私とアンナは年も近い事から、仕事のとき以外はタメで話す事に決めた。


二人で朝食を食べる約束をして、お互い一旦着替えに部屋に戻り、食堂で待ち合わせた。




「おや、メグミちゃん、いつの間にアンナちゃんと仲良くなったんだい?」

 

アリーが厨房からパンとジャムをお皿に乗せて二人のテーブルに持ってきた。


「ついさっき友達になったんだよ。ね?」

 

私が向かいの席に座るアンナに投げかけると、アンナは少し照れたように、「うん」と答えた。


「そうか、良かったよ。アンナちゃん、友達を欲しがっていたもんね。メグミちゃんが友達になってくれれば安心だ。―――あ、はいよ。オーダー今伺います」

 

食堂は朝にもかかわらず少し混雑している。


アリーは忙しそうに別のテーブルに回って行ってしまった。


私はアンナに向き直って聞き返す。


「アンナ、友達がいないわけじゃないんだよね?」


「・・・。このお城に、私たち位の年の人って少ないの。先輩と呼べる人たちはいるけれど、お友達と呼べる人はいなかったわ。職業柄、誰かと遊ぶ事もできなかったし・・・」


「そんなに時間が空かないの?」

 

アンナはうつむき加減に手元の紅茶を見つめた。


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「うん。私には両親がいなくて、このお城に孤児として引き取られてから、シスターとしてのお勤めが始まったから。食事と就寝のとき以外は教会にいなければいけないの。晴れの日なら、お庭の花たちに水をやりに外に出る事ができるんだけど・・・」

 

もどかしげに窓の外を見る。


雨は止む気配が無く、相変わらず激しく降り続いていた。


「シスターの仕事って、厳しいね」


「そうね。だけど、文句は言えないわ。身寄りのない私を優しく迎え入れてくださったんだもの。お城のためにちゃんと働かないと、バチが当たるわ」

 

そう言って笑うアンナ。


私はなんだか彼女が気の毒に思えて、素直に笑えなかった。


彼女には、自由がないのだ。


満足に出歩くことすらできない。


まるで、アメリア様のよう。


「ねぇ、さっきから私の事ばかり話してるじゃない。次はメグミの番よ。メグミはどこの血筋の人?」


「え!?えぇぇっと・・・」

 

アンナに自分の境遇を聞かれ、テンパってしまった。

 

そりゃ、友達ならお互いの事知っておきたいよね。


分かるけどさ・・・。


「実は私、他の国から来たんだ!ほら、パルバンに誤飲された人間がいたって一時ウワサになってたでしょ?あれ、私のこと!」

 

アンナは少し考えて、思い出したように両手を打った。


「あぁ!そういえば教会にも通達が来ていたわ。まぁ、あなたのことだったの!じゃああなたもハトリックにお世話になっている身なのね」


「そういうことになるね。今はロビンのお手伝いをしてるってとこかな?」

 

アンナは目を輝かせた。


「まぁ、光栄なことじゃない!ロビン様の元で働く事ができるなんて!うらやましいなぁ」

 

ロビンが護衛隊長という高い身分だから、そう言うのだろうか。


それとも、アンナもロビンに気があるのだろうか。


私は思わず、「どうしてそう思うの?」と聞いてしまった。


「ロビン様っていつも忙しくされているでしょう?今までは補佐役にフィルラントさんがいるだけで、ロビン様の傍で働いている方なんて、見かけた事無いもの。ロビン様の業務を手伝える方なんて、きっとフィルラントさん位、頭の良い方でないと勤まらないと思っていたわ。私なんて、絶対に無理だもの。メグミが本当にうらやましい」


「やだ、そんな大層な仕事を任されてるわけじゃないんだよ?」

 

実際、私がしていることと言えば、フルートの練習くらい。


頭を使う仕事なんて頼まれても無いし、やりたくも無い。


だが、私の弁解を、彼女は謙遜ととらえてしまったようだ。


「メグミったら、自分を卑下しないでいいのよ。鼻を高くしたっていいわよ」

 

違うのになぁ・・・。

 


朝食を食べ終えると、アンナは手元の時計を見た。


「あら、もうこんな時間。教会に戻らなきゃ。あなたのお陰で久しぶりに楽しい時間が過ごせたわ。よかったら、今度またお話してくれる?」

 

少し不安そうに尋ねる彼女に、私は笑顔を向けた。


「もちろん。私たち、友達だもん」