(前回記事の続き)


仕事現場から帰社する車の中、決心した。





もっとも古典的大技、

「人違いじゃないですか?」




これで通そうと。


















帰社。


エレベーターの中、余計な緊張感が走る。





14Fに着いた。ドアが開く。





いない。そりゃエントランスにはいないだろう。





あのドアの向こうに行かなければ会えないのだから。




そのドアを横切って、自分の部署へ向かおうとした瞬間、不自然なコーヒーの香り。





「よー、今日は午前中、〇〇社に行ったんだって?」





コーヒーを片手に、あの上司がなんと右側死角からヌッと忍び寄ってきた。不意打ちだ。





すぐに返事は危険だ。





選択肢として

①お前がさぼってたのは知ってるんだぞ!

②〇〇社から用件は聞いてるよ。(あ、目は合ったけど気がついてなかったんだ?)

③本当に〇〇社に行ってるとは。でも俺はお前が朝マックでさぼってたのを見たはずなんだ。かまかけてやる!





わずか1秒程に、恐ろしいほどの情報が頭の中を錯綜し、決心がつかず、





「えー」





と、1秒勝負を延ばした。




その1秒で、

人違いで通す覚悟を自分に問うてみた。できるのか?できないのか?





待ったなし。ふいに私は残り0.1秒で、練習なしの第④の選択を選んでしまった!!!











「よー、今日は午前中、〇〇社に行ったんだって?」





「えー、あっ常務、〇〇〇〇社より急いでくれって指示が来たのをご存知ですか?」





「急いでくれって●●のことか?突然すぎないか?」





「それで、打ち合わせを両社の営業サイドで詰めないといけなかったので、朝はカフェで待ち合わせしたんですが…なんとか間に合いそうです!」





何言ってんだ私は。どろ沼にはまらなきゃいいが。





「打ち合わせって…マクドナルドでか?」





やっぱり知っていやがった。そのことを引き出そうとするための罠だったんだ、かまかけてたんだ!





「カフェに向かおうとしたらまだ時間があることに気づいて、とりあえず朝マック…」





「向かう先がカフェで、その前にマクドナルドってなんなんだ?」





「カフェのモーニングは高いんですよねー。」





「マクドナルドでも500円近くするだろ?」





「いや、今はコーヒーのSサイズとハンバーガーでコンビというのがあり、200円で…」





たかがメニューの話なのに、こんな緊迫感は初めてだ。





しかも、〇〇〇〇社との案件はとっくの昔に片付いている。現場を把握してないからわからないんだ、このお方は。





「あ、あの固まったポテトは?」





「あれがつくと、400円台になるんです。量はコンビで充分。」





「でもあのポテトがおいしいからな。ハッハッ」





ハッハッ。










乗り切った。