ゼノンとの昼食を終えていっぱいおしゃべりした後、私はシルフィの部屋を訪ねた。
もう夕方だ。
一応、お礼は言わないと。
・・・二日酔いのお見舞いも兼ねてね。
部屋の前で、三回ノックしてみた。
「・・・・」
返事がない。眠ってるのかな?
「シルフィ?入るよ?」
私はドアに手を掛けた。
鍵が開いてる。
部屋の中も電気が点いていた。
「いるの?」
部屋を見回しても、姿がない。
どこ行っちゃったんだろう?
ベッドで寝ているかと思ったけど、そこにもいなかった。
「どっかに出てるのかな?姫のところとか?もう、アルコール抜けて元気になったのかな?」
などと思っていると、背後のドアが開いた。
びっくりして慌てて避けると、そこからバスタオル一枚のシルフィが出てきた。
お風呂に入ってたのね・・・。
彼は私に気がついて、「あっ」と短く声を上げ、素早くドアの後ろに隠れた。
私もバッと目をそらす。
「ちょちょちょちょっと!!あんた何勝手にあたしの部屋に入ってきてんのよ!それにいるならいるって、先に言いなさいよねっ!!」
「いいい言ったじゃん!ちゃんと声掛けたじゃん!シルフィ、耳悪いんじゃないの!?」
目を背けたまま、必死に言い返す。
後ろからはシルフィのヒステリックな声が聞こえてくる。
「お黙んなさい!!うるさいのよあんたは!人の部屋に無断で入るなんて、図々しいにもほどがあるんじゃない!?何しに来たのよ!?」
「もぉっ!お礼言いに来たに決まってるじゃん!ゲルダにシルフィが二日酔いでダウンしてるって聞いたから、様子も見に来たけど、まーそれだけ元気なら心配する必要なかったかもね!目的は果たしたからもう行くよ。じゃあね!」
息継ぎもせず、一気に言い切り、そのまま私は帰ろうとした。
「ちょっと待ちなさいよ」
あれ、今呼び止められた?
意外に思って振り向くと、さっきまで喚き散らしていたシルフィがニヤニヤしてこっちを見ていた。気色悪い。
「今なんて言ったの?あたしにお礼が言いたいですって?まぁそういうことなら存分に聞いてやろうじゃない。支度済ませるから、そこに座って待ってなさいよ」
あぁ、なんだかムカツク。
けど、ちゃんとお礼したいし、どうなったか知らせときたいからいいか。
・・・にしても、シルフィって、スッピンだとムカツクくらいイケメンだな・・・。
どうでもいいけど。
「待たせたわね」
「・・・うん」
半分眠たい声で私は返事した。
かれこれ一時間くらい待った気がする。
一体、メイクにどれだけ時間をかけてるんだ、この人は・・・。
綺麗に顔面塗装され、いつも通りの美しい女性のような顔に変身していた。
着ている服もお洒落だ。ちょっとうらやましい。
「二日酔いでヘロヘロの時にだけど、レッテから全部聞いたわよ。あそこの料理長、牢屋送りにできたんですってね。それにレジスタンスの奴らもお咎めなしで済んだみたいで、良かったじゃない」
持ってきたローズハーブティを飲みながら、満足気に言う。
私の事で喜んでくれるなんて、珍しいな。
「さぁーて、それができたのは元はといえば誰のお陰かしらねぇ?」
ティーカップを置き、私の方にずいっと近づくシルフィ。
ホラ、言ってみなさいよ、とその態度が物語っている。
こう、上から目線な言い方されると余計素直になれないって何で気づかないのかな?
「はぁ・・・。はいはい、シルフィ様のお陰でございますですよ。・・・まぁ、シルフィ酔い潰れてほとんど何もしてないんだけどねっ!」
「はぁぁ!?余計なこと付け加えなくていいのよ!本当、相変らず生意気な小娘なんだからっ!!」
本当のこと言っただけなのに。
やっぱり、どうしても喧嘩になるんだよな。私とシルフィって。
「てゆーかシルフィ実は素直にお礼言われるの苦手なんじゃないの?この前だって私の『ありがとう』の一言で顔真っ赤にしてたじゃん」
今度は私がニヤける番だった。
図星だったのか、シルフィがうろたえたからだ。
「ばっ、何言ってんのよ。誰があんたみたいなちんちくりんの言葉に対して赤くなるっつーのよ。自意識過剰も甚だしいわね!あんたなんか、あたしから見たらただのガキんちょよ、ガキんちょ」
「なっ!!言ったな、シルフィ!!」
こんな感じで、いつも通りの他愛の無い喧嘩は、お互いのお腹の虫が鳴るまで続いたのだった。