まさおの手記帳

まさおの手記帳

説明不要。

Amebaでブログを始めよう!

 3月29日。僕の誕生日。

 こんな僕にも彼女ができたことがあって、今のところ最初で最後なわけだけれど。そして今となっては元彼女なわけだけれど。

 そんな二人も、互いの誕生日にはメールをやり取りする。

「どうしてた?」

「元気でやってんの?」

「そっちは大変?」

 そんな風に互いに近況を報告し合う。

 未練がましい?
 重々承知な訳で。だらだらと垂らして、醜く汚いとは分かっていても、心の隙間から垂れてしまう。
散々誰かには偉そうに説教しておいて、今になって恥ずかしい。
 かといってストーカーとは断じて違う。

 とにかくも。
 僕は聞いた。

「未だに一人暮らし?」

 もちろん予想、想像、妄想の予防接種は受けていた。
 でも期待や希望や願望がぶくぶくと膨れだし、ネガティブを希薄にした。

「実は今、同棲してて。今年中に結婚しようと思ってる」

 膨らんだポジティブはモノの見事に割れて、それはもう大きな音で割れて。リバウンドよろしく、代わってネガティブがぱんぱんに膨れだす。

 誰とは言わないがひねた君あたりはきっと笑っているだろう。
 僕だって笑ってやりたいのは山々だけれどね。そこまで起用じゃない僕には、泣きながら笑うのは少し難しい。

 そして女々しい僕は。

「おめでとう!」

 カッコつける。

「幸せだ。良かったな」

 カッコつける。

「これでやっとほんとの友達になれるな」

 カッコつける。

 カッコ良すぎて、ほんとにダサい。ほんとブサイク。

 オレの方が幸せにできるとか、オレの方がお前を想ってるとか、素直に噛み付いてやれば良かった。きっとどっちもおニューの彼には負けているんだろうけれど。それでも噛み付いてやれば良かった。

 これでやっとほんとの友達になれるな。
 だって、奥さん。
 やーねー。

 ケータイぶん投げてやろうかと思ったけど、壊れるからやめた。

 もういいでしょ、この辺で。
 ねっ。
 すっきりしたでしょ。
 次行こ、次。
 あそこのTSUTAYAの子なんて可愛いよ。
 あそこの携帯ショップのお姉さんなんかも美人じゃない。






 こんっ

 ちくしょう!!
 これは私の夢の話。


 飴色の本棚に数々の書籍が並ぶ。ジャンルは問わず、参考書、アートブック、マンガに小説、絵本や雑誌なんかもある。木の匂い、紙の匂い、射し込む陽の匂いがほのかに香る場所。ここはいつも静かで、ほとんど僕ひとり。校内の図書室なんてこんなものだ。本に興味があるやつなんてガリ勉か根暗な奴だけ。それらでさえこうも入り浸るやつは他にいない。健全な男女学生は今頃陽の光を浴びて青春なる汗を流しているだろう。
 そして僕は図書室にいた。
 自分で言うのもなんだけれど、僕はガリ勉でもなければ根暗でもない。しかし今では毎日のようにここへ通う。並んだ本をひとつふたつと読み漁り、もう何冊読んだのか分からないほどだった。
 そして僕は今日もここで探していた。


 あれは去年の春。ありきたりで本当に申し訳ないのだけれど、隣の席に君がいて、これが君と僕との出会いだった。
 君の赤らんだ頬が目に焼き付いて離れない。僕は恋をしたようだった。
 時は過ぎ、半年ほど経った夏の頃。僕はついに君を呼び出した。そして「好きだ」と言う。すると君は「私は嫌い」と微笑み言った。
 季節は巡り秋になり。僕はまたも君を呼び出した。そして「大好きだ」と言う。すると君は「私は大っ嫌い」と微笑み言った。
 秋から冬になり、雪がちらつく空の下。僕は懲りずに君を呼び出した。そして「愛してる」と言う。すると君は「愛がどんなものか知ってるの?」と微笑み言った。
 三戦三敗三連敗。鈍感というよりは不感に近い僕に、傷も失望も諦めもない。
 世間一般僕の君の愛とはなんだろうか。愛について真剣に考えたことなど今までなかった。すぐに考えを廻らせてみたものの、愛ってどんな色?愛ってどんな形?愛って何でできているの?僕は知らない。
 そして僕はこの図書室に入り浸るようになる。
 愛とは。
 それを僕は探し始める。


 冬を越え、春を過ぎ、夏を迎え、現在。夏休みの宿題を放り出して僕は図書室にいる。そしていつものように本を選び手に取った。
 タイトルを聞いても著者の名を聞いてもピンとこない、無名に近い小説だ。だが僕は覚えている。これは一度読んだことがある。家に持ち帰ってまで読みきった本だ。
 この図書室ではいろいろな本を読んで、いろいろな愛を見た。いろいろな愛。それは赤で、青で、白くもあり黒くもあり。まるく、しかくく、とげとげしくもあり。幸せや、喜びや、憎みや、もしくは悲しみでできている。
 この無名に近い小説の主人公は最後にこう言う。

「愛がなんなのかなんてことを考えるより、君のことを考えていたほうが随分と愛に近づける」僕は本を開き、彼の台詞を呟いた。

 ページをめくり、裏表紙の内側に貼ってある貸出カードを見る。そこには僕の名前と、そしてもうひとり。君の名前。

「愛は見つかった?」不意に声が聞こえた。とても聞き覚えのある声。絶対に忘れることのない声。僕の心を見透かしたような君の声。

 僕は、貸出カードにやった視線を正面に戻した。本棚に並ぶ本達の隙間から君の顔が覗いていた。
 君の問いに僕は首を横に振る。
 君はくすくすと笑い、僕の目をじっと見つめた。

「根暗なんだね」微笑む君は言った。

 僕はすぐさま反論しようと口を開きかけた。僕はガリ勉でも根暗でもない。

「でも嫌いじゃない」僕の反論を待たず、君は言葉を続けた。

 そんなことを言うもんだから、僕は開きかけた口をそっとつぐんだ。僕は根暗だ。根暗でいい。

「いつになったら僕の事を好きになってくれる?」

「君が私を好きじゃなくなったら」

 本棚の向こう側で微笑む君が、僕は好きでたまらない。



 おわり。