アラドラス国の城下はヘンに静かだ。
ハトリックもそこまで栄えているわけではないが、それ以上に活気がない。
それどころか、人気すらなかった。
だれも出歩いていない。
「異様だね。いつからこんな状態なんだろう」
「この国はもう、ずっと前からジルオールに支配されてしまっているのかも知れません。メグミさんが心配です」
シンとした町を警戒しながら歩くロビンとゼノン。
心なしか空気がよどみ、重たく感じる。
「アラドラスに流行り病が広がってから視察を控えていたんだ。しばらく見ないうちにこんなことになっていたなんて・・・」
城へ向かって進むうちに、だんだん視界が悪くなってきた。
「霧・・・?」
「もしかしたら、敵に気づかれたのかもしれません。これは自然に発生した霧ではなさそうです」
「とにかく城へ急ごう。城下に留まっていては危険だ」
どんどん濃くなるナゾの霧。
完全に視界を遮られる前に、二人は先を急いだ。
「・・・来た」
城の大きな扉が開く。
金髪の青年と黒装束の黒魔術師が少し息を切らして入ってきた。
ジルは空々しく二人に話しかける。
「これはこれは。ハトリックのロビン様と黒魔術師様。約束の期限まであと1日ですよ?お迎えが少し早いのではありませんか?」
ロビンは服に付いた汚れを払いながらジルに答える。
「“お供はつけるな”とは言われましたが、“様子を見に来るな”とは言われなかったものですから。メグミがどんな接待を受けているのか見に伺っただけですよ。彼女はどこです?」
少し笑みすら浮かべる余裕のロビン。
その態度がジルの神経を逆なでする。
「何を言い出すかと思えば。あなた方はメグミ様にしっかりお供をつけていたではありませんか。そこの黒魔術師のペットをね」
「おや、そこまでバレてました?さすがはアラドラスの黒魔術師ですね」
核心をつくロビン。
ジルはうろたえる様子も無く、開き直るように笑った。
「やはり、ワタシの正体にお気づきでしたか!ペットの黒猫にでも教えてもらったのですか?」
「えぇ、ついでにあなたがどんな悪い企みをしているかという事もね」
「ほぅ。ならば話は早い。止められるものなら止めてみろ。お前たちの手で、あの小娘を助け出してみせるがいい!」
ついに本性を露にしたジルオール。
ロビンたちの後ろで、城の大きな扉が勝手に閉まった。
「閉じ込められた・・・!」
振り返った時にはもう、ジルの姿は無かった。
城のあちこちから、唸るような声が聞こえ始める。
ゼノンは鳥肌が立った。
「何か来ます・・・。それも大勢」
鞘から剣を抜き、ロビンも身構える。

「こんなところで、やられるわけにはいかない。彼の計画を食い止めなければ」
唸り声の主たちが部屋から、廊下から、地下から現れる。
城の使用人や兵士たちだった。
みんな、様子が普通でない。
「この方たちはジルオールの黒魔術で操られているんです。敵意も罪もない方たちばかりです。どうしますか、ロビン様」
それを聞いて、ロビンは剣を鞘に収めた。
「できれば、闘いたくはないね。君がここに来る前に使っていた魔術で眠らせることはできる?」
「やってみます」
“魔の眠り”の呪文を唱える。
ハトリックの見張り番を夢の世界へ誘った黒魔術。
眠らせてしまえば、危害を加えずに相手の動きを止めることができる。
・・・しかし、いくら呪文をかけても操られた者たちは一向に眠る気配が無い。
ゼノンの黒魔術は弾かれていた。
「だ・・・ダメです!ジルオールの魔力が強すぎて、わたしの術が効かない!!」
「何だって!?」
敵の黒魔術師としての能力は予想をはるかに上回っていた。
ロビンは鞘に収まった剣を構え直す。
「道理で、ふたつの国の支配者になるなんて大それた計画を立てるわけだ。しかたない、不本意だけど闘おう。怪我をしないように気をつけて、ウィリアム」
「はい、ロビン様」
こうしてメグミ奪還の戦いの火蓋が切って落とされた。
