは、何時(いつ)の間(ま)に貧乏になったんだろう?などと驚(おどろ)いても追(お)っ付(つ)かない。だから決して笑っては不可ない。何時もうんと怒(おこ)っているがいい。・・・・・・だが此奴(こいつ)は勇士(ゆうし)の態度だ。利口者(りこうもの)には別の道がある。行儀作法(ぎょうぎさほう)を覚えることよ。お辞儀(じぎ)を上手(じょうず)にすることよ。お太鼓(たいこ)を旨く叩くことよ。お手拍子(てびょうし)喝采(かっさい)を習うことよ。それで権勢家(けんせいか)に取り入るのよ。そうして重用(じゅうよう)されるのよ。さて夫(そ)れからジワジワと、自分の考えは権勢家に伝え、その権勢家の力を藉(か)りて、以て実行に現わすのよ」
(林不忘、『丹下左膳』)

そうか、勇士の態度のほかに、もうひとつあったか。利口者のそれが。
平静にみえるのは、みなが利口者という別の道を選択しているからか。

さてそのジワジワで、激変していくなかで世上を変えていけるか・・・