(旅路の果て)

 

こんばんは。

 

いつもご訪問ありがとうございます。

 

フランス映画特集第五夜

 

1950年代、60年代の華やかなフランス映画の時代の作品も

 

いいですが、やはり、第一次黄金期の作品群がとても

 

好きです。

 

昨今の映画フアンはルイ.ジューベという俳優には

 

馴染みが薄いと思いますが、

 

1930年代フランス映画の黄金期を支えてきた役者としては

 

最高の人である。

 

何が最高か?

 

ギャバンが最高のスターとすれば、この人は役者として

 

フランス映画界では最高の人なのである。

 

『女だけの都』のスペインの生臭坊主ならぬ、生臭司祭役で

 

日本の映画フアンの前にはじめて登場した。

 

まず、あのギョロギョロしたキツイ目つき.

 

少々臭い芝居と思うが、毅然とした役者といわせていただくのが

 

一番ピッタリの表現だと思う、

 

コメデイ演技での芝居ではこの『女だけの都』、

 

シリアスな役ではそうですねえ..『どん底』デスか...

 

『北ホテル』も良かったし、

 

『舞踏会の手帖』では、弁護士が身を持ち崩してキャバレーの

 

経営者になり、裏で実はギャングの首領だったという役、

 

(犯罪河岸)や(悪魔のような女)に登場する鬼刑事

 

そして彼の最高の演技といわれた『旅路の果て』の

 

自堕落でプライドの高い老俳優のサン.クリエールの役である。

 

 

劇団を主宰していた彼の演技には一種すさまじいほどのものが

 

感じられる。

 

人間の内面、つまり心の奥底にある考えや、憎しみや愛や執念

 

などをどこまで正確に表現出きるかという役者のお手本みたいな

 

人であると思う。

 


    『旅路の果て』

 

    ストーリー

 

以前役者であった人たちが引退後に入っている、

 

俳優養老院というものがあって

 

新しくサン.クリエール(ジューベ)というまあ人気のあった俳優が

 

入所してくる。

 

ここには嘗てひとりの女性を奪い合った恋敵もいれば、

 

初恋ということさえ忘れて子供がいたんだということが

 

初めて知らされる相手のもと女優だった女性もいた.

 

35年間同棲して、8人の子、26人の孫がいるという

 

カップルもいる。

 

もと、男優、女優が年老いて自己主張や人を揶揄して

 

楽しむものもいれば

 

カブリサード(ミシェル・シモン)のように

人の世話をするのが好きな人もいる.

 

 

普通の老人施設と何ら変わりはないのだが、

 

むかしの栄光を今だ夢見て唄ったり、ピアノを弾いたり、

 

詩を口ずさんだりと過去と現実の境目をさ迷っている人

 

たちもいる。

 

サンは施設のお手伝いをしている女の子にも目をつけ

 

その心を簡単に利用して、たぶらかすは、

 

自堕落で女たらしの彼は人を傷つけることなどなんとも

 

思ってはいない。

 

過去のちょっとだけの栄光を傘に着て嘘八百を並べ、

 

嘲笑を買いながらも生活態度を改めることはない。

 

自分で自分あてのラブレターを書き、さもいまだに

 

まだ沢山の女性から持てているように見せかける。

 

そしてそれを暴く施設の女性たち...

 

そこでして虚勢をはるサン..

 

 

私立の施設は経営が楽ではなく、公立の施設へ

 

移らなくてはならなくなるなど、施設にも変化が起きてくる。

 

サンにむかしの女からの遺品が届けられ、

 

それが高額なものであったので

 

それをを持ってモンテカルロへ賭博に出かけていく。

 

35年の同棲生活にピリオドを打って、

 

式を挙げるというカップルのお祝いと一緒に

 

芝居の公演をすることになり、またひと騒動持ちあがるなど

 

次々とことは起こる。

 

賭博で金を使い果たすとまた、サンは戻ってきた。

 

サンに愛情を抱くように仕向けられた若い娘は

 

心を踏みにじられて自殺を図る。

 

そのとき、以前妻を取られた男マルニーが

 

今度は同じことをさせまいと

 

彼に問いただすがにべもない.

 

 

施設は赤字続きで競売にかけられる事になるが

 

寸でのところで免れる。

 

お祝いの芝居の公演では、

 

今度こそ主演がやれると思っていたいつも代役で待機だけだった

 

というカブリサードだが

 

またもや、マルニーにというお達し.

 

カブリサードはマルニーを殴り倒して舞台へ..。

 

だが舞台でセリフが出てこない..

 

あくまでも年のせいにするカブリ.

 

台無しにしてしまったカブリは失意の内に

 

我が机の引出しからピストルを...

 

階下では過去の決着をつけるべくマルニーとサンが議論を...

 

こちらも失意のうちに自殺をしようという娘はピストルを..。

 

そのとき銃声が....

 

死んだのは、カブリだった...

 

この当たりの演出はうまいですねえ.

 

そして、サンは舞台のセリフを喋りだし、

 

虚空を見つめている....気が狂ったのですね。

 

思えば入所した時からかれは過去のお芝居の中に

 

生きていたのです。

 

そして気こそ狂っていないが、

 

他の人たちも紙一重の所にいる..。

 

サンは精神病院へ入ったと所長はみなに告げる。

 

カブリはみんなへの感謝の遺書を残し、

 

弔辞の文句まで残していた。

 

 

弔辞を読むマルニー....

 

”......故人は卓越した才能の持ち主で....”

 

”こんなことは言えん!嘘だ!””彼は無能だ”

 

ここまでも芝居の続きか?カブリサードよ.....

 

 

”だが、芝居をこよなく愛した善人であった”

 

 

でも、この狂ったサン...ルイ.ジューベの

 

演技は鬼気迫るものがあります。貫禄です。

 

無能のカブりサードを演じたミシェル.シモン...

 

現実は大した役者です。うまいですね。

 

 

マルニーとサンとカブリサードの三人のそれぞれ違った

 

味わいぶかい役作りが最高です。

 

そして、セリフのない人たちのUPがことのほか多く、

 

それが目で演技をしているんですね。

 

この役者さんたちの演技もすごいし、

 

独特の雰囲気があるカメラワークです。

 

 

素晴らしい役者さんたちの集まりという映画でした。

 

 

いろんな宿題を呉れた映画で、老いの悲しさ、打ち込むものを

 

取られた淋しさ、嘘のなかに生きるしかない悲しさ、

 

だがそういった表面的なことだけでなく、

 

自分自身を心の奥底では分かっていながら他人と比較して

 

他人をけなし、また他人のことが見えていながら

 

分かっていながら認めることも出来ない、

 

老いというだけでなく、人間の原点にも相通じるものが

 

見えてきます。

 

この時代に老後の生きかたを示唆したデユヴィヴィエ、スパーク

 

は役者を将棋の駒のように動かし、木目細かに描いている。

 

やっぱりフランス映画はいい!

 

 

  制作  仏  1939年度

 

  監督  ジュリアン.デユヴィヴィエ

 

  脚本  デヴイヴイエ

      シャルル.スパーク
      ジャック・フェデー 

 

  撮影  クリスチャン・マトラス

      
  出演  ビクトル.フランサン
      ルイ.ジューベ
      ミシェル.シモン