気分を害したのか、シルフィは朝食の後で、外の空気を吸って来ると、部屋から出て行った。
残った私たちは、片づけをする事にした。
私がお皿を持って立ち上がると、姫がそれを制した。
「まぁ、いいですのよ。メグミはゲストなのだから、座ってゆっくりしていて。片付けはエルーシオとシルフィがしてくださるわ」
「だめだめ。こんなに洗い物があるもん。二人だけじゃ大変だよ。私にも手伝わせて」
手伝いたいのは本心だが、もし私が悠長に休んでいようものならまたシルフィがグチグチ文句を言うに決まっている。
これ以上彼を不機嫌にさせたくない。
私がお願いすると、姫は頷いて、また椅子に座った。
どうやら彼女は手伝う気はなさそうだ。
重ねた皿を持ってエルーシオと二人でキッチンの流しに運んだ。
一枚ずつ、スポンジで磨いていると、隣で同じく皿を磨いていたエルーシオが話しかけてきた。
「シルフィのやつは、口ではああ言ってるが、お前の事をそれなりに心配していたんだぞ」
「ふぅん。そうなんだ」
「朝食も、お前が帰ってくるからと、力を入れて作ってたぞ。『まずいなんて言わせたくないから』ってな」
エルーシオが少し笑った。
私も自然と笑顔になる。
「でもシルフィはやっぱり私のこと嫌いだと思うよ。なんだか、私が姫様を取っちゃったみたいで、シルフィ機嫌悪そうだったもん」
「ははっ。そうだな。アメリア様は同い年の友人ができて嬉しいのだろう。だからつい、お前をひいきしたがるんだろうな」
友人・・・。
私が姫にとってそんな存在なら、これほど嬉しい事はないよ。
私が望んでた関係だもん。
最初は近づく事さえできなかったから、友達になれるなんて思ってもいなかったけど、今はそれが実現してるんだ!
「私も、アメリア様と友達になれて嬉しいよ。できればシルフィとも仲良くなりたいんだけどなぁ」
「なれるさ。本人にその気があればな」
エルーシオは笑っている。
さっきの重たい空気はやはり気のせいだったようだ。
「ちょっと、二人してなにニヤニヤしてんの?気持ち悪いわね」
外から戻ってきたシルフィが私たちを見て言った。
そしてすぐに大量の皿とコップに目を向ける。
「また結構あるわね。ちゃっちゃと終わらせちゃいましょ。あたしの手が荒れないうちに」
シルフィは私とエルーシオの間に無理やり割り込んで、先陣切って皿を洗い始めた。
最終的に、私とシルフィが洗って、エルーシオが食器を拭く形となり、十五分ほどで全部洗い終わった。
「はぁ、もう疲れたぁ・・・・」
「お疲れ様ですわ。三人ともソファに座って」
姫がソファにクッションを用意してくれていた。
ただ座っていただけじゃなかったらしい。
「やっだぁー。ネイルが剥げちゃった。また塗り直さなくちゃ」
「シルフィって、女性以上に女性らしいんだね」
「まぁ、ありがとう。あんたももっと努力して、早くあたしに近づく事ね」
ツメを磨きながらシルフィは相変わらずの上から目線で言う。
少しムッときたが、喧嘩までには至らなかった。
抑える事を覚えないと。
「皆さんで雑談でもしましょう。面白い事をあたくしに聞かせて」
それからは皆でワイワイ、雑談を楽しんだ。
しばらく四人で和んでいると、誰かが騒々しく部屋のドアを開けて入ってきた。
「失礼します。急ぎの知らせがあって参りました」
「まぁ、ロビン!」
姫が嬉しそうにロビンに駆け寄った。
私はヘンな胸騒ぎがした。
ロビンが険しい表情をしている。
「ロビン様、急ぎの知らせとは何でしょうか」
エルーシオも立ち上がった。
「連邦協議会で、番人への処遇が決まった」
おじさんの・・・!?
私も思わず立ち上がった。
「それで、どうなったのよ?」
シルフィが聞くと、ロビンは一瞬私の方に目を向けて、はっきりと告げた。
「大多数の議員の賛成意見で、明日明朝、番人は公開処刑される」
「・・・・・・っ!?」
私の体から、一気に血の気が引いていった。