ゼノンの部屋に戻りながら、私は次第に気分が落ち込んできた。
私の独断と偏見で姫にはあんなこと言っちゃったけど、これでいいはずだよね?だって、姫はロビンと結ばれる運命なんだから・・・。
「はぁぁぁ~。自分もロビンが好きなくせに、何やってんだろ、私」
心の中でまた葛藤してる。アメリア様には幸せになって欲しい。そして私は元の世界に戻りたい。
でも、ロビンと一緒にいたい。ずっとこの世界で暮らしたい。
正しい結末は、正直わからない。
だからアメリア様がアラドラス王子の妃になったところで、それが間違ってるとも言い切れない。
一瞬、そう考えたけどやっぱりそれじゃいけない気がした。
なんだか、そんな予感がしたんだ。
だから私は気がつけば全力で姫を止めにかかってた。
「直感で行動してみたけど、私にできることはここまで。会話したことも無いラシュディ王子の方を説得することなんて、今の私にはできないもん。後はロビンと姫次第かな・・・」
私は、城下におりているであろうロビンを想い、窓の外を見やるのだった。
夕方、ロビンたちはようやく城に帰ってきた。
城下の状態を見てきたラシュディの顔は、何とも気難しそうだ。
「思ったとおり、治安は悪く、不景気が続いているようだな。妙な事件まで起こってしまったようだしな」
レストランの件だ。
あれは表面上、解決したことになってはいるが、根本はまだ謎が残る。
ルシフォワールの密輸元がわかっていない。
ナダルの身元が割れないのだ。
だから、姫の暗殺事件も未解決のままということになる。
「これまで城下で窃盗事件を起していたレジスタンスは城が捕らえておりますので、治安も景気もこれから徐々に回復するでしょう。相次ぐ極悪な事件の首謀者は国が総力を挙げて調査中ですので、ご心配には及びません」
何も問題ないというふうに、ロビンが笑顔のまま王子に言う。
その様子が、王子にとっては気に入らなかった。
「本当に事の重大さを分かっているのか?かなり余裕で構えているようだが、この国は貴様が考える以上に廃れているぞ。早く対策を取らないと手遅れになりかねん」
「そうでしょうか?あと三年ほど時間をくだされば、ハトリックがいい方向に変わっていく様子をご覧いただけるのですが」
王子はロビンを睨みつけた。
「また先延ばしにするつもりか!?いい加減にしろ。私はもう充分待った。この時が来るのをじっと我慢して待っていたのだ。今回ばかりは姫と契りを交わすつもりで来ている。何を言われようがこれ以上待ってやるつもりは無い」
どうやら王子はまったく引く気はないようだ。
ようやくそれを悟ったロビンは笑顔をやめ、真顔になった。
「ラシュディ様、もしこのままアメリア姫と婚約されるおつもりならば、せめて姫を心から愛すると誓ってください」
ロビンの切なる願いに、ラシュディは氷のような瞳で言葉を返す。
「国の統合に、愛など必要ない。必要なのは権力。ただそれだけだ」
「何ですって!?」
周りの者たちから多くの愛を受けながら育った姫。
親の愛を失った彼女には一生を添い遂げる王子の愛が必要なのに、それさえも奪ってしまおうというのか・・・。
今まで黙って聞いていたレッテが、我慢ならずに声を荒げた。
そんな彼女をロビンがそっと制す。
「あなたが僕らの姫を大事に想ってくださらないつもりであれば、僕らはあなたと姫との婚約を認めるわけには参りません」
ロビンの言葉をラシュデイは鼻で笑った。
「ほぅ、一国の王子である私の決めたことに口答えをするのか。ただの護衛兵士の分際で。お前の無礼な言動を理由に、こちらはいつでも貴様らに戦争を仕掛けられるのだぞ?」
「戦争は・・・決して致しません」
隣国の王子にいくら挑発されても、ロビンは冷静でいた。
「今戦争を始めるのは無意味です。何の解決にもなりません」
「ならば、どうするのだ?」
ロビンは王子を真っすぐ見据え、人差し指を向けた。
「あなたに決闘を申し込みます。僕らだけで決着をつけましょう。それ以外の犠牲はいらない・・・!」
「身の程知らずが。言っておくが私は城の誰にも負けたことは無い。剣術は得意中の得意だ。私にたてついたこと、たっぷりと後悔させてやるぞ」
こうしてハトリックの命運を賭け、ロビンは王子に剣を向けることとなった・・・。