「・・・どうぞ主人の実家から金(かね)の来る迄(まで)時借(ときがり)に二十両貸してくれろと、涙をこぼして頼みなさるから、親切づくで貸した金だ、・・・
(黙阿弥、『勧善懲悪孝子譽』)
カネに詰まり、困りはてる、なんとしてもこの今、いくら幾らのカネが必要という難儀な局面に人は置かれることがある。しかし一時の借金に恩着せがましくカネを貸してもらうのはツライものだ。頼る先はたいがい悪徳と決まっているが、そんなところから「こりゃあ恩金だぜ」、親切で貸すんだと言われて、ひどい条件で借りた日には、むしりつくされるは必定。当てにしていたカネが入ってきて、返済しようにもしきれぬ仕儀にあいなっている。そうなれば、時借りのつもりが、債務ドレイへの入り口であったと悔やむことになる。