魔族の森へ出発の日、私はいつもと違う服装で余計に落ち着かなかった。

レッテが、魔族除けのためのエルフの宝石を私の装備品にいくつもはめ込んで、まるで魔法でも使えそうな出で立ちだ。

私だけでなく、シルフィもエルーシオもロビンも同様だった。

城の門の前で私たち4人は大勢の城の民に見送られていた。

「お気をつけて。姫はわたくしが必ずお守りします」

レッテはロビンとエルーシオに固く誓った。

「あぁ、頼んだよ」

ロビンも笑顔で返す。

その傍らでレジスタンスのアランが私にそっと耳打ちする。

「きっとこれからが最大の山場だ。結末がどうなるかなんて俺には分からないが、これだけは言っとくぞ」

彼は軽く咳払いすると、まっすぐ私を見た。

「絶対に死ぬな。必ず元の世界に帰ろう。無事に戻ってくることを、仲間と一緒に祈っててやる」

相変わらずの上から目線な物言いだったが、私は素直にうんと頷いた。

「さぁ、時は一刻を争う。そろそろ出発しよう」

ロビンの掛け声でざわついていた空気が静まる。

その中で、アメリア姫が見送りの言葉をかけた。

「どうか皆、ご無事で。そして魔族との長きに渡る戦いを終わらせてきて下さい」

「はい、お任せください。では、いってきます」
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私たちは城を出て、森を目指して歩き始めた。



城下の住人は皆恐れて各々の家に隠れている。

閑散とした町の中を4人の足音だけが響く。

シールドの向こうにうごめく黒い影たちを眺め、シルフィは身震いした。

「今からあの中に飛び込むのね・・・」

「あぁ、そうさ。バイオリンを奏でながらね」

「しっかり演奏しろよ、シルフィ」

「はいはい、分かったわよ」

そう言うと、彼はバイオリンを準備し始めた。

シールドの側まで来ると、そこには先客がいた。

黒魔術師のゼノンだ。

「お待ちしておりました。皆さん、心の準備はいいですか?」

ゼノンはシールドへ杖を構えた。シルフィもバイオリンを構える。

「いつでもいいよ、ウィリアム」

「では、シールドを開きます。どうか、この世界を救ってください」

シルフィの演奏が始まると同時に、ゼノンがシールドの出口を開けた。

そこを目掛けて入ってこようとする魔族たちはエルフの宝石により一層力が増したバイオリンの音色に次々と浄化されていく。

「ハトリックを頼んだよ、ウィリアム!」

私たちが外へ出た瞬間、シールドは元通り閉ざされた。

とうとう魔族たちの領域へ足を踏み入れたのだ。目前に広がる湖に、もう頼りにしていた水竜の姿はない。

「この湖、どうやって渡るの?」

「事前に船を準備してある。この時のために特別に装飾られた船だ。そこに乗り込むまで、シルフィは手を止めないで」

「だったら早くして!!」

次々に襲い来る敵を蹴散らしながら、シルフィはヒステリックに喚いた。

その様子を見て、彼の平常心があまり長くは持ちそうにないことを悟ったので、私たちは慌てて用意された船に駆け込んだのだった。

「ゼェ、ゼェ・・・・」

たった数メートル走っただけなのに、まるで何キロも走ったかのように息切れするシルフィ。

私も心臓がバクバクしていた。

エルーシオは物静かだったが、額に大量の冷や汗を搔いていた。

唯一ロビンだけは冷静で、いつもどおり余裕の表情だ。

「マーガレット、ご苦労様。皆大丈夫?この船の中にいる間は危険なことはないから安心して。食料も積んである。湖を渡りきるまではしばらく休憩だ」

これは、予想外に過酷な旅になりそう。
出だしでこんなんじゃ、森に踏み込んだ後どうなるか・・・。
考えただけで先が思いやられた。

「メグミ、休めるときにゆっくり休んでおいて。船から降りたら、あまり休めなくなるかもしれないから」

「うん、分かった。なんだかこういう経験して、改めてパルバンのありがたさが分かった気がするよ」

私は魔族がうろつく窓の外を眺めながら続けた。

「私、パルバンと初めて会った時、いきなり飲み込まれちゃったから、怖いイメージが強かったけど、今は、ハトリックの守り神として本当に尊敬してる」

「そう・・・。彼のことをそんな風に思ってくれて嬉しいよ。彼の死を無駄にしないためにも僕らは必ず魔族を根絶しなければ」

ロビンの目には揺ぎ無い決意が宿っていた。

怖いけど、想いは皆同じ。

その最大の目的を達成するため、この本の世界に平和をもたらすため、物語は結末に向かって動き始めたのだった。


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約半年ぶりの小説更新!
間を空けすぎて作者が内容を忘れかけていたという(^^;)
待たせた上に引張り気味ですいませんっ( ̄∇ ̄+)