『愛を読むひと』・・・知らないことの怖さ、人生を変えてしまうほどの無知のこわさ・ | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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戦前のフランス映画が大好きです。
基本、鑑賞後の感想ですのでネタバレが殆どです。
ご了承くださりませ。



    『愛を読むひと』



こんばんは。いつもご訪問ありがとうございます。


原作は全世界500万人が涙したというベストセラー。

主役のケイト・ウインスレットがアカデミー主演女優賞を取った時に


題名を聞いた位で、なんの予備知識もなく鑑賞。


たまたまテレビでの放映で最近見た作品です。



インパクト強い作品でした。


2時間15分の中で序盤の45分は少年と年上の女性の愛の生活。


いささか退屈かなと思ったのですが、でも、これが後半の切り返しにぐっと関係してくる。


どんなお話かと申しますと・・・・



★★★


1958年、ドイツ ノイシュタット

 15歳の少年が学校から帰宅途中に気分が悪くなり、


たまたま休んだ場所が年上の女性のアパートの前だった。

親切にしてくれた上、うちまで送ってくれた偶然の出会いだった。そして

少年は女性に夢中になり毎日学校帰りに彼女の家に寄った。

15歳といえば思春期真っ盛り、

まさに異性に興味を抱く年頃。


官能に溺れるのも仕方ないことだ。

 



それだけではなかった。

女性は彼が持っていた本を読んでくれという。

それが習慣となり、

ベッドに入ると必ず、まず本を読んで聞かせた。

女性は市内を走る電車の車掌をしていた。

女性はハンナ、少年はマイケルと名乗った。

ハンナはマイケルのことをいつも坊や・と呼んだ。

 


ここで思ったのは少年の気持ち、行動は理解できるのだが、女性の感情、行動が謎めいていて

いまいちわからなかった。 

そして、ある日突然、女性は何も告げずに彼の前から消えた。



① これ以上の深みにはまることを恐れたのか、それとも若年の彼の将来を案じてのことかと疑問。


② 職場で彼女は昇進を告げられた時、なぜかつらそうな顔をしたのも不思議だった。


 そして、数年後、少年は法科の大学生となっていた。弁護士になるための

   大学の研修で、ある裁判所へ裁判の見学に行った。


  少年は思いがけずに被告席にいる女性ハンナを見かけた。



 その裁判の中で、彼女の過去の謎が解かれていく。

  アウシュビッツ収容所へ送る前の収容所で、看守をしていた彼女は

戦犯としての審議が行われていた。 


 看守であった収容所が火事になりカギを掛けたまま放置したことにより

300人のユダヤ人が焼け死んだことへの責任追及裁判であった。

その証拠は・・火事を逃れたたった一組の母娘が生き残り、娘はジャーナリストとなり、

その時の記事を書いていたこと。アメリカから証人として出席していた。


他の5人の女性の看守がうまく言い逃れている中で、彼女は正直に、裁判長に聞かれるままを答えた。


次から次から送られてくる囚人をどうやって収容するのか、自分は仕事の責任を果たしたのだと答えた。

アウシュビッツへと送り出さねば次の囚人を収容できないと・そして責任者であるハンナが書いた報告書を見せられた。

5人に嵌められたようなものではあるが・・・


そこで他の5人は何も知らずに仕事をしたと答えたことで、実刑4年の判決。


そしてハンナはみんなと同じ答えならサインをしろと迫られた。

が、ハンナは・・・・断った。

そこで少年マイケルは気が付いた。

あのひと夏の中での彼女との生活を思い浮かべ、彼女が文盲つまり非識字者であることに。

するといろんな疑問が解けて来たのだ。

自分で読まない本。

レストランでメニューを見ながら困っていたことなどなど。

字が読めないから職場の昇進に応えられなかったのだ。と。


ここで①と②の疑問が解けました。


だから非識字者のハンナが報告書など書けるはずがないと裁判長に教えることもできた。

 

