姫に負けないくらい、私もロビンが好き。


でもそんなこと、シルフィに知られたら何言われるか分かったもんじゃない。


精一杯、笑顔で気持ちをごまかす。


「私もシルフィと同じだよ!ラシュディ王子には任せられない。アメリア様には笑顔を絶やさないでいて欲しい。そのためにはロビンの存在が不可欠なんだよ」



私は半ば自分に言い聞かせるように言った。


さっきから胸はチクチク痛みっぱなしだ。


「あら、お互い珍しく意見が一致したわね。まぁ、この件に関しては城の大半が反対してるのは明白よ。上の奴らが権力ふるって自分の都合のいい方向に持っていきたいだけなのよ」


「ラシュディ王子がハトリックの王になれば、城下が安定するから?」



シルフィは首を横に振った。


そして考えが甘いわねと言いたげな顔になる


「金よ。今ハトリックは経済的に困窮してるの。議会の奴らはアラドラスと強く結びつく事で、城下に眠る石油や温泉の開拓や武器の開発なんかを円滑に進めて、金儲けをしようとしてるのよ。姫はそれを実現させるため、アラドラスを繋ぎとめるための切り札的なものなのよ」


「でも、ラシュディ王子は、もとはアラドラスの王になる予定の人だったんでしょ?ハトリックの王にもなれるの?」


「アラドラス側はこのハトリックと併合して、一つの国にしてしまうつもりなのよ。だから言ったでしょ?乗っ取られるみたいで嫌だって」

 

そんな・・・。


アラドラスとハトリックが併合!?


そうなったら、今までの生活は変わってしまう。しかも悪い方向に。


そうとしか思えなかった。


あの愛想の悪い、何考えてるか全然分からないような人がトップに立つことになるのだから。


「そんなの、許せないよ」


「ハトリックの国民は皆そう思ってるわよ。けど、あたしたちにはどうすることもできない。ロビン様にお任せして、成り行きを見守るしかないわ」

 

シルフィは悔しそうに親指の爪を噛んだ。

 



その頃、宮廷の一室ではアメリア姫がエリザベスを抱きしめてベッドに寝転んでいた。


心底不満そうな顔をして。


「もぅそろそろ、王子が着いた頃かしら。あぁ、あたくしの城にアラドラスの者たちが足を踏み入れるなんて、考えただけで嫌ですわ。あたくしの両親の命を奪ったあの疫病が流行った国から来るんですもの。ハトリック国に入られるだけでも怖いのに・・・」

 

姫はエリザベスの背中をなでた。


気持ちいいのか、そのままごろんと転がって腹を向ける。


「ねぇ、エリザベス。あの王子たちを追っ払って。仮面のように読み取れないあの顔を引っ掻いたってかまいませんわ」

 

こんなことを言ってもムダなのは分かっていた。


姫は盛大にため息をつく。


どう足掻こうとも、ラシュディ王子との縁談は避けられない。


自室にこもり続けていてはロビンたちにも迷惑がかかる。


姫は重たい体を起した。


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「昨晩はロビンと踊って、とても幸せでしたわ。・・・幸せだったのに・・・」

 

目に涙がたまってくるのを感じた。


ただでさえ、寝不足でしまらない顔なのに、これ以上崩れては皆の前で恥をさらすことになる。


姫は涙をグッと堪えた。


「行ってきますわね、エリザベス」


「ウニャアア~」


 

女の子とは思えないほどのグウタラな欠伸をしながら、エリザベスは牛歩で行く姫を見送った。



 

会議室では、議会の議員たち、ロビン、側近のレッテ、ラシュディ王子、側近のシルベスター・ジルオールが国の情勢、魔族のことなどを報告しつつ、姫を待っていた。


今回の訪問は国同士の意見交換の機会でもあったが、あくまで縁談が最大の目的。


王子はなかなか姿を見せない姫にイラつき始める。


それは明らかに周りの者に伝わっていた。


議員たちは取り繕うようにアラドラス国について感心したように褒め言葉を述べていたが、それがうわべだけのご機嫌取りな言葉だと見え見えなので、ラシュディは余計うんざりしていた。


ロビンはレッテに小突かれるまで、その様子を少し面白がって観察していた。


咳払いするロビン。


「申し訳ございません。姫はそろそろお見えになるかと思いますので、もう少しだけ、お待ち下さい」


「二十分前にも同じ事を言っていただろう?一体いつになったら現れるのだ?我々がここにわざわざやって来た理由は分かっているはずだ。本人がいないと、話にならん」


「ラシュディ様、姫は来ます。自分の足で」

 

その時、会議室のドアが遠慮気味に開いた。


顔を見せたのは、セイルーン・アメリア姫。


ラシュディと目が合うと、姫は少し身を引いたが、キッと睨み返してそのまま部屋に入った。


「遅くなって、ご迷惑をおかけしましたわ。ご無沙汰しておりました、ミカエル・ラシュディ王子」


「久しぶりだな、アメリア。全く、待ちくたびれたぞ」

 

ピリピリと張り詰めた空気の中、皆の視線を一身に浴びながら、アメリア姫は自席に着くのであった。