『秋刀魚の味』・私なりの秋刀魚 感・・秋は小津作品・・・1962年度 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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基本、鑑賞後の感想ですのでネタバレが殆どです。
ご了承くださりませ。

 

           『秋刀魚の味』

 

     



  戦後17年経った1962年に撮られた小津監督の遺作。


何故、小津さんの作品の題は秋にこだわるのでしょうね。

秋になると見たくなる小津作品。

秋の味覚はサンマに代表されますし、

本日は秋刀魚で参りましょう。


作品『生まれてはみたけれど』の中で監督の井上和夫さんがこう語っています。


 生涯54本の映画を撮り、日本映画史上に燦然たる数々の名作を残した

 

この名監督の人間を語り、その芸術の深さを探る事は極めて困難である.

あらゆる分野において、

残された作品そのものがその人を語る総てであり、

 

その全人格であると言えるかもしれない とある。


 日本の映画史上もっともハイカラな監督であり、

 日本文化の良さを知り尽くし、それを画像に余す所なく
 
表現でき得た、ただひとりの人だと思う。
 
それは自身の生活上のセンスの良さを物語り、

 
 彼の交友関係を それも知れば頷け、


その人たちの協力が作品の文化度をUPするという、


これだけは日本の数ある監督たちでは後にも先にもいないと

言いきれると思います。

   キャスト

平山        笠智衆

長男幸一      佐田啓二

長女路子      岩下志麻

次男和夫      三上真一郎

幸一の妻アキ子   岡田茉莉子

河合        中村伸夫

妻のぶ子      三宅のぶ子     

堀江        北 竜二

妻たま子      環 三千世

ひょうたん     東野英次郎   

娘伴子       杉村春子

坂本        加東大介

トリスバーママ   岸田今日子

幸一の同僚三浦   吉田輝雄

料亭若松女将    高橋とよ

バーの客      須賀不二夫


 
ざっと、あらすじを・・・・

ー-------


平山周平(笠智衆)は、妻とは死別。


長男の幸一(佐田啓二)はアキ子(岡田茉莉子)と結婚して家を出て団地暮らし。


今は娘の路子(岩下志麻)と次男の和夫(三上真一郎)との三人暮らしである。


ある日、平山はいつものように友人の河合(中村伸郎)、堀江(北龍二)とクラス会の打ち合わせを兼ねて

料亭若松に酒を飲みに行く。


ちょっと羽振りが良い昭和のおじさんたち。


  結構下ネタも嫌味なくさらりとかわす間柄。

  今日は、

 話題が路子の結婚の話になり、


まだ路子を嫁にやることなど考えてもいなかった周平は悩み始める…。 

 



堀江は若い美人のタマ子(環三千世)を妻にして幸せそのもの。


平山たちはクラス会に恩師のひょうたん(あだ名)を呼ぶことになった。


鱧と言う字は教師だから難なく書けるのに食べたことが無いという鱧を美味しそうに食べるひょうたん。



ひょうたんなどと気やすく言うものの恩師は恩師として敬っている。


ひょうたんさんはその日、とてもご機嫌な夜を過ごされました。家まで送っていった平山と河合。


ここで明らかになる恩師の現在の姿。

 



場末の中華料理の店主こそが彼の本来の姿だったのだ。

酔っ払う父を迎えに出てきたのは娘伴子(杉村春子)。

 



きっと母を早くに亡くし、父親の世話と店の切り盛りをしているうちに中年になってしまったのだろう。



それから、河合、堀江と会った時に、二人から

ああいう風にならない内に路子ちゃんを早く嫁にやれと言われ、

平山は24歳になった路子を早く嫁がせねばと心に決めた。



二度目に行ったひょうたんの店で、偶然戦時中、平山が乗っていた駆逐艦での部下坂本(加東大介)と出会った。


坂本に案内されて行ったトリスバーのマダム(岸田今日子)は、

 

どこか平山の亡くなった妻に面ざしが似ていると平山は家族に話した。

 

 


 

幸一も一度行きたいと言ってバーに同行した

 



そこのトリスバーでは、いつも軍艦マーチがかかっていて,


おそらく戦争の影を消してしまうことのできない人たちの

たまり場かも知れないとふと私は思った。




ひょうたんに会ったことが路子の結婚のきっかけになったかもしれない。


それから、一度目の見合いが流れた後、好意を持っていた兄幸一の同僚三浦との話も流れた。

 



 

 

 

強がっていても、落胆して心傷ついている路子だった。

 



結局、路子は 秋も深まった日に、河合の細君(三宅邦子)のすすめる人物のところへ嫁ぐのである・・・・・

 


 



この物語。

①まもなく定年を迎えるであろう男が娘を嫁にやるまでを小津流の描き方で淡々と描いていく・・という見方。

②小津さんの作品には殆ど戦争というものが関わってこない。あってもちょっと通り過ぎるような描き方だが、

この作品ではストレートではないものの、彼平山の過去が想像できる戦争というものが描かれている。


③佐田啓二さんと岡田茉莉子さんの夫婦の在り様が妻の尻に敷かれている時代感がある・

 

戦後わずか17年の間に女性も強くなったものだ。

④いつもの通り小津さんの赤色へのこだわり。

本作品では

女性の衣装に表れていました。


志麻さんは赤いスカート

着物の赤い帯もそうですね・

 



茉莉子さんは赤いセーター



今日子さんは赤いネッカチーフ



環三千世さんはお着物に赤の抱えバッグを。


 

 

