保護責任者遺棄致死罪(219条、218条)              | Ted Conder Japan report

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<課題>Aは、夜間自動車を運転中、運転を誤って通行人Bを轢き重傷を負わせた。Aはいったん下車してBを助け起こそうとしたが、Bが瀕死の状態であり、Aは驚愕してそのまま放置したため、Bは救命が遅れて死亡した。Aの罪責を論ぜよ。

<解答>

Aの行為では、負傷者救護義務違反(道路交通法72条1項前段)、事故報告義務違反罪(道路交通法72条1項後段)、保護責任者遺棄致死罪(219条、218条)、殺人罪(199)の成否が問題となる。

  1. Aの保護責任者遺棄罪(218)について検討する。保護義務は、単に道徳上のものでは足りず、法的なものでなければならない。発生根拠としては、法令、契約、事務管理、条理が挙げられる。本件では運転者の負傷者救護義務(道路交通法72条1項前段)があり法令規定に該当し、保護責任者遺棄罪(218)が成立する。

  2. 遺棄致死傷罪(219)について検討する。保護責任者遺棄罪の結果的加重犯であり、本件の場合「よって、人を死傷させた」に該当するから、遺棄致死罪が成立する。

  3. 殺人罪の成否について

    1. ひき逃げの行為者に殺意が認められれば、単純ひき逃げの場合でも殺人罪が成立しうるとする見解。

    2. 単純ひき逃げの場合でも殺人罪が成立しうるが、ただ未必の故意では不十分であり確定的故意がなければならないとする見解。

    3. 単純ひき逃げの場合は殺人罪は成立せず、殺人罪が成立するには移転を伴うひき逃げないし引き受け行為がなければならないとする見解。

      交通事故の場合殺人罪が成立するためには、確定的故意が必要と考えるため上記②が適当であり、本件の場合殺人罪は成立しない。

4)以上からAの罪責は、負傷者救護義務違反(道路交通法72条1項前段)、事故報告義務違反罪(道路交通法72条1項後段)、保護責任者遺棄致死罪(219条、218条)に当たる。                                   以上

<参考文献>

交通事犯と刑事責任、岡野光男、成文堂、2007

刑法各論講義ノート4版、日高義博、勁草書房、2015年