「あれ?12月でしたっけ?誕生日」
「違うさ、もう過ぎちゃったよ、1になったの、1に!」
「8と1のカブかぁ」
「・・・・・」

幸恵先生の誕生日は6月くらいだったかなぁ?
僕より22歳年上ということか。
まぁ、年齢なんてどーでもよくて、楽しい長唄やってるかやってないかで。

家元が「大きい芸をしなさい」とか「大きく弾くんだよ」とよくおっしゃってる。
確かに。
家元の三味線は大きい。
ドシンとしている。
それに比べて自分のは小さいなぁと思ってた、ずーっと思ってるし、どうやったら大きくできるのかを。
ずーっと、ずーっと。
答えはわかった。
一言で言えば「間を大きく」取る。
その答えは誰でも到達できる。
でも、じゃどうやって大きく取るかがわからない。
頭ではどーにもならない。
発展途上ではどーにもならん。
未熟でもどーにもならん。
でも、最終的には、それが出来るように、大きな三味線が弾けるのをゴールとしてやっていくこと。

大きな長唄を。
みんなに届く大きな芸を。
それを目指してコツコツやっていくこと。
そして、必ず出来るようになること。
夢に終わらせない。
終わってたまるか。
方法もわかってる、頭でもわかってる。
あとは心技一体みたいな。

家元や幸恵さんになにを教わるか?
なにを取るか?
一緒に弾いた時に。

大きな芸だからツレは簡単である。
誰でもツレられる。
その先は?

息。
幸恵師の「息」はわかりやすい。
その呼吸のまま弾いているから。
それを弾くために息をしているから。
そう教わってきたし、そう教えてらっしゃる。
僕もそう教わってきたから。
だんだんと出来るようになったのか、突然出来るようになったのかはわからないが、真似をしてるうちに、なんかニセモノのそれらしいことができてくる。
それができたらしめたもんや。

そんな風にやってきた。
これからも。
前を走ってくれてる家元、幸恵師がありがたい。

その幸恵師匠がライヴに出演してくれる、弾いてくれる、そんなことが起きるなんて思ってなかった。
人生は楽しい。

「菖蒲浴衣」「靭猿」。
この日のこの時間の演奏だった。
勝彦くん、幸恵師匠、僕の3人は、この時、おんなじ呼吸で、同じ空間で同じ世界に色を塗った。
そして三人が思いもしなかった色とりどりの曲が出来上がった。


これを「ライヴ」って言うんだろーな、と。
翌日、幸恵師匠は函館に向かった。
暑い東京から涼しいとこへ。
東京と函館を行ったりきたりを半世紀以上もしとるんやなぁ。
なんやねん、この人。
どんなエネルギーやねん。
「お身体お大事に」などといたわってる場合やないで。こっちがしっかりせんと。

よーし、明日から張り切って行くぞーー。
また一緒に弾いてもらえるよーに腕磨くぞーー。