翌日、カノンに言われた通り、私はアンナのもとへ向かった。
今度はちゃんと制服に着替えて。
教会に入ると、シスターが三人ほど、マリア様に向かってお祈りをしていた。
後ろから見ると皆おんなじ格好なので、どれがアンナか分からない。
とりあえず、シスターたちがお祈りを終えるまで待った。
朝7時の鐘が鳴る。
それと同時にシスターたちはようやく顔を上げ、こちらを振り向いた。
しかし、どの顔もアンナではない。
ここに彼女はいなかった。
「おはようございます。あの、シスター・アンナに用事があるのですか、どこにいるかご存知ですか?」
「おはようございます。今日はお天気がいいから、アンナさんは裏庭の花壇に水をやっていますよ」
真ん中のシスターがにっこり微笑んで答えてくれた。
私はお礼を言って、急いで裏庭へ。
また入れ違いになると面倒だ。
私がフルートの練習に使っていた『緑の公園』にたどりつくと、アンナの姿を見つけた。
日中は誰も来ない『緑の公園』。
朝はアンナが花壇に水をやりに来ていたんだ。
それを知っていたら、もっと早くに出会えていたかもしれない。
「おはよう、アンナ」
声をかけられ、水差しを持ったまま振り返るアンナ。
「あら、おはようございます。今日も会いに来て下さったのですね。昨日はよく眠れましたか?」
勤務時間中なので、仕事口調になっている。
2人きりの時くらいはタメでいいのに。
「それがね、あの後また別の問題が起きちゃって、そのことが気になって眠れなかったんだ。また話を聞いてくれる?あ、その前にこれを返さなきゃ」
私はポッケから洗い立てのハンカチを取り出した。
アンナが昨日貸してくれた物だ。
「まぁ、持っていてくださっても良かったのに。わざわざありがとうございます。ちょうど水遣りも終わったところですし、マリア様の御前で、またお話を伺いましょう」
教会に戻ると、私はアンナに昨日のことを話し、どうしたいか自分でも良く分からないと言った。
するとアンナは物事の道理を語り始めた。
「悪いことはいけないことです。それはどのような理由があっても変わらない決まり。レジスタンスは窃盗を繰り返していました。それは悪いことです。その腹いせに、仕返ししてしまった料理店の店主も悪いです。制裁を受けるべきはレジスタンスだけでなく、店主も同等に受けるべきです。ですから、あなたはアランさんを捕まえるなら店主も捕まえるべきだと訴えてみてはどうでしょう?そうすれば、かつて仲間と認めてくださったレジスタンスもあなたを再び受け入れるのではないでしょうか?」
・・・なるほど、そうか。
確かに今のところ料理屋店主にはお咎めがない感じになってるし。
レジスタンスばかりひどい目に遭うなんて不公平だよね。
「でも、それなら早くしないと。レッテがアランを追いかけてる間に、店主が証拠を隠滅しちゃうかもしれない。・・・もしかしたら、もう遅いのかも」
アンナは私の手を両手で優しく包み込んだ。
「何もしないうちから、希望を失ってはなりません。神はいつでも、善の心を持つ者の味方です。悪は必ず裁かれるでしょう」
優しく微笑むシスター。
その言葉で勇気が湧いた。
「うん、そうだね。やるだけやってみるよ。ありがとう、アンナ!」
そうと決まれば、こうしている場合じゃない。
私は足早に、自分の部屋に戻った。
「とは言ったものの・・・。何から始めたらいいのかな?あたしが直接城下町に行って証拠を探したいけど、許可が下りないと出られなしなぁ。レッテは連れてってくれないだろうし。ロビンやエルーシオは姫のことで忙しいし・・・」
ふと頭に、シルフィの顔が浮かんだ。
いやいや、頼んだって無駄でしょ。
彼が私の頼みを快く聞いてくれるはずがない。
それに、私とレジスタンスの関係を知らないわけだし・・・。
「ゼノンだったら、付いてきてくれるのかな?でも、護衛戦士でもない彼と勝手に城を出たら、やっぱマズイよね。それに・・・黒装束の彼と一緒だと目立ちそう」
「お前、独り言多いな」
気がつくと、ベッドの上に欠伸をしている黒猫がいた。
私は呆れたように目を細める。
「カノン、あんた常に私の部屋で監視してるでしょ」
「ここにいると色々情報が入るからな。お前の独り言で。また何か悪巧みしてるみたいだな」
カノンには隠さなくてもいいかと、仕方なく、手が空いてる自分が今から城下に行って、料理屋の猛毒を探したいことを打ち明けた。
カノンは笑った。
「面白そうだな。確かに、ご主人様に許可を出す権利はないぜ。まぁ、ものは試しだ。あのオカマ野郎にも相談してみたらどうだ?可能性は0じゃないだろ?」
もう、頼れるのはシルフィしかいないか。
あまり気は進まなかったが、一刻を争うことなので、考えるより先に行動に出ることにした。