ハトリックもそこまで栄えているわけではないが、それ以上に活気がない。
それどころか、人気すらなかった。
だれも出歩いていない。
「異様だね。いつからこんな状態なんだろう」
「この国はもう、ずっと前からジルオールに支配されてしまっているのかも知れません。メグミさんが心配です」
シンとした町を警戒しながら歩くロビンとゼノン。
心なしか空気がよどみ、重たく感じる。
「アラドラスに流行り病が広がってから視察を控えていたんだ。しばらく見ないうちにこんなことになっていたなんて・・・」
城へ向かって進むうちに、だんだん視界が悪くなってきた。
「霧・・・?」
「もしかしたら、敵に気づかれたのかもしれません。これは自然に発生した霧ではなさそうです」
「とにかく城へ急ごう。城下に留まっていては危険だ」
どんどん濃くなるナゾの霧。
完全に視界を遮られる前に、二人は先を急いだ。
「・・・来た」
城の大きな扉が開く。
金髪の青年と黒装束の黒魔術師が少し息を切らして入ってきた。
ジルは空々しく二人に話しかける。
「これはこれは。ハトリックのロビン様と黒魔術師様。約束の期限まであと1日ですよ?お迎えが少し早いのではありませんか?」
ロビンは服に付いた汚れを払いながらジルに答える。
「“お供はつけるな”とは言われましたが、“様子を見に来るな”とは言われなかったものですから。メグミがどんな接待を受けているのか見に伺っただけですよ。彼女はどこです?」
少し笑みすら浮かべる余裕のロビン。
その態度がジルの神経を逆なでする。
「何を言い出すかと思えば。あなた方はメグミ様にしっかりお供をつけていたではありませんか。そこの黒魔術師のペットをね」
「おや、そこまでバレてました?さすがはアラドラスの黒魔術師ですね」
核心をつくロビン。
ジルはうろたえる様子も無く、開き直るように笑った。
「やはり、ワタシの正体にお気づきでしたか!ペットの黒猫にでも教えてもらったのですか?」
「えぇ、ついでにあなたがどんな悪い企みをしているかという事もね」
「ほぅ。ならば話は早い。止められるものなら止めてみろ。お前たちの手で、あの小娘を助け出してみせるがいい!」
ついに本性を露にしたジルオール。
ロビンたちの後ろで、城の大きな扉が勝手に閉まった。
「閉じ込められた・・・!」
振り返った時にはもう、ジルの姿は無かった。
城のあちこちから、唸るような声が聞こえ始める。
ゼノンは鳥肌が立った。
「何か来ます・・・。それも大勢」
鞘から剣を抜き、ロビンも身構える。

「こんなところで、やられるわけにはいかない。彼の計画を食い止めなければ」
唸り声の主たちが部屋から、廊下から、地下から現れる。
城の使用人や兵士たちだった。
みんな、様子が普通でない。
「この方たちはジルオールの黒魔術で操られているんです。敵意も罪もない方たちばかりです。どうしますか、ロビン様」
それを聞いて、ロビンは剣を鞘に収めた。
「できれば、闘いたくはないね。君がここに来る前に使っていた魔術で眠らせることはできる?」
「やってみます」
“魔の眠り”の呪文を唱える。
ハトリックの見張り番を夢の世界へ誘った黒魔術。
眠らせてしまえば、危害を加えずに相手の動きを止めることができる。
・・・しかし、いくら呪文をかけても操られた者たちは一向に眠る気配が無い。
ゼノンの黒魔術は弾かれていた。
「だ・・・ダメです!ジルオールの魔力が強すぎて、わたしの術が効かない!!」
「何だって!?」
敵の黒魔術師としての能力は予想をはるかに上回っていた。
ロビンは鞘に収まった剣を構え直す。
「道理で、ふたつの国の支配者になるなんて大それた計画を立てるわけだ。しかたない、不本意だけど闘おう。怪我をしないように気をつけて、ウィリアム」
「はい、ロビン様」
こうしてメグミ奪還の戦いの火蓋が切って落とされた。