アラドラスの船は予定通り母国に到着した。
王子が帰還したというのに、出迎える者は誰もいない。
ハトリックとはまるで違う。
寒々として、城下に人気も無い。外へ出歩くものが極端に少なかった。
必死の逃走も虚しく、船の中という限定的な空間でとうとう捕まってしまったカノンは小さな檻からその様子を眺めていた。
「うわ・・・何だあの城は・・・」
カノンが見つめる先には立派なアラドラスのお城があり、そこからは禍々しいほどの黒いオーラが放たれていた。
「おいおい・・・勘弁してくれよ・・・」
自分も捕らわれた状態で、どうやってメグミを助け出すか、あの城を見ただけで、カノンは先が思いやられた。
アラドラス城に着くやいなや、メグミはやはり歓迎を受けることもなく、操られたまま薄暗い部屋に連れてこられた。
ジルの尋問を受けるために。
「フン。あなたを助けるために向こうが送り込んできたのがネコ一匹とは、なめられたものだ。まぁ、あちらではきっと、ワタシではなく王子を疑い、すべての注意は王子に向けられているだろう」
椅子に座ったまま、無抵抗に前を見つめるメグミ。

ラシュディ王子と同じく、目に温かみがなくなり、まるで人形のよう。
「ふぅ。術はしっかり効いているようだ。黒魔術を解く力があるようだから、術にかからないかと心配したが、黒魔術を受け付けないわけではないようで、安心したよ」
ジルはメグミのフルートに目をやった。
「やはりその笛に黒魔術を解く能力が備わっていると見て間違いないようだ。そしておそらく、治癒の力も・・・」
フルートを手に取ると、彼はメグミに問いかけた。
「さぁ、この笛について知っていることを教えてもらおう。他にも何か能力が隠されているのか?どうしたら能力を発動できるのか?」
黒魔術によって操られ、言葉縛りの術を施されたメグミは、もはや彼の言いなり状態だった。何のためらいもなく、メグミは知っていることを話し出す。
「そのフルートは、私が所属している部活動の吹奏楽で扱うもので、現実世界ではただの楽器でした・・・」
「ん?」
自分のいた元の世界のことから話し始めたメグミ。
思わぬことを聞いたので、ジルは眉をひそめた。
「でも、この本の世界に来てからはなぜかそのフルートを上手に吹けるようになって、私が奏でると、ロビンとアンナ以外の人たちの傷を癒すことができるようになりました」
しばらく、今言われたことを整理するのに時間がかかった。
現実?本の世界とは?一体何のことだろう。
「この娘、大丈夫か?自分が異世界の者だと信じ込んでいるのか?まぁいい、そんな空言は何の役にも立たない。確かに、あの時王子の傷は癒せたが、ロビンには効いていなかったな。ところで、アンナとは誰だ?」
「ハトリック城の大聖堂にいるシスターの女の子です。理由はわかりませんが、彼女にもフルートの治癒の力が効きません」
不思議だ。
それだけムラがあると、フルートの能力が及ぶ範囲に法則がありそうな気さえしてくる。
「黒魔術を解く力のことは?知っていたのか?」
「いいえ。そんなことは知りません。私が知るのは、このフルートに治癒の力があることと、とても美しい音色を奏でられるということだけです」
「ほぅ・・・」
もしかしたら、この娘が知らない能力がまだこのフルートには隠されているのかもしれない。
けれど、治癒の能力が魅力的な反面、自分が得意とする黒魔術を解く能力も備わっているとなると、扱いはとても厄介だ。
どうする・・・?
