夜の帳が下りる頃、湖を行く船はエルフの宝石の光を灯しながらゆっくりと、しかし確実に魔族のいる森へ進んでいた。
その船の中でシルフィのいびきのような寝息を聞きながら、私は一人悩んでいた。
アランには、相談しておいたほうが良かったかな、アンナのこと。
同じ世界から来た人間同士なわけだし、一応アランだって主人公候補としてこの世界に迷い込んできたんだし・・・。
でもアンナには秘密にしてって言われたもんなぁ。
どっちみち今考えてもアランに伝える術はないけど。
「眠れないの?」
考えをめぐらせて寝返りを繰り返していたら、ロビンが問いかけてきた。
私、音をたててうるさかったかな?
「ごめん、昼間にいっぱい寝ちゃったせいで全然眠くならなくて。ごそごそして起こしちゃった?」
「いや、僕も同じ。目が冴えちゃってる」
横になっていたロビンはムクッと起き上がった。
反射的に私もつられて起き上がる。
「こんなときに、マーガレットのバイオリンが聴けたら最高なのに。心地良いから、僕ならすぐ寝られる」
「ふふ。シルフィを起こすわけにもいかないもんね。あんなに気持ちよさそうに寝てるし」
「この船に乗ってからもしばらく神経を尖らせてたからね、相当疲れたはずだよ。メグミは平気?」
「私は大丈夫。シルフィみたいに神経質じゃないもん」
ロビンは笑って操縦席に小さく声をかけた。
「レオナルド、そろそろ交代しようか」
「いや、このままもう少しやらせてください。こっちに集中してた方が余計なことを考えずに済んで楽なんです」
船の舵はエルーシオがとっていた。
羅針盤と地図を見ながら、慣れない手つきで円形のハンドルを動かしている。
「初めての操縦なのに、なかなか飲み込みが早いよ。船も揺れなくなったし、とても静かに航行できてる。君がそう言うなら、お言葉に甘えてもう少しの間任せるよ」
エルーシオは少し照れたようにコクッと頷いた。
「操縦はいいのですが、さっきから霧が出てき始めてる気がするんです。ひどくならなければいいんですが」
窓の外を見ると、確かに白いもやがかかっていた。
その中に黒い魔族の影が見え隠れして一層気味が悪い。
「そういえば、私がこの世界に初めて来たときも、濃い霧が立ち込めてた。あの森の周辺は霧が発生しやすいのかも」
思い出した。
本の世界で目覚めたとき、周りが全く見えなくて自分がどこにいるのか全く分からなかった。
あの時と同じだ。
「そうか・・・。夜が深かったり、朝方だったりすると気温も下がる。森に着いたとしても霧が晴れるのを待った方がよさそうだね」
「そうですね、何も見えない状態で外に出れば危険を伴うのは必至。様子を見ましょう」
外の霧はどんどん濃さを増す。
それと同時に私の心も不安になっていく。
もしかして、これから起こることはアンナには分かっているのかな。
もっと話を聞きだしておくべきだったかもしれない。
魔族の親玉を倒す方法もそのシナリオも彼女が決めているのなら話は早かったのに。
「自分で考えろってことなのかな・・・」
「え?何か言った?メグミ」
「あ、ううん!何でもない!私、また横になってるね。そのうち眠れるかも」
「・・・そう。ゆっくりお休み」
私は独り言をごまかすように無造作に毛布へ横たわった。
先の見えないことばかり考えても仕方無い。
フルートが使えない今、私の武器はこの歌声だけ。
目の前で起こることにはこの喉一つで対処するしかないんだ。
ロビンやエルーシオ、それにシルフィだってついてる。
皆で力を合わせればきっと大丈夫。
そんな風に自分を勇気付けていたら、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
―――機は熟している。授かりしその声でどうか平和を導いて・・・―――
夢の中で誰かがささやいた気がした。
翌朝目を覚ますと、船は魔族の森のそばに着岸していた。
しかし外は様子が分からないくらいすっかり真っ白な霧に覆われて、不気味なくらい静かだった・・・。
その船の中でシルフィのいびきのような寝息を聞きながら、私は一人悩んでいた。
アランには、相談しておいたほうが良かったかな、アンナのこと。
同じ世界から来た人間同士なわけだし、一応アランだって主人公候補としてこの世界に迷い込んできたんだし・・・。
でもアンナには秘密にしてって言われたもんなぁ。
どっちみち今考えてもアランに伝える術はないけど。
「眠れないの?」
考えをめぐらせて寝返りを繰り返していたら、ロビンが問いかけてきた。
私、音をたててうるさかったかな?
