「喜助 成程(なるほど)器量(きりょう)はびつくりだ、五分もすかねえ五分玉だが、疵(きず)だらけぢやあ値打はねえ。
安蔵 そりやあ外(ほか)ぢやあ値打はねえが、旦那の家ぢやあ踏める代物(しろもの)。
源左 それぢやあおれが女郎屋を、始めた事を聞き込んで、此の疵物を売りに来たのか。
お富 あい、どうぞ買つておくんなさい。」
五分玉とは髪飾りの玉簪のことだが、玉の大きさで値打ちが違う。質に入れてカネを手当できる財産でもあった値打ちもの。しかしここでは、それは傷物、切られのお富を指す。
どんな傷物でも値を踏める場があるか。
世の中を渡り来たれば疵もつく。値踏みのあげくゼロである買い手のつかぬ局面も、ままある世の中、しかしあきらめず、旦那の家を探さにゃならぬか。
失業率、上昇するばかりの経済状況。「あい、どうぞ買つておくんなさい」である。