「ハトリックは今後きっとこの能力を重宝するはずだ。だがそれはフェアじゃない。それに、黒魔術を解かれてしまっては我が軍団はたちまち正気にもどってしまう・・・」
そう。アラドラスの者たちはすでにジルオールの術により操られ、アラドラス城自体が、彼の支配下に置かれてしまっていた。
術を解けるものは自分以外にはいなかっただけに、メグミのフルートは彼の独裁計画を打ち壊す脅威となる。
「ワタシにとって最良なのはやはり、このフルートを破壊することだな。そうすれば、何も恐れるものはなくなる。ハトリックに治癒の力も使われない。こちらが圧倒的優位に立てるというわけだ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ジルオールはメグミのフルートの周りに、破壊の魔方陣を描き始めるのであった。
王子が帰還したというのに、出迎える者は誰もいない。
ハトリックとはまるで違う。
寒々として、城下に人気も無い。外へ出歩くものが極端に少なかった。
必死の逃走も虚しく、船の中という限定的な空間でとうとう捕まってしまったカノンは小さな檻からその様子を眺めていた。
「うわ・・・何だあの城は・・・」
カノンが見つめる先には立派なアラドラスのお城があり、そこからは禍々しいほどの黒いオーラが放たれていた。
「おいおい・・・勘弁してくれよ・・・」
自分も捕らわれた状態で、どうやってメグミを助け出すか、あの城を見ただけで、カノンは先が思いやられた。
アラドラス城に着くやいなや、メグミはやはり歓迎を受けることもなく、操られたまま薄暗い部屋に連れてこられた。
ジルの尋問を受けるために。
「フン。あなたを助けるために向こうが送り込んできたのがネコ一匹とは、なめられたものだ。まぁ、あちらではきっと、ワタシではなく王子を疑い、すべての注意は王子に向けられているだろう」
椅子に座ったまま、無抵抗に前を見つめるメグミ。

ラシュディ王子と同じく、目に温かみがなくなり、まるで人形のよう。
「ふぅ。術はしっかり効いているようだ。黒魔術を解く力があるようだから、術にかからないかと心配したが、黒魔術を受け付けないわけではないようで、安心したよ」
ジルはメグミのフルートに目をやった。
「やはりその笛に黒魔術を解く能力が備わっていると見て間違いないようだ。そしておそらく、治癒の力も・・・」
フルートを手に取ると、彼はメグミに問いかけた。
「さぁ、この笛について知っていることを教えてもらおう。他にも何か能力が隠されているのか?どうしたら能力を発動できるのか?」
黒魔術によって操られ、言葉縛りの術を施されたメグミは、もはや彼の言いなり状態だった。何のためらいもなく、メグミは知っていることを話し出す。
「そのフルートは、私が所属している部活動の吹奏楽で扱うもので、現実世界ではただの楽器でした・・・」
「ん?」
自分のいた元の世界のことから話し始めたメグミ。
思わぬことを聞いたので、ジルは眉をひそめた。
「でも、この本の世界に来てからはなぜかそのフルートを上手に吹けるようになって、私が奏でると、ロビンとアンナ以外の人たちの傷を癒すことができるようになりました」
しばらく、今言われたことを整理するのに時間がかかった。
現実?本の世界とは?一体何のことだろう。
「この娘、大丈夫か?自分が異世界の者だと信じ込んでいるのか?まぁいい、そんな空言は何の役にも立たない。確かに、あの時王子の傷は癒せたが、ロビンには効いていなかったな。ところで、アンナとは誰だ?」
「ハトリック城の大聖堂にいるシスターの女の子です。理由はわかりませんが、彼女にもフルートの治癒の力が効きません」
不思議だ。
それだけムラがあると、フルートの能力が及ぶ範囲に法則がありそうな気さえしてくる。
「黒魔術を解く力のことは?知っていたのか?」
「いいえ。そんなことは知りません。私が知るのは、このフルートに治癒の力があることと、とても美しい音色を奏でられるということだけです」
「ほぅ・・・」
もしかしたら、この娘が知らない能力がまだこのフルートには隠されているのかもしれない。
けれど、治癒の能力が魅力的な反面、自分が得意とする黒魔術を解く能力も備わっているとなると、扱いはとても厄介だ。
どうする・・・?
「ハトリックは今後きっとこの能力を重宝するはずだ。だがそれはフェアじゃない。それに、黒魔術を解かれてしまっては我が軍団はたちまち正気にもどってしまう・・・」
そう。アラドラスの者たちはすでにジルオールの術により操られ、アラドラス城自体が、彼の支配下に置かれてしまっていた。
術を解けるものは自分以外にはいなかっただけに、メグミのフルートは彼の独裁計画を打ち壊す脅威となる。
「ワタシにとって最良なのはやはり、このフルートを破壊することだな。そうすれば、何も恐れるものはなくなる。ハトリックに治癒の力も使われない。こちらが圧倒的優位に立てるというわけだ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ジルオールはメグミのフルートの周りに、破壊の魔方陣を描き始めるのであった。