『十二人の怒れる男』・陪審員の緊迫の駆け引き・・S・ルメット監督デビュー作・1957年度・米 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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       『十二人の怒れる男』


           

何とはなしに、今日は『十二人の怒れる男』を見ました。

何度目の鑑賞ですかしら??


裁判員制度が日本に出来て何年になりますかねえ・

んん・・と、2009年でしたから、15年経ったんですね。



1957年度に作られた作品。

 

シドニー・ルメット監督のデビュー作品なんですね。


原作はレジナルド・ローズ

 

レジナルド・ローズという作家さんが

 

実際に殺人事件の陪審員を務めたことが発端で

本作品が生まれたそうです。


選ばれた十二人の陪審員が、真夏の暑い暑い時期、裁判所の一室に缶詰にされ、

父親殺しで起訴された17歳の少年被告の有罪、無罪を審議する。


最初は11人の陪審員が有罪に投票。

それはもう決定的と思われたが、

一人の陪審員(ヘンリー・フオンダ)

が無罪を主張。

疑わしきは罰せずの法則のもと、起訴状の欠落した部分をひとつひとつつぶしていき、


事態は思わぬ方向に転じていく。そして、


終には無罪論にまでこぎつけて、

夕立の去った裁判所の石の階段を一市民として散り散りに

帰ってゆくラストシーン。

 

ここで陪審員のひとりのお年寄りはフオンダさんに”お名前は!”と聞く・・・・。

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フオンダさん以外の出演者全員もいい味出してましたよね。

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以下12人の陪審員です。

 


①マーティン・バルサム・・・・・・・・・中学校の体育教師。議論の進行係。

②ジョン・フイード・・・・・・・・・・・銀行員。気弱な性格。

③リー・ジェイ・コップ・・・・・・・・・会社経営者。有罪意見に固執する。

④E・G・マーシャル・・・・・・・・・・株式仲介人。冷静沈着、論理的な性格。

⑤ジャック・クラグマン・・・・・・・・・スラム街育ちの工場労働者。ナイフの使い方の説明にみんな納得。

⑥エドワード・ビンズ・・・・・・・・・・塗装工の労働者。義理、人情にあつい。

⑦ジャック・ウオーデン・・・・・・・・・食品会社のセールスマン。落ち着きがなく、議論が早くおわればいいと思っている。

⑧ヘンリー・フオンダ・・・・・・・・・・建築家。検察の立証に疑念を抱き、慎重に論議すべきと、最初から無罪を主張した。

⑨ジョセフ・スイーニー・・・・・・・・・80歳の老人。鋭い観察眼で検察側の証人の信頼性に疑問を投げかける。


⑩エド・マクベリー・・・・・・・・・・・威張った工場経営者。根っこに貧困層への差別意識があり頑なに有罪を主張。

⑪ジョージ・ヴォスコヴエック・・・・・・時計職人のユダヤ人。誠実で、陪審員としての責任感が強い。

⑫ロバート・ウェッパー・・・・・・・・・広告代理店宣伝マン。お調子者で軽薄な性格。コロコロと意見を変える。

お馴染みの役者さん、脇役さんばかりですねえ。

では、駆け引きに入りますね。


①番さんは進行係


⑧番は正義の人・・・には間違いないのですが、何度も鑑賞しているうちに少し斜めから見ている私がいました。

 



周囲の人たちに正義とか論理とかかざすのではなく、★心理に働きかける・・・

 

つまり集団心理をコントロールして、彼の考えに導く術に、

 

とても長けている人だと思ったこと。これが良いとか悪いとかではない。


決して少年が無罪だ!と強調はしない。確信がないと言っただけ。

 

そして、周囲に考えさせる言葉を巧く投げかけて、考えさせ、

こちらに同調させるというやり方ですね。


正義と論理と心理テクを混ぜて周囲を誘導していく。

会社会議のリーダーに見られますよね。

だけども、

この正しい論理と正義感をちらつかせ(いい意味で)、周囲の顔色と人物像を見ながら

巧みに誘導していくあっぱれなやり方で、

一人、もう一人と・・・納得していくのです。うまい駆け引きでありまする。

まず、わかっているけど挙手を と進行係。

 

 

⑧番さんだけが無挙手。

始めに、一人ずつ意見を言っていった。

そして無記名投票。


⑨番の老人がまず無罪に投票した。

訳は・・・⑧番の方は無罪と言わずに確信がないと言った。勇気ある発言だ。

そして誰かが変わるのに賭けたんだ。だから私は応じたよ。多分有罪だろうがもっと話を聞きたい!と発言した。

 


 

 

心理作戦が効きましたね。


目撃証人は二人、

足の不自由な老人は殺すぞ!という声、女の悲鳴を聴いた。

それと、一秒後に何かが倒れる音を聞いたという証言。


向かいの部屋の女は殺すところを見たという。

がこれも、部屋の前を通る6両連結の電車の最後の2両の窓越しに。

その経過時間は?と⑧番。

⑥番が10秒と答えた。とすれば、最後の両は2秒の間。電車の通る轟音は決して他の音など聞こえるものではないから、

聞いたのは電車が通り過ぎた後ということになる。とすれば女が見た殺人と老人が聞いた音の

時間差はどうなる??

