
平成29年2月9日判決言渡,同日原本領収裁判所書記官 杉山緑
平成28年(7)第21205号 遺産確認請求事件
口頭弁論終結日 平成29年1月24日
主 文
1. 別紙特許権目録記載の特許権及び別紙商標権目録1及び3の商標が故原善郎三(平成20年10月1日死亡)の遺産であることを確認する。
2 別紙商標権目録2の商標のうち、旧商標登録番号第4431043号,第4 436085号,第4636254号,第4702281号,第476744 4号が故原善三郎(平成20年10月1日死亡)の遺産であることを確認する。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 新訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
別紙特許権目録記載の特許権及び別紙商標権目録1ないし3の商標が故原善三郎(平成20年10月1日死亡)の遺産であることの確認を求める。
第2 事案の概要
本件は、原告が、故原善三郎(平成20年10月1日死亡。以下「善三郎」という。)の共同相続人である被告らに対し、遺産分割の前提として、別紙特許権目録記載の特許権及び別紙商標権目録1ないし3の商標が善三郎の遺産であることの確認を求める事案である。
1. 争いのない事実等(証拠によって認定した事実については末尾に証拠を掲記する。その余は争いのない事実である。)
(1) 善三郎は、平成20年10月1に死亡した。
(2) 善三郎の法定相続人は、原告と被告らの3名である。
(3) 善三郎は、生前,同人名義で、別紙特許権目録記載の特許権(特許第3 432175号(以下「本件特許権」という。)を平成15年5月23日に登録した。本件特許権は、現在もそのまま特許登録原簿に記録されている。
(4) 善三郎は、同入名義で、別紙商標権目録1ないし3の商標権(以下「本件商標権」という。また、本件商標権のうも、個々の商標権については、商標権目録の番号に合わせて、「本件商標」などという。)を登録した。 本件商標
権1は、そのまま善三郎名義で更新されている。本件商標権3は、 存期間満了を理由に失効し、その登録抹消された。
(5) 原告と被告らは、平成21年7月24日,遺産分割協議書を締結の時点で判明していた善三郎の遺産を分割したが、その後に新たに判明遺産については改めて協議することとしていた。なお、遺産分割協議書には分割すべき遺産として本件特許権及び本件商標権が挙げられていない (甲1)。
(6) 原告は、被告らに対し、本件特許権及び本件商標権につき、新たに判明した遺産として分割協議を申し入れたが、被告らは、これらはいずれも株式会社ザマイラ(以下「訴外会社」という。)に実質的に帰属するもので遺産の範囲には属しないと主張した。原告は、東京家庭裁判所に対し、平成28年3月2日、遺産に関する家事調停を申し立てたものの、被告らは同様の主張をしたため、同年6月3日の第2回調停期日において不調となった。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 本件商標権2の「商標登録」 番号として列挙された部分と「旧商標登録番号」として列挙された部分は同一か(争点1)
(原告の主張)
本件商標権2については、被告らにおいて、善三郎死亡後これをいったん失効させた後、訴外会社名で改めて商標登録をしている。本件商標権2のうち「商標登録」番号として列挙された部分(商標登録 第5465438号, 第5472544号,第5664262号,第5717381号,第577 6956号。以下「訴外会社名登録部分」という。)と「旧商標登録番号」 として列挙された部分(旧商標登録番号 第4431043号,第4436 085号,第4636254号,第4702281号,第4767444号。 以下「善三郎名登錄部分」という。)とは同一性がある。
(被告らの主張)
本件商標後2のうち、訴外会社名登録部分は,善三郎の相続開始後に発生したものであるから、善三郎の相続財産に含まれることはあり得ない。訴外会社未登録部分と善三郎名登録部分とは、同一性がない。
(2) 本件特許権及び本件商標権の実質的な帰属主体が訴外会社と認められるか(争点2)
(被告らの主張)
本件特許権,本件商標権1及び3,本件商標権2のうち善三郎名登録部分は、被告らが代表取締役を務める訴外会社を権利者として発生し、善三郎の相続開始時においても同社に帰属していたものであるから、善三郎の相続財産には含まれない。
本件特許権は、平成11年頃、化粧品成分の開発の委託を受けていた取引業者から、当該開発過程で確認された新たに特許可能な成分について特許出願するよう提案を受け、出願に着手したもので、発明の開発の費用、出願費用、特許料を訴外会社が負担した。本件商標権のうち訴外会社名登録部分以外のものについても、訴外会社の化粧品販売事業の新商品に付す目的で出願されたものであり、出願・登録費用は訴外会社が負担している。以上につき、 善三郎は、訴外会社の実質的経営者として積極的に関与して意思決定してきたものであるが、他方で、特許権者、商標権者としての形式的な名義登録だけは、個人のものとしたいと強く固執したため、特許権者・商標権者の名義人は善三郎として出願された。
