(五瓣の椿)・銀幕の女優さん9・志麻さん② ・1964年 野村芳太郎監督 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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懐かしい名画、最近の気になる映画、映画への思いなどを綴っています。特に好きなフランス映画のことを書いていきたいです。

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(五瓣の椿)

 

こんばんは。いつもご訪問いただきましてありがとうございます。

 

 

 

まずはストーリーから入ります。

 

第一部は復讐劇の序盤戦

 

第二部は与力青木千之助(加藤剛)の登場で捜査推理の展開となっていく。

 

三時間に及ぶ大作です。


★第一の殺し

 

芝居小屋の舞台か・・・

 

定式幕がさっと切って落とされる。

 

舞台の一点を凝視している平土間に座った若い娘・

 

 

横の花道には心中の道行きへと向かう男女の役者が。

 

娘の美しいがその狂気めいた表情は何かを思いつめているのであろう。

 

娘の視線の先は主役の役者ではなく、三味線を弾く岸沢蝶太夫だ。

 

人気絶頂の常盤津の三味線弾きの岸沢蝶太夫はどこのものとも判らない

 

素人娘のおりうに熱を上げていて、舞台が跳ねた後に

 

茶屋で逢引をしていた。天保5年の晩秋であった。

 

若い割には世慣れた風で蝶太夫に自分の身分も知らせず、名も名のらず、

 

色気と手練手管で、蝶太夫をあしらう様は、とても二十歳そこらの

 

若い娘には見えず異様にも思えた。

 

その後、

 

おりうは茶屋で蝶太夫に抱かれた後に、むさしやのおそのと蝶太夫の間に

 

男女の関係があったかどうかを確認すると、男を置いて帰っていった・

 

翌朝、蝶太夫の死が発覚した。平打ちの銀のかんざしで胸を一突きにされていた。

 

枕元には

 

真っ赤な一輪の椿が置かれていた。

 

椿は何を意味するのでしょうね。何故??を思わせる素晴らしい お題 ですね。

 

この殺人事件は江戸中を賑わした。

 

そして・・・

 

★第二の殺し

 

京橋水谷町に今で言う本道婦人科の看板を上げる海野得石が住んでいた。

 

タブーとされているみだらな治療法を患者に施し、不当な薬の代金をを得ていた。

 

得石が、おみのに魅かれたのは半年程前からであった。

 

得石は昔むさし屋のおそのに特殊な治療をしてから、ずるずると関係し、

 

おそのに取り入っては資金を引き出し養生所を開業したのだった。

 

この事実もおしのは得て、第二の殺人事件に手を染めることになる・

 

どうやら母親おそのが関係した男たちが狙われているようです。

 

兇器も椿の花も前の時と同じであった。

 

椿の思い出

 

労咳を患っている父を看病しながらおしのは

 

枕元に父の好きな藪椿を生けた・

 

喜兵衛は好きな椿の話をしていた。

 

昔、家の近くに池があってね。そのそばに大きな古い山椿の木があったんだ。

 

季節になると花が水面を埋め尽くしてそりゃあきれいだった・・・・・・・

 

回想シーン★亀戸の寮炎上  

 

五年前のこと・・・・

 

むさし屋は亀戸に寮を持っていて女房のおそのはずっとそちらに

 

住んでいていつも男を引き入れていた。

 

おそのを本宅に連れてくる手配をしたと知って喜兵衛は怒った。

 

来るはずのない、来ないと分かっているのに何故余計なことをするんだと

 

おしのを叱責した。が、おしのはおそのに会いに亀戸に向かった。

 

おそのは中村座の歌舞伎役者菊次郎という若い男を連れ込んでいたが

 

本宅に帰ってくる約束をとった。

 

夜、喜兵衛はおしのに話して聞かせた。

 

喜兵衛は婿養子でむさし屋へ来てから働きづめに働いて

 

店のお金とは別に800両のお金を貯めているから、もし

 

自分に何かあったら、そのお金を持って手代の徳次郎と一緒に

 

このうちを出て行くんだよ。

 

母おそのは約束を破って菊次郎と湯治に行ってしまっていた。

 

喜兵衛の容態がいよいよ悪くなり、喜兵衛はこのままではやはり死に切れないと

 

亀戸の寮へ行くと言う。おそのに会うという。

 

雪の降り積もる中大きなかごに乗せ、

 

喜兵衛を運ぶが途中で息絶えた・・・

 

父の悔しさに泪の止まらないおしの。

 

寮まで父を運び寝かせた。

 

正月十二日の夜だ。

 

父の遺骸の置かれている前で役者の菊太郎とじゃれあう母。

 

