一通り話が済むと、ロビンは棚から一冊の厚い本を取り出して私の目の前に置いた。


「これは?」


「この城に代々伝わる歴代の姫君たちの記録だよ。この城を守ってきた王妃って言った方が分かり易いかな」


ロビンは何ページかめくると、そこで手を止めた。


そのページにはとても綺麗な女性の絵が載っていた。


みかちゅー日記-image

「この人は?」


「ハトリック城、初代王妃のセイルーン・ビアンカ様だよ」


「セイルーン・・・アメリア様と同じファミリーネイムだね」


「そう。この国の王妃は代々セイルーンの名を受け継ぐしきたりがあるんだ。ちなみにアメリア姫は十四代目。ハトリック建国から八百四十年目のプリンセスってことになるね」


このお城、建ってからそんなに長いんだ!


改めて言われると歴史を感じるなぁ。


「この初代の王妃、ビアンカ姫はね、君と同じように治癒の能力を持っていたんだよ」


「え、この人も??そうなんだ」


「実はアメリア姫も治癒の能力を少なからず持っていらっしゃるんだ。ただ、その不思議な能力は受け継がれていくうちに、どんどん衰えているようだけどね」


「どういうこと?」


「先代のビアンカ姫はその歌声ですべての者たちの痛みや苦しみを消し去るほど治癒力に長けていたんだけど、アメリア姫はその力を特定の人物にしか発揮できないでいらっしゃる」


「特定の?誰?」


そう尋ねると、ロビンは少し悲しそうに、ビアンカ姫の絵を見つめながら、呟くように言った。


「それは・・・僕なんだ」


えぇ!?


な、何で??


どうして、よりによってロビンだけに??


アメリア様、ロビンが好きだからわざとロビンの傷だけ治してるんじゃ・・・。


「アメリア様の歌声は透き通るようで、心に響く。怪我を負った者たちと一緒に僕も聞き入っていた。だけど、傷が癒えたのは僕ただ一人だった」


そんな。


でもそれは、アメリア様が人一倍、ロビンを想っているからなんじゃないのかな。


それとも、本当にアメリア様はロビンの傷しか癒せないのかな?


「僕は君にビアンカ姫の面影が見えて仕方がないんだ。まるで、先代の王妃が君の姿を借りて、アメリア姫の代わりにこの国の民を守ろうとしているみたいでね」

 

“面影”・・・。

 

なんだか、ロビンのその言い方に違和感を覚えた。


先代の姫に会った事があるかのような言い方だ。


八百年以上も昔のことだ。


ロビンが先代の姫に会っているはずはない。


きっと私の思い過ごしだろう。


「でもさ、ビアンカ様は歌声で、私はフルートだよ?道具なんか使わずに美声で勝負するなんて、そっちの方が凄いよ。尊敬する。私なんか、音痴もいいとこなのに」


そんなことはないよ。フルートをあんなに吹きこなせる人だってなかなかいないじゃないか。これから先、数々の戦闘で、兵士たちが傷ついて帰ってくると思う。そのときは、君の癒しの音色で救ってやってくれないか?」


気が付くと、さっきまで悲しげだったロビンの表情はいつものように明るく戻っていた。


さっきのは、一体なんだったんだろう。


でも、ロビンが元気ならそれでいいや。


「うん、約束するね。あと、ロビン、私からもお願いがあるんだけど・・・」

 

あの、番人のこと。


まだ詳細はよく分からないけど、この先あのおじさんがただで済むとは思えなかった。


「番人のおじさんを、あまり責めてあげないで。ちゃんと、話を聞いてあげて。お願い」


「・・・メグミは優しいね。もちろん、話は聞くよ。レジスタンスのことも、上の人とも話し合って、慎重に事実確認を取るから。それまでは城の中でゆっくりしていて」

 

歴代の姫の本を閉じて棚に戻すと、ロビンは私を部屋まで送ってくれた。


「突然、僕の部屋に連れて行って悪かったね。初代の姫のことをどうしても知ってもらいたかったんだ。お腹がすいたら食堂へ行って。ただ今日は、レッテを借りるよ。番人と話をしなくちゃいけないからね」


「うん。色々ありがとう」

 

ロビンは笑顔で番人のいる病室へ戻っていった。