西棟では、ゼノンが包みを丁寧に開けて、一つ一つ、中身を確認していた。
城の皆から献上されたプレゼントだ。
本やペン、ぬいぐるみなどが入っていた。
「まさか、自分がこんな扱いを受けることになろうとは。以前の孤独な頃とは大違い」
と、嬉しそうに独り言を言っていると、ノックの音が聞こえ、部屋にカノンとメグミが入ってきた。
「いらっしゃい。もう議会は済んだのですか?」
と、始めは気軽に声を掛けたが、少し緊張した面持ちのメグミに、
「・・・真剣な顔をして、どうしたのです?何かトラブルでも?」
と心配そうに尋ねた。
「あのね、ゼノンに魔族との戦いのこと話してなかったから、改めて話そうと思って。ゼノンにとっていい話にならないと思うんだけど、聞いて欲しいの」
「それはもちろん。その前置き、ちょっと怖いですが、聞いておきたいです。こちらへどうぞ」
「・・・信じられないかもしれないけど・・・」
そう切り出して、メグミはゼノンに、ソロモンのことをありのまま話した。
聞き終わると、案の定、ゼノンは手で口を押さえ、うろたえた。
「そんなことが・・・。敬愛してきたソロモン卿が、黒幕・・・?魔族は、わたしと同じ黒魔術師が生み出した、人間の魂を利用した化け物だったなんて・・・」
「ごめん。ショック受けるって分かってたけど、話すべきだと思った。大切な友人だから。ソロモンさんのしたことは決して許されないことだよ。でも、志は高かった。あの人もハトリックに貢献しようと必死だったことは、確かなんだよ」
「・・・けれどもう、尊敬はできませんね。不運な男だったのです。あの時代に生まれたばかりに」
メグミは、ゼノンの背中に手をやった。
「ごめんなさい。ゼノンが信じてきたものを壊してしまうようなことを」
「いえ、メグミさんは悪くないです。・・・ソロモン卿はわたしの中で偉大な存在だった。あの人のように人々を救えるような大きな存在になりたかった。・・・皮肉なものですね。その彼が生んだ魔族から人々を守り、歴史的な功績を残すことになるだなんて・・・」
彼はそう言って、力なく笑った。
「ゼノン・・・」
「あ、あのさ、・・・」
今まで黙って聞いていた黒猫が、少し言いにくそうに口を開いた。
「ご主人に今まであえて伝えてなかったことがあるんだ。この際だから、俺からも本当のことを言わせてくれ」
メグミとゼノンは顔を見合わせ、再び黒猫の方を向いた。
「伝えてなかったことって?」
「実は、ご主人にはソロモンのように偉大な存在になれる可能性があるって俺には分かってたんだ。召喚されたその瞬間から」
「・・・?どういう意味です?」
「それは俺が、かつてソロモンに召喚された使い魔だからだ」
部屋がシンとなる。
「ま、またぁ。こんなときに冗談はやめてよ」
メグミが信じられないというように笑う。
カノンは憤慨した。
「俺が珍しくこんな真面目に話してるのに、なんだよ!この状況でウソつくわけねーだろ!」
「証拠はあるの?」
「魔力は召喚した悪魔の階級に比例する。ハトリックを覆う規模のシールドを、あれだけ長期間張り続けられる魔力だ。それだけでも下級の悪魔じゃないことぐらい分かるよな?ご主人なら」
「え、えぇ。それはそうですが・・・」
まだ信用できないという顔で見てくる二人に、黒猫は地団太を踏んだ。
「だぁーーー!もう!どうすりゃ信じてくれんだよ!ソロモンに聞きゃ一発なのに!」
「いや、その必要はないよ」
いつの間にか、部屋の天井近くにハトが止まっていた。
「あ、アガレス」
「僕が証人になるよ。このお方はこういうキャラだから、確かに上級悪魔に見えないかもしれないけど」
「お前な・・・」
「僕を遥かに凌ぐ強大なパワーを持っている。ジルオールとの一件の時に嫌でも分かったよ。そして確信した。このお方は、カノンなんて名前じゃない。本当の名は『バアル』。魔界や黒魔術師の間ではかなり名の知れた、高位階級の悪魔だよ」
メグミとゼノンは改めて黒猫を見た。
「あなた、バアルだったのですか!?じ、じゃあわたしはあの時から既にソロモン卿のような力を持っていたということなのですか?」
「・・・アガレスの言うことは素直に受け入れるのかよ。だから、さっきからそう言ってるだろ。もっとも、お前よりもソロモンの方が冷静だったがな。あいつはお前のように、悪魔を“間違った対象に封印する”なんて失敗はしなかった」
ゼノンの顔が少し赤らんだ。
「そんな昔の話、蒸し返さないでくださいよ。それよりなぜ、そんな大事なこと黙ってたんです?教えてくれても」
「そんなことしたら、自分の力を過信するだろ。まだ人として半人前のお前には危険すぎると思った。俺様の優しさだ」
「・・・カノン」
「でも、やっと教えてもらえたね!これって、カノンに一人前になったって認めてもらえたってことでしょ!?すごいじゃん!!」
と、嬉しそうに笑顔を向けるメグミに、ゼノンは苦笑した。
「喜ぶ・・・べきなんでしょうね。自分にソロモン卿に負けないくらいの力があるならば、思い上がらずに、わたしは彼を反面教師として生きなければなりませんね」
「いい心がけだな。頼むぜ、ご主人」
主人の前向きな決意を聞き、カノンはホッと胸をなでおろした。