その日、総長のロビンはハトリック城の西塔に出向いていた。
そこは昼間でも暗く、普段はメグミ以外、気味悪がって誰も寄り付かない場所。
恐ろしい呪いの儀式を行っているとか、魔族の血を引く者が生活しているとか黒い噂が立てられる黒魔術師が住む場所。
そんな場所に突然ハトリックのお偉い様がやってきたものだから、ゼノンは大いに驚いた。
「ロビン様・・・!このお忙しい時期にこんなところに来られるとは・・・。一体どうなさったんですか?」
「うん。メグミのことで、君の力を借りたくてね」
ロビンはゼノンの足元に居る黒猫のカノンに目を移した。
「いや、正確には“君たちの”・・・かな」
ニッコリ笑うロビンに、カノンは胡散臭そうな顔をした。
ロビンは、カノンがゼノンの猫であることを知っているのだ。
過去にメグミが誘拐された時、鼻の効くカノンをロビンのお供にしたのは他ならぬゼノンだった。
「メグミさんに、また何かあったのですか?」
「実はね、お隣のアラドラス国にメグミが3日間お邪魔させていただくことになったんだ」
それを聞いたゼノンはゾッとした。
それはカノンから王子の側近、シルベスター・ジルオールの企みを聞いていたからだった。
「危険です!ロビン様!アラドラスのシルベスター・ジルオールは悪い黒魔術師なんです!アラドラスの王子を操って、自分の国は愚か、ハトリック国まで乗っとろうとしている危険な男!メグミさんをあの男が牛耳る国に行かせてはいけません!!」
気がつけば、ゼノンは勢いで何もかもをしゃべっていた。
カノンが呆れたようにため息をつく。
慌てて口を押さえるゼノンだったが、もう後の祭り。
ロビンは、何故ゼノンがそこまでの情報を知っているのか、疑問に思っているに違いない。
しかし彼は、ゼノンを問い詰めることはしなかった。
「教えてくれて、ありがとう。そうか、なるほどね。黒幕は王子ではなくあの執事だったということか」
ゼノンを責めもせず、いやに冷静に顎に手を添えたまま、おもむろにしゃがみ込み、カノンに話しかける。
「だけどすぐに彼の正体を皆に知らしめる確たる証拠はない。メグミのアラドラス行きは国の判断で決定済みだ。しかもお供もつけられないときた。だから、猫の手も借りたいくらいなんだよね」
「にゃっ!?(俺かっ!?)」
「カノンを忍び込ませるというのですか?」
カノンの頭を撫でながら、ロビンは頷いた。
「この子は賢い。アメリア姫を亡き者にしようとしたナダルの居場所を嗅ぎ付けて、メグミの危機を救った。他にも様々な場面でメグミを助けてあげているんでしょう?それに、黒猫は悪魔の使いとも言う。君なら、ジルオールの黒魔術を暴くきっかけをつくれるんじゃないのかな?僕にはそんな気がするよ」
「にゃあ・・・(こいつ・・・)」
ロビンはカノンを引き寄せて、大きく開く黒猫の鋭い目をじっと見据えた。

「君の目はとても頼りになりそうだ。その目であらゆるものを見通して、ジルオールの魔の手から、メグミを守ってくれないか」
視点の鏡による透視、悪魔だからこそ見える黒魔術のオーラ。
確かにカノンの目は役に立つ。
だが、ロビンはそのことを知らないはず。
黒猫の姿を借りた小さな悪魔は、内心ビクビクしていた。
「にゃあお・・・」
「僕には猫の言葉は分からないけど、おそらく今のはOKってことかな?」
「カノンを監視役につけるのはわたしも賛成です。今の状況ではカノンが一番怪しまれずに潜入できます。しかしながらロビン様、カノンはただのネコです。メグミ様が危機に直面した時、敵の攻撃を防ぐことはできません」
ロビンがフッと笑みを浮かべた。
それはカノンを馬鹿にしているような、嘲るようなものではなく、何か秘策でもあるかのような余裕の笑みだった。
「何を言ってるんだい。カノンにはあるじゃないか、立派な武器が」
彼はニコッと笑って、「出発は夕方だ。遅れないように頼むよ」と言い残して部屋から出て行ってしまった。
「ネコの武器って何でしょう?」
「さぁな?この爪のことじゃねーか?」
カノンは肉きゅうがついた前足を目一杯広げて、小さいながらに立派な鋭い爪を見せびらかした。
本人もロビンが言う武器のことが分からないらしい。
「いざとなったら爪で攻撃しろ、ということでしょうか?ロビン様にしては安易な作戦ですね」
「あの微笑の貴公子は何考えてんのか、いまいち読めねぇ。何もかも見通されてるみたいだ・・・。あんまり俺様を過大評価されても困るんだが、あいつの判断がどこまで正しいのか、お手並み拝見だな」
自分の爪を見つめながら、一匹のネコはこれからメグミをどう守ろうか、考えを巡らすのであった。
