会議には連邦議会議員、総長のロビン、側近のレッテ、ラシュディ王子、ジルオールが出席する形となった。
ラシュディが話を切り出す。
「ここに集まってもらったのは他でもない。決闘の件についてどう責任をとってもらうか話し合うためだ」
それを聞いて、すかさずロビンが抗議する。
「あの決闘はお互いの合意の下、正式に行われたもの。責任問題など追及する必要は無いはずです」
ロビンとレッテはそう思っていても、ハトリックの議員たちはロビンの突然の決闘を快く思っていない様子。
なにせ、相手は一国の王子なのだから。
皆口々に、「余計な口を挟むな」「口を慎め」と野次を飛ばす。
主要な貿易の相手国。仲を悪くしたくは無いのだろう。
「正直、わたしは怒っている。このままだと、この国に出す補助金の話、姫との縁談、そして開拓事業委託契約の話などなかったことにさせてもらうが、いいか?」
カネの話になると、議員たちは顔色を変えて焦り始めた。
「どうかそれだけは」「考えを改めてもらえませぬか」「お許しを」などと許しを乞うものがほとんど。
ロビンの行いをフォローしようとする者は、レッテ以外には存在しなかった。
ロビンはこのハトリックの議会に頼りなさと情けなさを覚えた。
「そこまで言うなら、許してやらないでもない。ただし、条件がある」
ラシュディ王子はロビンをじっと見据えた。
「わたしの傷を癒したあの娘。暫くこちらで預かりたい」
ロビンを除き、意外な提案に皆が動揺した。
まさかそこでメグミが出てくるとは・・・。
治癒の力を持つ彼女は今やこの城にとって欠かせない、重要な存在。誰もがそう認識していた。
「それは・・・」
「何だ?この条件が飲めないとでも?別によこせと言ってるわけではない。預かると言っているんだ」
「何のためにメグミを連れて行くのですか?理由をお聞かせ下さい」
警戒するような厳しい目でロビンが問う。
相手が何の考えもなしにメグミを連れて行きたいなどとは言い出さないはず。
嫌な予感がした。
「あの娘は言わば命の恩人。国を挙げて謝礼したいだけのこと。それを許さぬというのか?」
議員たちはザワザワと話し合いを始めたが、先ほどとは違い、険しい表情をする者はいなかった。
謝礼と言うことなら容認するという雰囲気だ。
だが、ロビンはそれでも怪訝な顔を崩さない。何か裏がある。
このままメグミだけをあちらに渡すのは危険に感じられた。
「メグミをそちらで預かるというなら、お供の者を付けます。よろしいでしょうか?」
「その必要は無い。何をそんなに警戒しておられる?今まで互いにコンタクトを取り合い、貿易してきた仲だろう?信用できないとでも?」
ラシュディ王子は笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
獲物を見つめるヘビのように眼光鋭い。
明らかに苛立っていた。
議員たちはその手の空気に敏感だった。
一人が慌てて弁解する。
「も、もちろん信用しておりますとも!例の少女は一時的にそちらに受け渡します!連れ帰っていただいて結構です!」
議員たちはゴマをするように、今の発言を後押しした。
ロビンひとりの意見など、この議会ではやはり意味をなさない。
これ以上条件をつけることも、拒むこともできなかった。
「・・・分かりました。その提案お受けします。メグミをよろしくおねがいします」
とうとう、ロビンが折れた。
隣でレッテが絶句している。
ラシュディ王子はやっと笑顔になった。
「よかった。これで交渉成立だな」
「ところで、いつごろこちらに返していただけるのでしょうか?具体的な期間が知りたい」
一番大事なことだ。
ロビンはこのまま曖昧に終わらせるつもりは無かった。
「そうだな、3日もあればそれ相応の謝礼ができるだろう。広いゲストルームに、絶品の料理、壮大なパーティ。色々と、もてなしたいことがある。3日後にはそちらに返す」
その条件を、総長のロビンは呑んだ。
こうして本人の知らぬ間に、メグミはアラドラスに行くこととなってしまったのだ。
しかも出発は今日の夕方。
会議が終わり、それぞれが部屋に帰りかけた時、レッテが少し責めるようにロビンに言った。
「なぜもう少し粘って下さらなかったのですか?メグミ本人の了解も得ずに勝手なことを決めて・・・」
「あの状況じゃ、承諾する以外ないよ。しかし、少しマズイことになったな。メグミが3日後にまともに返してもらえるとは思えない」
レッテは顔を強張らせた。
「それは、どういうことです?」
「カマをかけてみた。お供を付けてもいいか一応聞いてみたけど、やはり付けさせて貰えなかった。それは向こうに都合が悪いからかもしれない。メグミに何かするつもりなんだ。普通に考えると、メグミの持つ治癒の力を手に入れてハトリックよりも、さらに優位に立つつもりなんだろうね」
レッテの顔から血の気が引いた。
薄々そんな気がしていたが、ロビンも同じ事を思っているとなると、確信に近いものがある。
こういう事態を想定していたからこそ、メグミには力を相手国に見せてほしくはなかった。
今となってはもう遅いが。
「このまま黙って、見送るおつもりですか?」
顎に手をやり、ロビンは少し笑みを見せた。
「まさか。そう思い通りに事は運ばせないよ」
彼はある場所へ歩き出した。
「どうなさるおつもりで?」