婿養子であった喜兵衛は、家つきのおそのに裏切られても不平も言えず

 

生涯を閉じた。

 

その喜兵衛の遺体を見ても怖がるだけでひとかけらの情もないおそのに

 

今までの怨みをぶちまけた・

 

おそのはおそので言い分はあった。

 

がどうしても父が好きなおしのは母の背徳がが許せなかった。

 

その上、喜兵衛はあんたの父親じゃないよ。あんたの本当の父は、

 

日本橋の袋問屋丸梅の源次郎さ

 

と聞き、 おしのは驚いた。

 

死んだ父と対話するシーンは暗闇に志麻さんのクローズアップで影だけ・

 

このシーンは本当に素晴らしい画面です。

 

おしのは母の部屋へ向かう。

 

眠っている二人を銀かんざしで刺そうとしたが

 

おしのは

 

寮に火を放った。

 

めらめらと燃え上がり、わめく母おそのと

 

菊次郎は焼け死んだ。

 

おしのは母と菊次郎を焼き殺すと

 

母と同じ罪を分けあった男を殺す ことを決意したのだった。

 

 

第二部

 

★お倫という女

 

番所は下手人を十七、八歳の謎の美しい女と目星をつけていた。

 

八丁堀の若い与力青木千之助は、

 

最初の殺人現場となった茶屋かね本の女中の

 

記憶でお倫に会った。

 

このお倫が、おみのであり、おりうであれば、

 

殺人犯はあがるのだ。

 

しかしお倫は優雅な娘で、

 

若いがおりうの印象とは違うのだ。

 

青木はあんな娘、虫一匹殺せやしない・・と高を括った。

 

そのうえ婚約者の清一という男が名のり出た。(八丁堀の手前のお芝居ですね。)

 

だが茶屋かね本の顔見知りの女中が

 

゛岸沢のお師匠さんといらっしゃったおりうさんでしょ゛と

 

呼んだ時、

 

青木はお倫のぴくっとした表情を見逃さなかった。

 

突然の呼び声に戦慄を覚えたお倫。

 

それは初めて蝶太夫を殺した時の戦慄と同じだった。

 

青木が聞いたお倫の在所を訪ねると

 

そこはおしのの幼馴染のお店(おたな)だった。

 

青木はおりう、おみの、お倫が同一人物で殺人犯だと確信した。

 

が人を殺した者には必ず何かを感じさせるものがあるが

 

あの娘にはそれがない。何故だ??青木は悶々と歩きながら考えていた。

 

その時、後ろから゛火事だ!!゛という大声が聞こえ振り向くと

 

真っ赤な火の手が向こうに見えた。それで青木は五年前の

 

むさし屋の亀戸の寮の火事を思い出した。

 

青木は調べた・・おそのと菊次郎と父親喜兵衛とおそらく娘だろう

 

女の骨があった・・ということで事件性はなく片付いていた。

 

★第三の殺人

 

そして三人目に殺される男は清一だった。

 

放蕩三昧で女を何人泣かしたか。

 

赤い椿と共に大和やという旅館でだった。

 

  

 

★第四第五の殺人

 

数日後、青木のもとに、あと二人を殺したら自首して出るむね書き、

 

御定法で罰することの出来ない罪があるとしたためた書状が届いた。

 

二人の内一人は、実の父親源次郎であり、

 

もう一人は、母の姦通の手引きをした中村座の佐吉であった。

 

母の相手を捜すのに使われて、

 

利用価値のなくなった佐吉は第四の殺人に使われた。

 

そして残った源次郎をおしのは誘った。

 

長襦袢の衿を開いたおしのは実父の前で今迄の罪状をのべたあと、

 

顔面蒼白になった源次郎に、実の娘を犯そうとする男の醜さをなじった。

 

そして源次郎へ苦悩を植えつけると去っていった。

 

おしのからの書状を読む青木千之助は襟を正す気持であった。

 

そして、晴ればれとした顔で服役する女囚おしのを、いとおしんだ。

 

4人の男を殺した犯人が死刑となるのは当然だが、

 

野村芳太郎監督は心に秘めた目的を遂げた後、

 

かえってすがすがしい気持で牢の中での毎日の生活を送る死刑囚の姿を

 

見事に描いている。

 

 

だが、

 

源次郎がおしのに会って以来魂のぬけた毎日を送り、女房は首をくくって他界した。

 

これを聞いたおしのは、初めて 罪なき人を死に追いつめた罪の深さに 

 

犯した罪の深さに怖くなり身悶えして、青木に泣いてすがった。

 

その夜、縫い物をするおしののために用意してやった鋏。その

 