そこは昼間でも暗く、普段はメグミ以外、気味悪がって誰も寄り付かない場所。
恐ろしい呪いの儀式を行っているとか、魔族の血を引く者が生活しているとか黒い噂が立てられる黒魔術師が住む場所。
そんな場所に突然ハトリックのお偉い様がやってきたものだから、ゼノンは大いに驚いた。
「ロビン様・・・!このお忙しい時期にこんなところに来られるとは・・・。一体どうなさったんですか?」
「うん。メグミのことで、君の力を借りたくてね」
ロビンはゼノンの足元に居る黒猫のカノンに目を移した。
「いや、正確には“君たちの”・・・かな」
ニッコリ笑うロビンに、カノンは胡散臭そうな顔をした。
ロビンは、カノンがゼノンの猫であることを知っているのだ。
過去にメグミが誘拐された時、鼻の効くカノンをロビンのお供にしたのは他ならぬゼノンだった。
「メグミさんに、また何かあったのですか?」
「実はね、お隣のアラドラス国にメグミが3日間お邪魔させていただくことになったんだ」
それを聞いたゼノンはゾッとした。
それはカノンから王子の側近、シルベスター・ジルオールの企みを聞いていたからだった。
「危険です!ロビン様!アラドラスのシルベスター・ジルオールは悪い黒魔術師なんです!アラドラスの王子を操って、自分の国は愚か、ハトリック国まで乗っとろうとしている危険な男!メグミさんをあの男が牛耳る国に行かせてはいけません!!」
気がつけば、ゼノンは勢いで何もかもをしゃべっていた。
カノンが呆れたようにため息をつく。
慌てて口を押さえるゼノンだったが、もう後の祭り。
ロビンは、何故ゼノンがそこまでの情報を知っているのか、疑問に思っているに違いない。
しかし彼は、ゼノンを問い詰めることはしなかった。
「教えてくれて、ありがとう。そうか、なるほどね。黒幕は王子ではなくあの執事だったということか」
ゼノンを責めもせず、いやに冷静に顎に手を添えたまま、おもむろにしゃがみ込み、カノンに話しかける。
「だけどすぐに彼の正体を皆に知らしめる確たる証拠はない。メグミのアラドラス行きは国の判断で決定済みだ。しかもお供もつけられないときた。だから、猫の手も借りたいくらいなんだよね」
「にゃっ!?(俺かっ!?)」
「カノンを忍び込ませるというのですか?」
カノンの頭を撫でながら、ロビンは頷いた。
「この子は賢い。アメリア姫を亡き者にしようとしたナダルの居場所を嗅ぎ付けて、メグミの危機を救った。他にも様々な場面でメグミを助けてあげているんでしょう?それに、黒猫は悪魔の使いとも言う。君なら、ジルオールの黒魔術を暴くきっかけをつくれるんじゃないのかな?僕にはそんな気がするよ」
「にゃあ・・・(こいつ・・・)」
ロビンはカノンを引き寄せて、大きく開く黒猫の鋭い目をじっと見据えた。

「君の目はとても頼りになりそうだ。その目であらゆるものを見通して、ジルオールの魔の手から、メグミを守ってくれないか」
視点の鏡による透視、悪魔だからこそ見える黒魔術のオーラ。
確かにカノンの目は役に立つ。
だが、ロビンはそのことを知らないはず。
黒猫の姿を借りた小さな悪魔は、内心ビクビクしていた。
「にゃあお・・・」
「僕には猫の言葉は分からないけど、おそらく今のはOKってことかな?」
「カノンを監視役につけるのはわたしも賛成です。今の状況ではカノンが一番怪しまれずに潜入できます。しかしながらロビン様、カノンはただのネコです。メグミ様が危機に直面した時、敵の攻撃を防ぐことはできません」
ロビンがフッと笑みを浮かべた。
それはカノンを馬鹿にしているような、嘲るようなものではなく、何か秘策でもあるかのような余裕の笑みだった。
「何を言ってるんだい。カノンにはあるじゃないか、立派な武器が」
彼はニコッと笑って、「出発は夕方だ。遅れないように頼むよ」と言い残して部屋から出て行ってしまった。
「ネコの武器って何でしょう?」
「さぁな?この爪のことじゃねーか?」
カノンは肉きゅうがついた前足を目一杯広げて、小さいながらに立派な鋭い爪を見せびらかした。
本人もロビンが言う武器のことが分からないらしい。
「いざとなったら爪で攻撃しろ、ということでしょうか?ロビン様にしては安易な作戦ですね」
「あの微笑の貴公子は何考えてんのか、いまいち読めねぇ。何もかも見通されてるみたいだ・・・。あんまり俺様を過大評価されても困るんだが、あいつの判断がどこまで正しいのか、お手並み拝見だな」
自分の爪を見つめながら、一匹のネコはこれからメグミをどう守ろうか、考えを巡らすのであった。