部屋のドア越しに誰かが呼びかける声が聞こえる。

あれからどれだけの時間眠り続けていたんだろう。

私はまだ眠気まなこでヨタヨタとドアに向かった。

「はぁい・・・」

「あら、ごめん、寝てた?あんたが帰ったって聞いたから様子見に来たんだけど、思ったより元気そうじゃないか」

心配そうな、どことなくホッとしたような顔でフィオネがそう言った。
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その後ろにはアランの姿もある。

「ホントだ。お前が勝手に隣の国に連れて行かれちまったって噂になってたから、どうしたのかと思ったぜ。大丈夫だったか?」

「だいじょばないよ。フルート壊された挙句に、殺されかけたよ」

「えぇ!?」

アランは一応同じ世界から来た仲間だ。

本の世界で自分が体験したことは、念のために話しておいたほうがいい気がして、アランとフィオネに、アラドラスで起こった事を説明した。

「つくづく思うけどお前、狙われやすいのな」

真顔で言うアランに私はため息しか出なかった。

「でもすごいよ。メグミあんた、歌声で黒魔術を解いちまったんだろ?しかも治癒の力も健在とはね。楽器が無くてもあんたの力は発揮できたんだね」

「うん、そうみたい・・・」

力を失ったわけではなくて喜ぶところなんだろうけど、私が大切にしていたフルートは永遠に失われた。

その現実が私の胸をツンと突く。

「メグミ?大丈夫かい?」

「うん、まだ少しショックから立ち直れてないだけ。くよくよしても仕方ないよね。元気出さなきゃ。フルートがなくなっちゃった分、今度は歌声に磨きをかけないとね」

自分を励ますようにそう言った。

「にしても、俺たちを苦しめた猛毒がアラドラスからの出だったとはな。城下の混乱も全部やつらのせい、いや、ジルオールってやつのせいだったんだな。生きてたらぶん殴ってやったのに残念だぜ」

悔しそうに、アランは拳をパキパキ鳴らす。

「ところで王子はいつハトリックに来るんだい?縁談はどうなるんだい?先行きがわからなくて城の皆が不安がってるよ」

「ごめんフィオネ。私にも分からない。王子は近々もう一度ここに来る約束をしてる。どういう話になるのか・・・。ジルオールの洗脳が解けたから、また違った展開になりそうだけど、来てみないことにはね」

アメリア姫との縁談の話はジルオールの策略によるもの。

ラシュディ王子の考えは違うかもしれない。

全ては王子の再来の時にはっきりするのだ。





そして、それから3日後、待ちわびていたラシュディ王子の訪問の時がやって来た。

王子だけじゃない。アラドラスの王と王妃も一緒だった。

それを、ハトリックの連邦議会は驚きつつも丁寧に迎え入れ、さっそく会議が開かれた。

「この度は、我が国の問題にハトリック国まで巻き込んでしまい、誠に申し訳ありませんでした」

アラドラス王の第一声は謝罪から始まった。

自分たちとの意思とは無関係にしても無理矢理に姫との縁談を進めようとしたり、無礼な言動や行いをしたり、ハトリックの者の命まで脅かしたり・・・。

怪しい黒魔術師の存在にもっと早く気づくべきだったと反省の言葉を連ねた。

「貿易も交流もこのまま続けさせていただきたい。縁談をどうするかは本人たちに決めさせるつもりです。もちろん、アメリア姫の意思も考慮します。我々はハトリックとのくすぶってしまった関係を修復したい。我々の切なる願いをどうか受け入れていただけないでしょうか」

予想外にへりくだった王の姿勢に、議員たちは拍子抜けしていたが、次第に表情が柔らかくなった。

「もちろんですとも。わたくしどもとしても、それはありがたいお話です。今までのことは水に流して、共に協力し合いましょう」

ハトリックとしても、アラドラスとの関係を失うのは国にとって大きな損失となる。

被害を被ったのは事実だが、これからのことを考えるとノーとは言えなかった。

これでとりあえずはハトリックとアラドラスの不仲が解消された。




あとは・・・。




ラシュディ王子は城の許可を得て、アメリア姫の部屋の前に来ていた。

正直、操られていた間の記憶は全く無かったが、自分が姫に失礼な発言をしたことは、アガレスの説明の中で聞いていた。

そのことを詫びなければ。

ラシュディ王子は高鳴る心臓を押さえるように深呼吸して、姫の部屋のドアをノックした。