こんにちは。
今日は懸魚の種類について綴りたいと思います。
ちょっと長くなってはいるのですが、よかったらお付き合いください。
懸魚の名称は、まず使用箇所と形式・手法の2つに分類され、表現されます。
[使用箇所別]
拝懸魚:(おも懸魚)、破風の頂点-すなわち-拝みの部分にある懸魚
降懸魚:(桁隠・脇懸魚)、破風の流れの中腹、桁の端にある懸魚
兎の毛通し:(唐破風懸魚)、唐破風にある懸魚
[主な形式・手法別]
猪の目懸魚:猪の目-すなわち-心臓形、瓢箪形の彫刻のある懸魚
鏑懸魚(カブラゲギョ):懸魚の垂下部分に人字形の段彫りが重なっている懸魚
三ツ花懸魚:下向きのみならず、左右にも同様の形が突き出ている懸魚
梅鉢懸魚:へこんでいる形の六角形に近い懸魚
(切懸魚:直線ばかりでできた懸魚)
懸魚の両脇に、鰭という付加彫刻がつけることが多い
(鰭は鎌倉時代末期以降とみられている、鎌倉・室町時代の鰭は蟇股と共通する点が多い
→時代の特色が分かる)
ある一つの懸魚を的確に表わすには、使用箇所と形式を合同で表現し、
例えば「三ツ花降懸魚鰭付」となる
形式・手法別においては、意匠が違い、時代によって様々なものが見られる。
ということから、懸魚の意匠からその建造物の創建年代なども分かるのではないかと考えている。
ただ、懸魚を含め、破風は非常に交換されやすい部位であるので、
交換後も懸魚の意匠がそのままである場合のみに可能であると思う。
[形式・手法別] 詳細
特徴:心臓形またはこれがずれて重なったときにできる瓢箪形の彫刻がある
最も古い形態と考えられている(主に鎌倉時代以降、だが平安時代以前にもあったのではないか)
中宮寺天寿曼荼羅繡帳の鐘楼の妻(国宝)(奈良県)が飛鳥時代につくられており、それが猪の目らしく表現されているため
(*天寿曼荼羅繡帳は、聖徳太子の冥福を祈るため妃であった橘太郎女(タチバナノオオイラツメ)がつくった当時のカーテンのようなもの)
輪郭に沿って平行線を刻み出す覆輪という技法が流行(安土桃山時代以後)
主な例:
奈良県
当麻寺曼荼羅堂閼伽棚
東大寺法華堂閼伽棚
京都府
宇治神社本殿
峯定寺本堂厨子(現在最古とされている)
水度神社本殿
藤ノ森神社大将軍社社殿
金戒光明寺阿弥陀堂
西本願寺飛雲閣船入之間
清水寺西門
滋賀県
西明寺本堂妻
栃木県
日光東照宮神輿舎向拝一部
②兎の毛通し(唐破風懸魚)
特徴:唐破風のもつ特殊な曲線に合わせた懸魚となっている
通常の懸魚を上下に圧縮した形
使用:唐破風
主な例:
奈良県
法隆寺聖霊院厨子
京都府
峯定寺本堂供水所
竜安寺方丈玄関
東本願寺勅使門
清水寺西門
西本願寺飛雲閣船入之間
西本願寺飛雲閣中層正面
西本願寺飛雲閣黄鶴台浴室
妙心寺玉鳳院唐門
上醍醐寺清滝堂拝殿
大徳寺唐門
滋賀県
円満院宸殿玄関
地主神社幣殿
③その他の懸魚
主な例:
三ツ花鏑懸魚 永保寺(エイホウジ)開山堂(鎌倉時代末期~室町時代初期)(岐阜県)
東福寺三門東妻(京都府)
三ツ花懸魚 妙心寺玉鳳院開山堂(京都府)
鏑(蕪)懸魚 金戒光明寺鐘楼(京都府)
妙心寺浴室(京都府)
梅鉢懸魚 釈尊寺観音堂厨子(長野県)
妙心寺小方丈(京都府)
降懸魚 妙心寺玉鳳院開山堂(京都府)
棺飾懸魚
その他にも拙いもので、
雁股(カリマタ)懸魚、二重懸魚、貝頭懸魚(江戸時代)、雲懸魚、
浪懸魚(江戸時代末期)、楯懸魚、彫懸魚、切懸魚、結綿懸魚
などが存在しており
同様に、鰭に関しても雲鰭、若葉鰭などというものも多数出現することとなった
三ツ花懸魚 鏑(蕪)懸魚 梅鉢懸魚
雁股懸魚 二重懸魚 貝頭懸魚
④魚(尾)形懸魚
特徴:尾が左右に開いている
目を有し、鰭も備えている
懸魚の源流を語る上で不可欠な初期型の懸魚
主な例:
大阪府
四天王寺金堂
奈良県
金峯山寺厨子
京都府
東寺(教王護国寺)慶賀門
ちなみに、主体の中央部上に六葉という六瓣花がある
基本的に六葉が主流ではあるが、
三、四、五、六、八葉、ロゼット型のようなものもあるとされている
また、下方の巻き込んだ部分は蕨手と言うこともある(古いほど蕨手は少ない)
様式の時代鑑別には、共通の癖をつかむことが大切といわれている
これを機に、寺社建築を訪れるときには
懸魚にも目をあててみるのもいいかもしれません!^^
*図は筆者作成
それでは(・∀・)