時は平安中期。


国府を襲撃したことで、朝廷から敵視された平将門(たいらのまさかど)が、下総国磐井の戦いで一族の平貞盛(たいらのさだもり)、下野国押領使・藤原秀郷(ふじわらのひでさと)によって滅ぼされ、京の七条河原でさらし首にされる『天慶の乱』が起こりました。



将門の娘、五月姫(さつきひめ)は父を殺されたことに対する怨念を募らせ、その仇を討つために貴船神社に丑の刻参りをするようになりました。


みかちゅー日記-image

「どうか、私に力をお授けください。父のあだ討ちを、何としてでも成し遂げとうございます」


願掛けを始めて実に二十一日目の夜のことでした。


その言葉に答えるように、貴船神明が言いました。


「そなたの願い、聞き届けた。筑波の山中にて滝に打たれて修行せよ。そなたの願いは叶うであろう」



そのお告げを聞いた五月姫は早速、筑波山に向かい、身が削がれるような冷たい滝に打たれ続けました。


苦しい修行でありましたが、父の無念を晴らすため、五月姫は耐え抜きました。


そしてとうとう、敵に太刀打ちできるほどの妖術を授かったのです。


「見ていろ、父に歯向かった者たちすべて、この私が討ち取ってくれる」


五月姫は、妖術で姿を変え、瀧夜叉姫(たきやしゃひめ)と名を改め、下総国の磐井へ下りました。


そして、相馬の城にて、夜叉丸、蜘蛛丸という二人の手下とともに、朝廷転覆の反乱を起こしたのです。





一方、京の都では将門一族征伐のため、大宅中将光圀(みつくに)・平貞盛・藤原秀郷が、生き残っている五月姫を捕まえようと、貴船神社に向かっていました。


三人は神社に到着するも、五月姫の姿はどこにもありません。


「ここにはいないようです。どこに行ったのでしょう?」


「そのまま待て、調べてみよう」



光圀は陰陽の霊術を使って、五月姫の居場所を探りました。


そして、五月姫が既に瀧夜叉姫となり下総国を荒らしまわっていることを知ったのです。


「大変だ、こうしてはおれん。すぐに姫討伐に向かうぞ」


「「ははっ」」



こうして光圀と家臣二人は急いで下総国へ下りて行くのでした。




下総国では五月姫の様相は変わり果て、鬼となって手下二人と暴れまわっていました。


そこへようやく、貞盛と秀郷が駆けつけます。


父将門の仇の登場に瀧夜叉姫は甲高い笑い声を上げました。


「やっと会えたな、藤原秀郷、平貞盛。この日をどんなに待ちわびたことか」


「鬼に堕ちた愚かな娘よ。この場で成敗してくれる」


「将門一族で真の生き残りはお前だけだ。覚悟するがいい」



秀郷と貞盛は刀を構えました。


滝夜叉姫も長刀をかざします。


「おのれ貞盛、わが一族を裏切った上に、憎き秀郷を引き連れて、我ら一族を根絶やしにすると言うのか!飛んで火に入る夏の虫よ。いざ勝負なり!!」



瀧夜叉姫の号令がかかると、手下二人は素早く相手に切りかかります。


それを秀郷と貞盛は見事に受け流し、夜叉丸と蜘蛛丸を切り捨ててしまいました。


それを目の当たりにして、滝夜叉姫は完全な大鬼と化します。


「おのれ!!たとえ手下がやられても、私はそう簡単にはやられないぞ!」



怒り狂った瀧夜叉姫は蜘蛛の糸を放ち、秀郷と貞盛を縛り付けてしまいました。


身動きがとれない二人は、成す術がありません。


勝ち誇ったように、瀧夜叉姫がじりじりと二人に近づきます。


「ここまでか・・・」



覚悟を決めたその時、不意に絡まった糸が解かれるのを感じました。


光圀の陰陽の霊術です。


遅れてやって来た光圀を憎憎しげな目で睨む瀧夜叉姫。


「かたじけない。助かりました、光圀殿」


「この娘、貴船神明に願掛けをしたな。心を鬼に支配されている。助けねば」


そう言うと、光圀は瀧夜叉姫に神力を使い始めました。


「やめろぉ・・・」



光圀の祈祷に苦しみだした姫は、光圀に襲いかかろうとします。


それを、秀郷と貞盛が両側で抑えつけ、邪魔させないようにしました。


しばらく苦しみに歪んでいた姫の顔は次第に落ち着きを取り戻し始め、もとの五月姫に戻り、同時に正気を取り戻しました。


「あぁ・・・私はなんて事を」



急にとてつもない罪悪感に駆られた五月姫は、手下が落とした槍で自害を試みます。


しかしそれを光圀が止めました。


「五月姫よ、あなたの心に巣食っていた悪しき力は追い払いました。自ら命を絶つことはしてはいけません。これからはあなたの一族の魂を、命が続く限り弔っていきなさい」




光圀に諭され、ようやく目が覚めた五月姫は、その後山寺に籠もり、将門一族の御霊を供養して暮らして行きました。






――完――




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「瀧夜叉姫」は私のお気に入りのお話のひとつです。


中川戸社中さんのこの演目の舞がとっても好きなんです♡


五人で八文字に交互に舞うところと、姫のお面が手品のように早替わりするところがこの演目の見所ですねニコニコこれがまた美しいんですよキラキラ


そしてまた登場しましたね、「貴船神社」。また願掛けて鬼になってましたね。


神話ではそういう、いわく付きの神社なんですかね?くわばらくわばら。


そしてその呪いを解くのはやっぱり陰陽の神力!お決まりのパターンなのかもしれませんが、かっこいい(笑)


この神話は絶対神楽で見るべきです!超おススメしておきますラブラブ!