「この城の唯一の黒魔術師に協力を依頼する。レッテは、メグミに支度するように伝えてくれ」

ラシュディが話を切り出す。
「ここに集まってもらったのは他でもない。決闘の件についてどう責任をとってもらうか話し合うためだ」
それを聞いて、すかさずロビンが抗議する。
「あの決闘はお互いの合意の下、正式に行われたもの。責任問題など追及する必要は無いはずです」
ロビンとレッテはそう思っていても、ハトリックの議員たちはロビンの突然の決闘を快く思っていない様子。
なにせ、相手は一国の王子なのだから。
皆口々に、「余計な口を挟むな」「口を慎め」と野次を飛ばす。
主要な貿易の相手国。仲を悪くしたくは無いのだろう。
「正直、わたしは怒っている。このままだと、この国に出す補助金の話、姫との縁談、そして開拓事業委託契約の話などなかったことにさせてもらうが、いいか?」
カネの話になると、議員たちは顔色を変えて焦り始めた。
「どうかそれだけは」「考えを改めてもらえませぬか」「お許しを」などと許しを乞うものがほとんど。
ロビンの行いをフォローしようとする者は、レッテ以外には存在しなかった。
ロビンはこのハトリックの議会に頼りなさと情けなさを覚えた。
「そこまで言うなら、許してやらないでもない。ただし、条件がある」
ラシュディ王子はロビンをじっと見据えた。
「わたしの傷を癒したあの娘。暫くこちらで預かりたい」
ロビンを除き、意外な提案に皆が動揺した。
まさかそこでメグミが出てくるとは・・・。
治癒の力を持つ彼女は今やこの城にとって欠かせない、重要な存在。誰もがそう認識していた。
「それは・・・」
「何だ?この条件が飲めないとでも?別によこせと言ってるわけではない。預かると言っているんだ」
「何のためにメグミを連れて行くのですか?理由をお聞かせ下さい」
警戒するような厳しい目でロビンが問う。
相手が何の考えもなしにメグミを連れて行きたいなどとは言い出さないはず。
嫌な予感がした。
「あの娘は言わば命の恩人。国を挙げて謝礼したいだけのこと。それを許さぬというのか?」
議員たちはザワザワと話し合いを始めたが、先ほどとは違い、険しい表情をする者はいなかった。
謝礼と言うことなら容認するという雰囲気だ。
だが、ロビンはそれでも怪訝な顔を崩さない。何か裏がある。
このままメグミだけをあちらに渡すのは危険に感じられた。
「メグミをそちらで預かるというなら、お供の者を付けます。よろしいでしょうか?」
「その必要は無い。何をそんなに警戒しておられる?今まで互いにコンタクトを取り合い、貿易してきた仲だろう?信用できないとでも?」
ラシュディ王子は笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
獲物を見つめるヘビのように眼光鋭い。
明らかに苛立っていた。
議員たちはその手の空気に敏感だった。
一人が慌てて弁解する。
「も、もちろん信用しておりますとも!例の少女は一時的にそちらに受け渡します!連れ帰っていただいて結構です!」
議員たちはゴマをするように、今の発言を後押しした。
ロビンひとりの意見など、この議会ではやはり意味をなさない。
これ以上条件をつけることも、拒むこともできなかった。
「・・・分かりました。その提案お受けします。メグミをよろしくおねがいします」
とうとう、ロビンが折れた。
隣でレッテが絶句している。
ラシュディ王子はやっと笑顔になった。
「よかった。これで交渉成立だな」
「ところで、いつごろこちらに返していただけるのでしょうか?具体的な期間が知りたい」
一番大事なことだ。
ロビンはこのまま曖昧に終わらせるつもりは無かった。
「そうだな、3日もあればそれ相応の謝礼ができるだろう。広いゲストルームに、絶品の料理、壮大なパーティ。色々と、もてなしたいことがある。3日後にはそちらに返す」
その条件を、総長のロビンは呑んだ。
こうして本人の知らぬ間に、メグミはアラドラスに行くこととなってしまったのだ。
しかも出発は今日の夕方。
会議が終わり、それぞれが部屋に帰りかけた時、レッテが少し責めるようにロビンに言った。
「なぜもう少し粘って下さらなかったのですか?メグミ本人の了解も得ずに勝手なことを決めて・・・」
「あの状況じゃ、承諾する以外ないよ。しかし、少しマズイことになったな。メグミが3日後にまともに返してもらえるとは思えない」
レッテは顔を強張らせた。
「それは、どういうことです?」
「カマをかけてみた。お供を付けてもいいか一応聞いてみたけど、やはり付けさせて貰えなかった。それは向こうに都合が悪いからかもしれない。メグミに何かするつもりなんだ。普通に考えると、メグミの持つ治癒の力を手に入れてハトリックよりも、さらに優位に立つつもりなんだろうね」
レッテの顔から血の気が引いた。
薄々そんな気がしていたが、ロビンも同じ事を思っているとなると、確信に近いものがある。
こういう事態を想定していたからこそ、メグミには力を相手国に見せてほしくはなかった。
今となってはもう遅いが。
「このまま黙って、見送るおつもりですか?」
顎に手をやり、ロビンは少し笑みを見せた。
「まさか。そう思い通りに事は運ばせないよ」
彼はある場所へ歩き出した。
「どうなさるおつもりで?」
「この城の唯一の黒魔術師に協力を依頼する。レッテは、メグミに支度するように伝えてくれ」