鋏をとって、生涯を閉じた。

 

千之助はこの潔癖な娘の死を目の前にして

 

泪をぬぐった。

 

母の背徳に父は堪え、死に水を取ってもらうこともなく逝った。

 

父を、全ての幸せを失った

 

娘の悲しみと怒り

 

無垢の娘を追い詰めた 人の世の汚れ・・

 

欲望と虚栄の流れの中に生命を賭けて真実を願う

 

      ひたむきな魂の物語

置かれた一輪の椿は父嘉平衛の身代わりだったのでしょうね。

 

原作以上の出来栄えではなかろうか。

 

岩下志麻さんが、 

 

迫真の演技を見せた

 

1964年の作品です。本作品によって

 

演技派女優の道を歩むことになる。

 

この作品は若い娘の復讐劇で作品の出来不出来は100%ヒロインの演技に

 

かかっていると思うのです。ヒロイン志麻さんはそのとき23歳。

 

現代の人は志麻さんを極道の妻としてしか知らないかもしれないが

 

デビュー当時から(秋刀魚の味)や(古都)などのおっとりしたお嬢さん役で

 

活躍した時期が四年余り。そして本作品のヒロインおしのを演ずることで

 

演技派に脱皮・どんな女優さんでも一皮向ける時期があるが、

 

志麻さんより少し若い当時人気絶頂だった吉永小百合さんでは

 

主人公の可憐さは演じられても、本作品の若い娘の情念や怨み

 

殺人を犯してゆく過程の男をたぶらかす演技はとても無理。志麻さんの

 

将来へ向けてのまさに大物女優へなっていく存在感を知らしめた

 

記念すべき作品で私は志麻さんのこの作品が一番好きです。

 

監督は、(砂の器)、(張り込み)(ゼロの焦点)などで知られる

 

野村芳太郎さん。

 

それまで、時代劇では捕り物帖はあったが

 

本作品によって本格的な時代劇サスペンス、

 

時代劇ミステリーの決定版が生まれたのである。

 

本作は

 

どうも気になったことがあって

 

調べたところによると、

 

原作は、(コーネル ウールリッチ)で山本周五郎さんが

 

舞台をうまく江戸に移した翻案物である。だがこちらも

 

すばらしい出来栄えの作品となったように思う・

 

野村芳太郎監督の演出は

 

まるで人形浄瑠璃の世界に誘われたような感覚を覚えます。

 

(砂の器)でも橋本忍氏が脚色に加わっていた山田洋次さんに

 

観客が浄瑠璃を見るような絵にして欲しいと頼んだそうだが

 

この(五瓣の椿)もこってり浄瑠璃風に出来上がっていたように思います。

 

それが野村カラーなんでしょうね・

 

人殺しは許せないんだけれども、どちらの作品も

 

犯人に対するやさしさや同情、そんな思い入れが見るものの

 

琴線に触れるのではないだろうか。

 

一昨年前のサスペンス特集でフランス映画、F・トリュホー監督の

 

(黒衣の花嫁)を書いたときにもちょっと触れましたが

 

こちらもコーネル ウールリッチ作品の同じ作品の映画化。

 

五人の男への復讐劇はまったく一緒なんですが

 

野村作品は後の味付けがまったく違ったものになりました。

 

フランス作品はシャープでファッショナブルでクールな復讐劇になり、

 

方や豪華な美術、完璧なセット。松竹が総力を結集した超大作で

 

今見ても、豪華俳優人のすばらしい存在感、演技、

 

もう何もかもが揃ったこういった一級品の作品にはお目にかかれない時代になりま

 

したねえ。

 

映画がまだセットにかけるお金を節約しなかった時代の最後の入魂の装置。

 

日本の情念の世界での娘の復讐劇はウールリッチの原作、周五郎さんの翻案物を

 

はるかに超えた素晴らしいものとなったのではないでしょうか?・・・

 

 

製作 松竹 1964年

 

出演 

岩下志麻=おしの、おりゅう  、おみの、お倫、およね 

 

岸沢蝶太夫=田村高廣  

 

茶屋かね本の仲居おはな=千之赫子 

 

海野得石  伊藤雄之助 

 

むさし屋喜兵衛  加藤嘉 

 

おその    左幸子 

 

徳次郎    早川保

 

菊太郎    入川保則 

 

青木千之助   加藤剛 

 

清一      小沢昭一   

 

佐吉      西村晃 

 

丸梅源次郎   岡田英次 

 

その妻お孝   山岡久乃 

 

時代劇サスペンスの最高峰

この年のブルーリボン主演女優賞を受賞しています。