『望郷』・・フランス映画特集⑧カスバに燃え上がる灼熱の恋 ・・ジャン・ギャバン・・・ | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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(望郷)

こんにちは。
いつもご訪問頂きましてありがとうございます。

連休後半は良いお天気が続く
福岡です。
先日からパソコンがダウンし
スマホからの投稿。
見辛く不便でございます。

さて、フランス映画特集⑧は
(望郷)です。


素晴らしい映画は時代と共に
どんどん作られていくわけですが、我々オールドゼネレーションには

映画のベストテンとなると
どうしても私たちが生まれる前の作品を選んでしまう........

イギリス映画の(第三の男)
ハリウッドでは (市民ケーン)
フランス映画では (天井桟敷の
人々)のベストスリー
が妥当なところだろう。

細かく分けたジャンルから攻めれば
いろんな意見もあるだろう。甲乙つけがたいはずだ。
オールドな作品には大抵 第一次、二次大戦がからむ。360度から眺むれば
無数のドラマが出来上がる。
わたしの選ぶ三本はと言えば.........


フランス人の選ぶ自国の最高作品は
何と言っても(大いなる幻影)だ。
極めてフランス的なヒューマニズムがテーマ。戦争という どうしようもない場面における人々の生きてきた過去や人格、心理のせめぎあい、そして
そんな中から浮かび上がってくる
極めて人間的なものとは?が

テーマである。
そこには
台詞のすばらしさもあるが
画面自体が全てをシンプルに語っているすばらしさがありーー見事である。

ルノワールの最高傑作というより
フランス国の最高傑作だ。

ハリウッド作品の(モロッコ)に
心酔した戦争経験者の票の厚さ。

けれど、ハリウッド作品では
(ナバロンの要塞)を選ぶかなあ。

そして 娯楽作品でもあり
映画としての教科書とも言える
これぞ映画だ!という意味で
(望郷)はベストスリーの
一本に入れたい。
男ギャバンと監督デヴィヴィェの
創った名場面連続の傑作である。


   『望郷』

原題は『ペペ』.
ストーリーがまず洒落ている。
題名が洒落ている。
舞台が良い。アフリカはアルジェの港町。
この舞台でない限りこの映画の感動は
起き得なかったといって良い。

何故なら、ラストシーンは映画史にに残る名シーンだから。
そして、全編に流れる音楽が良い。

パリ、マルセイユから今は飛行機で一飛びだが、
その頃(1939)は遠い遠い異国の都であった.

そしてギャバンは役者として絶好調の時で
男臭さと、凄みと、愛嬌と、脂の乗りきった魅力に溢れ、
女優ミレーユ.バランは妖艶なパリの女ギャビーを
美しく華麗に演じている.

アルジェの隣のモロッコのカサブランカを舞台にした
ご存知の『カサブランカ』.
男の見栄と友情のなかに引き裂かれたがなんとも後味の良い
ロマンテイックさを残した恋愛。

しかし同じエキゾチックな舞台でも、
自分を剥き出しにした
男の女に対する恋慕とパリへの郷愁に負けた男の哀切を
描くにはどうしてもアルジェという舞台が
重きを占めているように思うのである。

そして、監督ジュリアン.デユヴィヴィエ.
デユヴィヴィエといえば望郷..が代名詞。

映画でないと出来ないような演出をする人だ。
クラブでギャビーと息投合してじっと見詰め合うシーン。
ダンスを踊りながら、パリの話しをするシーン。
ペペが彼女を抱きしめて言うセリフ”メトロの匂いがする”
そして、ラスト...幻想的でやるせなくて、迫力に満ちて
そして美しかった..
これぞデユヴィヴィエという作品でしょうね。

『ストーリー』

フランスの植民地アフリカのアルジェ、
その港町アルジェの丘の上にカスバという一画がある.
ここはよそ者の侵入を許さない。
たとえフランス警察であろうとこの中には踏み込めない。
パリで罪を犯し、
ここへ逃げ込んだペペ.ル.モコ(J.ギャバン)は今では
もう、エトランゼではなく、
このカスバの王様となっていた。
心は巴里に帰りたい、巴里が恋しい。
そんな毎日であった。



警察がどんなに躍起になったところで、彼がこの一画から
外へ出ない限り、手も足も出ない。

しかしパリ警察のスリマン刑事は執拗にペペを追いまわし、
いつかはと機会を虎視眈々と狙っていた.



パリから観光団がカスバ見物に来た。
その中に美しい女性を』見つけ、一目ぼれした。
彼女にもだが、彼女の中に恋しい巴里を見たせいもある。

女性はギャビー(ミレーユ.バラン)といい、
彼女もこのカスバのボスに魅力を
感じ、二人に情熱が燃え上がる。




スリマン刑事はここぞとばかりにペペの感情を利用し、
ペペの情婦の嫉妬心を煽りたてる.
ギャビーのパトロンをたきつけて巴里へ早く追い返そうと
企む。
そうして、ペペをカスバから炙り出すとする.
ペペは逆上する。
もはや、ギャビーはペペにとって巴里そのものであった。
メトロの匂いがすると囁いたその言葉通りに
ギャビーを奪われることは心の中の巴里を奪われることであった。

ギャビーは灼熱の恋に燃えたとはいえ所詮、彼女にとっては
人生の一ページに過ぎず、吹きぬける旅の想い出でしか
なかったが...



マルセイユへ向かう船の甲板に立ち、カスバを見つめるギャビー。
ペペは危険を承知の上でカスバの石段に足をかけた。
スリマンが手薬煉引いて待ち構えている。
それでも止めることは出来なかった.
 愛するものの気持ちをわかるイネスは
ペペの思い通りにさせてやりたかった.

波止場へたどり着いた時彼の腕に手錠がかかった。
波止場の鉄柵に捕まりながら声を振り絞って
”ギャビー””ギャビー”と涙を浮かべ叫ぶペペ.

しかし時を同じくして汽笛がけたたましくなり、
その声を掻き消した.

”お前を愛している”...ただそれだけの思いを伝える為に
”ギャビー”と呼んだペペ.
汽笛の音にギャビーは耳を覆い、ペペの叫びはかき消された。

ペペはその時呆然として、見る見る恋に生きる男の輝きは
消えた.

持っていたかみそりの刃で手首の動脈を切った...
ペペ.ル.モコは波止場の汚い石畳の上に
ボロ布のように崩れ落ちた。

マルセイユへの船は港のはるか遠くへと消えた行った....

ドラマチックなこのストーリー.
人間臭く、しかもはげしく、異邦人が故郷への思いに、
命をかけて護ろうとした郷愁愛。

きっと無意識の内にこの、先のわからないカスバ暮らしの中で
身も心も焼き尽くしたかったのでしょう。
おとなの恋物語ですね.

情婦イネスを演じた、リーヌ.ノロもバタ臭い美貌で
印象的であった。

港でギャビーを探して歩く中、カフェの中の旅人の会話。
”ここの太陽は哀しいわ”というセリフが全部を物語って
いました。


制作   仏  1939年度
監督   ジュリアン.デユヴィヴィエ
出演   ジャン.ギャバン
ミレーユ.バラン