その上、足を引きずっているのに、2.3秒で階下へ降りる犯人の姿など見れないでしょうに。


⑤番と⑥番が 声など、 聞こえるはずがない・・と言った。じゃあなぜ?


⑨番の老人が 目だつためだ!私は、観察していたんだ・・

 



破れ上着に足を引きずっていた。それを何とか隠そうとしていた・・・

誰からも相手にされない年寄りに良くあることだ、嘘を言って人の気を引くいや、本人は嘘を言ったと気づいていない。

そう思い込んでいるだけだと思うと力説した。この老人80歳だという設定。


⑨番の老人はお年寄り扱いしてはダメ・一番しっかりと裁判を見ていた方ではないかしら。

証人の仕草、疑念、嘘、不安定材料をしっかりと見ていて、証言の疑わしさを的確に言い当てた。


聞いていた②番さんが無罪に変えてくれと言った。

 

 

 

 



④番の陪審員は眼鏡をかけていていつも目元をこする。そこに気づいた⑨番の老人は

証人の女性も同じように目を擦っていたことを思い出し、普段眼鏡を掛けていたんではないかと指摘した。

さすれば目撃なんてあてにはならない。ここのやり方は老人は⑧番のやり方を真似ている。

誘導だ。④番はここから無罪挙手へと変化。

とまあこんな感じで一人、また一人と無罪に挙手変更となっていく。


⑦番の陪審員は暑い暑いとせわしなく動き、壁釣りの扇風機が作動しないと言って、

 

四六時中扇風機を触っているのがかわいい。

 

動かないから叩く、また叩く・・・夏のうだるような暑さの感じがよく出ていましたよね。

 



懐かしい、昔、銭湯にあった壁釣り扇風機。今もあるのかしら。そう言えば温泉旅館で見たことありますね。

③番さんがナイフをこうやって犯行に使ったんだと有罪説を頑なに通そうとする。

が、
犯行に使われたナイフは少年よりも背の高い殺された父親を刺すには問題があると⑧番は指摘。

 



すると⑤番さんが下から上を見上げて、右手は上から胸を刺すことは出来ないと…やって見せる。

ジャックナイフの握り方は普通の刃物と違うのだ・・だから下からさせても上からはさせないと・・・

論議は白熱してきますね・・・・


強引に少年を有罪にしようとした③番は、自分がなぜ少年が有罪、いや 憎いと思うのは、

 

自分の息子が思うようにならないから・・・息子を有罪にしたいような衝動に駆られていた・・・

と、イラついていたことに原因があると気づいたことで、12番目に、無罪に挙手しますね。

  夕立の止んだ裁判所の前で・・

 

    ”お名前は??”  ”デーヴイス”  ”わたしはマカードルだ ”    ”それじゃあ”

 

と⑧番さんと⑨番さんは別れたのだった。この場面はすごくいいですよね。


 お互いに名前も知らぬ12人。



この作品の魅力は少年の無罪、有罪の結果よりも

12人の人物像とその人物が一時間半の間に変化してゆく面白さが私にはありました。


暑く狭い陪審員室での息苦しくなるような激論、と怒り。

 

お互いに名も知らぬ12人の男たちは虚飾をはぎ取られた己の人生を丸出しにしてしまう。

 

全編、密室劇にもかかわらずやっぱり一分の隙も無い緊迫感を与えてくれました。


偏見は真実を曇らせるという普段気づきもしないメッセージがズシーンと伝わる。

しかし、

全員一致の無罪 という結果になったとしても、少年が事件の犯人ではなかったということとは

別問題で、無罪が証明されたということではないですよね。

疑わしきは罰せずという」裁判の理念を描いた作品なんですね。

 

アカデミー賞ノミネートされるも、≪戦場にかける橋≫に

 

持っていかれたが、惜しいことです

 

でも、
 

ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞しています。

 


製作  1957年度・米

監督  シドニー.ルメット