そうすれば判決はもっと変わったものになったかもしれないと。

報告書どころか自分の名前をサインすることすらできなかったのだ。

ハンナはそれが恥ずかしいから隠すために甘んじて刑を受けた。




  のに自分がそれを無視して言えることではないとマイケルは涙した。

300件の殺人行為で終身刑の判決。


服役してから、彼は朗読を録音してテープをハンナに送り続けた・

1980年。

ハンナは送られてきたテープと本を照らし合わせて少しではあるが、

文字が読めるように、書けるようになり、マイケルにロマンス小説を送ってと言えるまでになった。



マイケルは結婚して娘がひとりいた。

が、妻とは離婚していた。


刑務所から連絡がきた。

ハンナが仮出所できる日が来た。が、身元引受人がいないのでマイケルに連絡がきたのだ。


かれは、一人住まいのアパートを用意し、仕事も見つけ、ハンナに面会した。

”坊や  大人になったわね”と感慨深げにマイケルに語りかけた。


”アパートは図書館にも近いし・・・本がいっぱい読めるさ”

ハンナは”読んでもらった方が好き”と答えた・

迎えに来るからと言ってその日は帰ったマイケル。


そうして彼が迎えに行く朝のこと。

ハンナは部屋にある本をテーブルの上重ねその上に昇って首を吊った・・・・

③彼女は最後になぜあの選択をしたのだろう?


最初で最後の面会。

そこでハンナが悟ったのは・・・何を悟ったの??


自殺するために重ねられた本。それまでの努力を否定するかのような死に方。

   ”絶望 ”だと思います。

ハンナはマイケルとの距離を感じ、出所後の希望が持てなかった。

 

何故なら、ハンナが差し出した手を瞬間握ったマイケルだったが優しく押し返した。

 

そしてまなざしは優しかったが出てくる言葉は過去への責めのように取れた。

 

あの頃のマイケルのような瞳の輝きは自分に向けられなかった悲しみ・・

 

ハンナは未来への希望を持てなかった。

 

生きていくことの力がもうなくなってしまったのだと思う。


マイケルはハンナが服役を経て、ハンナがどう変わったかを知りたかった。

でも面会で感じたのは、変わっていなかった・・

ハンナはハンナで”私は、私でいただけ”

どうしてマイケルは理解してくれないの?と思ったと思う。


マイケルとしては服役中に自分の犯したことがどれだけ罪深いことかを反省して欲しかったはず。

今更、どう感じたって、どう思ったって死者は返らない。というハンナ。

 

ふたりの考えが交わるはずがなかった。


もうひとつ考えられるのは、”悔い”

アウシュビッツのことなどを書いた本などを読んで、自分の犯した罪を理解し

悔いて死を選んだ。。だとすればなぜこのタイミングで?と思ってしまう・・から違う。


だからやはり絶望の末の自殺だと思います。

ハンナは裁判の時に自分の行為に対して全然、悪びた様子を見せなかった。

その上、裁判長に”あなたならどうしましたか?と問うた。

つまりハンナという人は脳が子供なんですね。


”責任があるから逃がすより、火事で殺した方がいいと考えたのだね・・と思われる。


見る限り、子供の発言です。子供は親に言われたことを忠実にこなすことが正解だと思っている。

それと同じで・・言い換えれば思考能力が低いのだ。そんな人が幼稚な思考のままに

看守をしたことが不運だったというしかない。その考えが服役後には変わっているかどうかを

知りたかったのだと思うんですね。学んだかどうかを知りたかった。

あの時に看守の責任よりも300人の命が大切だと思えば、助けることを優先するものだ。

なのに仕事だからと火の海の中の人たちを見殺しにしたことがどれだけ罪悪かを判断できなかった。

そして今でも・・・・変わらない・というより判断できない、理解できないのですね。

 

自殺の考察は観る人によっていろいろな解釈ができる映画だと思います。

ー----
そして、マイケルは娘を連れてハンナの墓を訪ねるのでした・

娘に話して聞かせるために・・・・

 

マイケルがあのひと夏の愛を否定していなかったことが救いでした。

子供のままの精神状態で、一人きりで生きていくことの危うさ、怖さがひしひしと伝わってきました。

 

本当に怖い。切ない。。

 

もっとじっくりと、深く見つめて観たい作品です。

でも『愛を読むひと』という邦題がいいですね。

 

原題は " The Reader ”




キャスト

ハンナ       ケイト・ウインスレット

マイケル 成人   レイフ・ファインズ

マイケル 少年   ダフイット・クロス


監督     ステイーブン・ダルドリー

 

 

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