「ごめん、昼間にいっぱい寝ちゃったせいで全然眠くならなくて。ごそごそして起こしちゃった?」
「いや、僕も同じ。目が冴えちゃってる」
横になっていたロビンはムクッと起き上がった。
反射的に私もつられて起き上がる。
「こんなときに、マーガレットのバイオリンが聴けたら最高なのに。心地良いから、僕ならすぐ寝られる」
「ふふ。シルフィを起こすわけにもいかないもんね。あんなに気持ちよさそうに寝てるし」
「この船に乗ってからもしばらく神経を尖らせてたからね、相当疲れたはずだよ。メグミは平気?」
「私は大丈夫。シルフィみたいに神経質じゃないもん」
ロビンは笑って操縦席に小さく声をかけた。
「レオナルド、そろそろ交代しようか」
「いや、このままもう少しやらせてください。こっちに集中してた方が余計なことを考えずに済んで楽なんです」
船の舵はエルーシオがとっていた。
羅針盤と地図を見ながら、慣れない手つきで円形のハンドルを動かしている。
「初めての操縦なのに、なかなか飲み込みが早いよ。船も揺れなくなったし、とても静かに航行できてる。君がそう言うなら、お言葉に甘えてもう少しの間任せるよ」
エルーシオは少し照れたようにコクッと頷いた。
「操縦はいいのですが、さっきから霧が出てき始めてる気がするんです。ひどくならなければいいんですが」
窓の外を見ると、確かに白いもやがかかっていた。
その中に黒い魔族の影が見え隠れして一層気味が悪い。
「そういえば、私がこの世界に初めて来たときも、濃い霧が立ち込めてた。あの森の周辺は霧が発生しやすいのかも」
思い出した。
本の世界で目覚めたとき、周りが全く見えなくて自分がどこにいるのか全く分からなかった。
あの時と同じだ。
「そうか・・・。夜が深かったり、朝方だったりすると気温も下がる。森に着いたとしても霧が晴れるのを待った方がよさそうだね」
「そうですね、何も見えない状態で外に出れば危険を伴うのは必至。様子を見ましょう」
外の霧はどんどん濃さを増す。
それと同時に私の心も不安になっていく。
もしかして、これから起こることはアンナには分かっているのかな。
もっと話を聞きだしておくべきだったかもしれない。
魔族の親玉を倒す方法もそのシナリオも彼女が決めているのなら話は早かったのに。
「自分で考えろってことなのかな・・・」
「え?何か言った?メグミ」
「あ、ううん!何でもない!私、また横になってるね。そのうち眠れるかも」
「・・・そう。ゆっくりお休み」
私は独り言をごまかすように無造作に毛布へ横たわった。
先の見えないことばかり考えても仕方無い。
フルートが使えない今、私の武器はこの歌声だけ。
目の前で起こることにはこの喉一つで対処するしかないんだ。
ロビンやエルーシオ、それにシルフィだってついてる。
皆で力を合わせればきっと大丈夫。
そんな風に自分を勇気付けていたら、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
―――機は熟している。授かりしその声でどうか平和を導いて・・・―――
夢の中で誰かがささやいた気がした。
翌朝目を覚ますと、船は魔族の森のそばに着岸していた。
しかし外は様子が分からないくらいすっかり真っ白な霧に覆われて、不気味なくらい静かだった・・・。