独特の猥雑さを払拭する狙いがあるのか、照明はわざとらしいまでに煌々と人々の顔を照らし出している。
ここには国籍も宗教も異なる人種、もちろん善人も悪人も、誰もが落ち着かない目をして蠢き、ひしめき合い、また放たれて行く。
私はブランドもののポーチの中身をもう一度確認した。
(大丈夫。これさえあれば最低限の身分は保証されるのだから。)
右腕の震えを押さえ込むように重い荷物を引き上げると、カウンターへ差し出す。敢えて言葉を発するべきではないだろう。ここではどんな詭弁も通用しないことは私のような経験の浅い女だって知っている。
「お前さんはあっちのゴツいヤツんとこへ行きな。こいつはここじゃあ通せねえ。」
気分の悪い汗が背筋を伝った。
ゴツいヤツ、と呼ばれたそいつの腰には遠目にも武器だとわかるものが下がり、私が近づくにつれ露骨に値踏みをするように帽子を指で押し上げた。
「そいつをここへ出しな。」
「それ」は翌日の宴にはかかせないものなのだ。こいつらにかすめ取られるわけにはいかない。
気がつくと私の背後にもう一人、屈強な男が立っていた。幸い面は割れていない、それに私にはポーチの中身がある。それでもなお背後に近づく人間に気がつかないとは!
(なんて迂闊なの!)
内心とは裏腹に笑顔だけは絶やさないのは悲しい習い性だ。
「ねえさん、コイツぁマズいぜ。」
昔、そう、もう忘れてしまうほどに昔、女だてらにこんな場所をうろつく私に苦言を呈した男がいた。ふと、その男の言葉を思い出す。
武器はお前自身だ!
「ねぇん、お兄さん達、赦してよ。初めてで知らなかったのよ~。ほんとよ、この他にはなぁんにも持ってないの。お金ならちょっとはあるの!待って、いくら払えばいい?」
たどたどしい韓国語で媚態を作り、息がかかるほど近くまで身を寄せる。
(ダメ?!)
覚悟を決めた一瞬の後、ヤツラは私との間合いを計ると苦笑しつつこう言った。
「今回だけだぜ、ねえさん。ホラ、行きな。」
「ありがと!顔を覚えておくわ。See you!」
外は年末の喧噪とけばけばしいネオンが雨に濡れていた。
結局のところ、私は嫌いではないのだ。ここが。
ソウルに入国する時、私の予備知識が古かったのか規定を若干オーバーしたお酒を持ち込んでしまい、税関で2,3質問されたあと許してもらったっていうだけの話です。ソウルの税関職員もアタシの媚びを買ってくれるようななまっちょろい皆さまではありませんので、誤解なきよう。