おじさんが、処刑される・・・。
私はショックでその場にへたり込んだ。
動悸が激しくて、苦しい。
何て気分だろう・・・。
体の震えが止まらない。
「どうかしたのか?」
「メグミ、どうかなさって?」
事情を知らないエルーシオとアメリア姫は私の反応に困惑している。
シルフィも同じだった。
「ちょっとロビン様、説明してくれるわよね?」
シルフィに問い詰められ、ロビンは口を開いた。
「番人はメグミの命の恩人だそうだ。犯人からメグミを庇って助けた。だからなるべく軽い刑をと思ったんだけど・・・。そもそもあの番人は妻子を犯人の男に人質にされていたんだそうだ。姫の暗殺に協力したら解放するという条件で。それで、仕方なく手を貸した。その後、番人の妻子は約束どおり家に帰されたようだけど、今度は自分自身が捕らわれて、犯人と一緒に行動する事になったそうだ。『城の人間でありながら、一国の主より私事を優先させた。これは大罪に値する』って、議会で死刑を求める声が多くてね。僕以外、皆同じ意見だった。力になれなくて申し訳ない。本当に残念だよ・・・・」
やっぱりおじさんは、姫を殺そうと企むような人じゃなかった。
家族のためだったんだ。
ヒトの命を助けるような人が処刑されるなんて、納得できない。
「私が、その偉い人たちを説得する!ロビンお願い。話し合いをさせて!」
「できないよ。連邦議会で決まった事は覆せない。君の話は聞き入れてもらえないよ」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないでしょ!私の意見もちゃんと聞いてもらうの!」
必死に訴える私に、ロビンが辛そうな顔で諭すように言う。
「分かってくれ、メグミ。もう遅いんだ」
「嫌だ!!嫌だよっ!!」
「メグミっ!」
ロビンに怒鳴られて、私は一瞬ビクッとなり、動きを止めた。
ロビンはフッと息を吐き、静かに私に言い聞かせる。
「辛いのは僕も同じだよ。でも、もうどうにもできないんだ。今夜、最後に番人と面会できる。話してみるかい?」
私は、目に涙を浮かべてゆっくりと頷いた。
ロビンは事の詳細を、アメリア様とエルーシオ、シルフィ、そして私に話してくれた。
番人など、城の役職に就くものは原則、城外に親族を置いてはならない事になっている。
今回のように、家族を弱みに城の内部の情報を漏らされたり、不正な取引に手を貸されたりすることを防ぐためだ。
番人は家族を城に縛り付けたくなくて、この規則を密かに破っていた。
どこでその情報を知ったのかは知らないが、犯人の男はそれに漬け込んだ。
犯人の男の名はナダル。
姫を殺そうとした目的は不明だが、番人の話では、伝書鳩で頻繁に誰かと連絡を取っていたらしい。
だから、ナダルは誰かと共謀して暗殺を企てていた可能性が高い。
ナダルが死んだからといって安心はできないのだ。
「・・・とすると、まだ城下での情報収集は続けなければなりませんね。アメリア様もなるべく部屋の外には出られないほうが良いかもしれません」
眉間にしわを寄せ、エルーシオが言った。
皆もそれに賛同するように頷く。
姫は残念そうにしていた。
「あたくしはすっかり、籠の中の鳥ですわね。でも皆さまがそう仰るなら、大人しくしていますわ」
「大丈夫。私が遊びに来るから」
落ち着きを取り戻した私は姫を慰めた。
「あたしもいるわよ」
すかさずシルフィが身を乗り出す。
姫は笑った。
「なら、退屈しないで済みそうですわね」
微笑んでいる姫の傍らで、エルーシオは何か思いつめたような様子だった。
姫に関する心配事は絶えない。
エルーシオも大変だ。
「なるべく早く、解決したい問題だね。レッテ達が既に動いてくれているけど、なかなか有力な情報は得られていないみたいなんだ。もう少し、時間が必要だね」
ロビンは窓際に行って、外を見つめた。
「もう、日が高い。お昼か。これ以上長居したら会議に遅れちゃうな」
「ロビン、もう行ってしまうんですの?」
「はい、アメリア姫。僕はこれで失礼します。新たな事が分かり次第、また伺います。メグミ、今夜迎えに行くから、部屋で待っていて」
私に言い残すと、ロビンは一礼して去っていった。