【疑問】

3倍体のオニユリは種子が得れることが知られているが、その他のユリはどうなのだろうか。



2022年のことになりますが、3倍体スカシユリにおいて稔性のある交配ができました。


一般的に3倍体は不稔ですがオニユリとコオニユリとの交配のように花粉が2倍体の場合は花粉管の伸長が起こり、子房親が3倍体であってもオニユリの場合は減数分裂により種子を得ることが知られています。

花粉が3倍体の場合は花粉管の伸長が無く不可能とされますが、昭和12年佐藤氏の研究によると8%ほどの稔実種子を得れるとのこと。その際に得られる実生個体は異数体がほとんどであり完全不稔に終わります。


3倍体オニユリはコオニユリと交雑することが知られますが、昭和23年の清水氏の交雑親和表によるとオニユリを♀親に、エゾスカシユリ、イワトユリ、タツタユリ、スカシユリ、コマユリ、コオニユリとの交雑において可稔であることが分かっています。これらの♂親は東アジアのsinomartagon節で構成されていますのでダビディやイトハユリなどとも可稔であると考えられます。一方で他の節に分類されるテッポウユリ、ササユリ、リーガル、タケシマユリとは不稔を示すようです。





本題です。昨年、LAハイブリッドの3倍体自家交配と3倍体を雌に用いたアジアティック・ハイブリッドで種子を得る事に成功しました。


①3倍体LAハイブリッド ブリンディジの自家交配

グループ:LA

組み合わせ:♀ブリンディジ(LA)×♂ブリンディジ(LA)

交配手法:花柱切断法 自家交配



2022/08/18


2022/10/08



♂♀共に3倍体の交配でしたが、36の有胚種子を得る事に成功しました。

※交配前に風や虫によって付近のユリの花粉がついた可能性もあるかもしれません。


3倍体同士なのでオニユリのようにほとんどの子孫は異数体や破片染色体を持つ事になります。



2023/11/26播種。写真は2023/12/19

ハウス内で管理しています。夜は寒いですが日中は20度に達しますので温度は気にしなくても良さそうです。ただ昨年の種子を常温保存していたので発芽率は低下していると思います。昨年播けばよかったのですがなかなか時間を取れず今年播くことに( ;  ; )




現在LA、OAにおいて様々な品種が発明、流通されていますが、これらのグループにはしばしば3倍体の存在が認められます。Longiflorum×Asiatic  (LA)のF1は2倍体なのですが、これをAsiaticにバッククロスする事によって3倍体のBC1を得ることができます。割合として3倍体が約7割、2倍体が約2割、2x-1のような異数体が1割確認されることが分かっています。



LAを用いた交配では互いが2倍体であってもLongflorum(テッポウユリ)の性質が雄性不稔を引き起こすため、ほとんどが不稔を示します。



②3倍体アジアティック・ハイブリッド ナボナの交配

グループ:AH

組み合わせ:♀ナボナ(AH)×♂トレンディサンタドミンゴ(AH)

交配手法:花柱切断法


上の写真がナボナ

下の写真がトレンディサンタドミンゴ


トレンディサンタドミンゴの倍数体は特定することはできませんでした。なんとなく2倍体の気がします。




2022/08/18 交配したナボナ



2022/10/08


ほとんどが秕でしたが10の有胚種子を得ることができました。




③不稔を示す3倍体LAパビア

3倍体LA品種パビアを用いて様々なパターンを3年間5株を使って試しましたがいずれも結実しませんでした。子房も膨らむことなくただ小さくなる一方で胚培養も難しそうでした。今年さらに20球ほど入手できたのでより多くの品種との交配や手法を試してみたいと考えています。




【考察】

この交配結果により3倍体オニユリ以外にも3倍体アジアティックハイブリッド、3倍体LAハイブリッドで稔性を確認することができた。オニユリ、アジアティックハイブリッド、LAハイブリッドに共通することは全て東アジアのsinomartagon節の遺伝子を含むことである。よって同節のL.papilliferum、L.davidii、L.cernuum(マツバユリ)、L.bulbiferum、L.callosum(ノヒメユリ)、L.pumilum、L.concolor(ヒメユリ)を人為的に3倍体にしたり交配に用いて3倍体を作ったとしても子孫を残せるのではないかと考えた。また、LAでも稔実種子を得れたということはアジアティックの遺伝子を持つOAやATでの3倍体可稔性の可能性も見出した。