   さて、② について・・・・

 小津安二郎は軍人が嫌いだったそうです。

  〖生まれてはみたけれど〗の中にも出てきましたが、

戦争末期、

参謀本部に戦意高揚映画の制作を命じられた小津は

シンガポールに派遣されたが、何も撮らず、

ひたすら押収したハリウッド映画を見続けたという。

戦中の『父ありき』、『戸田家の兄妹』にも、

小津は軍人を通行人としてさえ登場させなかったそうです。

そういえばそうですよね。

軍人の登場場面なんて見たことがない・

 逆に、戦後の作品では戦争の影が不吉な鳥のように画面の隅を横切ることがある。


『長屋紳士録』や『風の中の牝鶏』のように直接的な戦争を扱ったものはむしろ例外的で、

平穏な生活者たちの退屈な日常に不意に戦争の影が切り込む、という描き方を

 

小津さんは選んだように思います。


 遺作となった『秋刀魚の味』は

1962年の作品だから、敗戦からすでに17年が経過しています。

日本は復興を遂げ、

男たちは仕立ての良い背広を着て、外車に乗り、

銀座の割烹若松で、夜ごと飽きることなく美酒を酌み交わし、

 


娘の縁談話に興じている。

余裕のある理想の生活水準である。


けれども、娘を嫁に出したあとに

一人残される老父の孤独に話題が及ぶたびに、

平山に、戦争のイメージが一瞬だけ脳裏を横切る。

 ひょうたん(東野英治郎)が行き遅れの娘(杉村春子)と暮らすみすぼらしい店は

   ★★ 軍隊の補給基地のようなドラム缶と有刺鉄線で囲われた泥泥の路地裏にあった。

    まだ戦後というものから抜け出でてない世界があるのだ!


    そこで娘を嫁がせる機会を逸したひょうたんの店で

      平山(笠智衆)は、

    彼の職業軍人という過去を思い出させる部下の坂本(加東大介)に出会い、

       十数年忘れていた「艦長」という官名で呼ばれる。

 



平山の表情は変わらないがどう思ったのであろう。


 坂本に誘われて行ったバーで、

     軍艦マーチが鳴り響く中で、

平山は、おそらくは戦災で失ったであろう妻に、なんとなく似ているママ(岸田今日子)に出会い、

希望と言うより喪失感を新たにしたと思う。


坂本が ♪チャカ チャカ チャカ チャヵ チャカ チャカ チャ 

 
      チャカ チャカ チャカ チャカ チャカ チャカ チャ・・・・♬軍艦マーチを口ずさむ。
     

       ”日本が勝ったらどうなってたんでしょうね。”と坂本

 

     平山 ”負けてよかったんじゃないか!”



 物語のラストで、

娘の結婚式を終えて虚無だけが襲う平山はたまらずに、再度

 

バーをというよりママに会いに行く。

「今日はどちらのお帰り、お葬式ですか?」とママは聞いた。


平山の喪失感を増幅するようなカミソリのような発言。なにも知らないママに罪はないが・・・

それに対して、平山は「まあ、そんなもんだよ」と

穏やかな笑顔で対応する。

そして、

また軍艦マーチが鳴り響くと、

カウンターにいた客の一人(須賀不二男)が開戦の日のアナウンサーの声色を真似て

「大本営発表」と発する。

すると隣で飲んでいた別のサラリーマンが「帝国海軍は今暁五時三十分、南鳥島東方海上において」・・と続ける。


それをさえぎって、須賀不二男は「負けました!」と言ってうなだれた。「

     「そうです。負けました」ともう一人が応じる。

二人はそのまま正面に向き直って、

また見知らぬ同士が穏やかな顔に戻って

ウイスキーのグラスをすする。


この場面には何か有無を言わせぬ迫力がありました。小津作品では初めてです。

 かつて兵士だった男たちの

   「戦争のとき、私は誰にも話せない経験をした」という、重い言葉。

娘が独立すべく立ち去り、

最後にひとり残される老父の「人間は結局ひとりぼっちだ」という独白は


    切っても切り離せない背中合わせのように響いてきたのです。



 誰にも話すことのできない経験を持ってしまったこと。

思い出すたびに

人は 自分の 絶対的な孤独を思い知らされるものではないか。


 泥酔した平山が膝を叩きながら歌う軍艦マーチの詩・

 

       ♪守るも攻めるも…黒鉄の・・か  浮かべる城ぞ頼みなる・・♪か の


   ため息のような、呟きのような♪か....

小津にとっての戦争の荷は、

   平山の心に残った決して消えることのない傷、果てしない孤独とを重ね

 

          彼に思いを託したように私には思われます。遺作だからこそ・・・・

 

東野さんのひょうたんさん、お上手ねえと思いましたが、

 

     ラストの笠さんの寂寥感・・さすがで、やはり

 

        笠さんは小津作品の 華 です。

           

  監督  小津安二郎

  脚本  小津安二郎

   〃  野田高梧  

 

美術工芸品考撰  貴多川

         岡村多聞堂

 

(若松で出される料理の器は貴多川提供の京焼の高級品ですね。)

 

 

衣装考撰     浦野染織研究所  

 

   以下すべて浦野工房のお着物、帯です。

 

 

 

     ↑のお着物ですが、

 

小津さんの番組の進行でMCをされた中井貴恵さんがこの着物を小津さんから頂いたとかで

 

畳紙から出して見せられていたのを思い出しました。

 

 

今夜も長々と読んでいただいてありがとうございました。

 

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