(原告の主張)
特許法上は、出願人と発明者という概念があり、これに基づいてのみ特許権者が決定されるのであって、これ以外の者が特許権者と認められることはない。
(3) 原告が本件特許権及び本件商標権を認識していたか(争点3)
(被告らの主張)
原告は、平成7年6月から平成13年4月まで、訴外会社の副社長兼製造統括者の地位にあったから、その立場上、上記(2)における被告らの主張にかかる事実を認識しており、 本件商標権のうと訴外会社名登録部分以外のものの権利者が訴外会社であることを認識していた。よって、 本作特許権及び本件商標権のうち、訴外会社名登録部分以外のものは、「被相続人につき」「発見された」 「新たな遺産」には当たらない。
(原告の主張)
原告は、「訴外会社で勤務していたことは認め、その間、同社の業務で使用する特許の出願や商標権の出願に若干関与したことはあるが、最終的に権利者が誰なのかは全く関知していない。遺産分割協議において、本件特許権や本件商標権について原告が全く思い至らなかった事実は認める。この協議においては、被告らが依頼した税理士が遺産調査を行った結果として俎上にのぼった遺産の分割協議が行われたため、原告代理人において、今回俎上にのぼらなかった遺産があるかもしれないことを危惧して再協議の条項を加えてもらったものである。
第3 争点に対する判断
1 争点1(本件商標権2の「商標登録」番号として列挙された部分と「旧商標登録番号」として列挙された部分は同一か)について
(1) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件商標権2のうち、善三郎名登録部分については、以下の日時に、存読期間満了を原因として、登録が抹消された(甲6の2、7の2、8の2、 9の2、10の2、乙17,19,21,23,25)。
旧商標登録番号 第4431043号 平成23年7月13日
旧商標登録番号 第4436085号平成23年8月10日
旧商標登録番号 第4636254号平成25年9月25日
旧商標登録番号 第4702281号平成26年5月14日
旧商標登録番号:第4767444号 平成27年1月28日
イ 本件商標権2のうち、新外会社名登録部分につき、以下の日時に、訴外会社を登録名義人として、登録された (甲6の1,7の1、8の1、9の1.10の1、乙18,20,22,24,26)。
商標登録 第5465438号 平成24年1月27日
商標登録 第5472544号平成24年2月24日
商標登録 第5664262号平成26年4月18日
商標登録 第5717381号平成26年11月14日
商標登録 第5776956号 平成27年7月10日
(2) 新外会社名登録部分は、善三郎の相続開始(平成20年10月1日)の後に登録されているから、善三郎の遺産であるとは認められない。なお、原告は、善三郎名登録部分と訴外会社名登録部分が同一である旨主張するが、商標権は、設定登録により発生するから(商標法18条)、これ 「らが同一であるとは認めることはできない。善三郎名登録部分が善三郎の遺産であるかについては、争点2において検討する。
2 争点2(本件特許権及び本件商標権の実質的な帰属主体が訴外会社と認められるか)について
特許法上,出願人,発明者などが特許を受ける権利を有し、審査を経て設定の登録により特許権が発生するものとされており、特許権は権利者として登録された者に帰属すると解される。被告らは、本件特許権につき、権利者として登録されたのは善三郎であ
るが、 実質的には訴外会社に帰属すると主張するが、上記の特許法の解釈からすると、 登録とは異なる「実質的な特許権者」という概念を容れることはできないから、 本件特許権が訴外会社に実質的に帰属し、善三郎の遺産ではないとの被告らの主張は採用できない。この理は、本件商標権についても同様である。したがって、本件特許権、本件商標権1.3、及び本件商標権2のうち善三郎名登部分は、善三郎の遺産であると認められる。
3 争点3 (原告が本件特許権及び本件商標権を認識していたか)について
争いのない事実等、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告、被告らの間の遺産分割協議においては、原告から本件特許権及び本件商標権を遺産分割の対象とすべきとの指摘はされず、本件特許権及び本件商標権については遺産分割の対象とされなかったこと (甲1) が認められる。被告らは、原告は本件特許権及び本件商標権のうち訴外会社名登録部分以外のものの実質的権利者が訴外会社であることを認識していた旨主張するが、そもそも実質的権利者という概念を容れることができないのは上記のとおりであり、また、本件全証拠によっても、遺産分割協議において、原告が本件特許権及び本件商標権が遺産分割の対象とすべき財産であるこ
とを認識していたのにあえてこれらを除いた産分割協議を成立させたことを認めるに足りない。
4 よって、原告の請求は、主文の限度で理由があるから。認容し、その余を棄却
する。
東京地方裁判所民事第39部
裁判官 脇 田 奈 央