フルートの音が部屋中に響き渡る中、ゲルダは心電図を見て目を見開いた。


「驚いたね、番人の脈が安定してきてるよ。あんた、持ち直したのかい??」


ゲルダが眠っている番人の肩を少し揺さぶる。


番人は小さく声を漏らした。


ロビンはその様子を、口を押さえて見つめていた。


レッテも同様に驚いている。


「おじさん?」


私は演奏をやめて番人の顔をまた覗きこんだ。


その目がゆっくりと開き、私を見る。


「お前・・・さん。無事だったのか・・・。良かった」


「おじさん!」


番人が昏睡状態から目覚めた!


奇跡だ!


私は嬉しくて、おじさんの手をギュッと握った。


「これは、メグミがもたらした事なんでしょうか?どう思います?ロビン様」

 

レッテが不思議そうに尋ねたが、ロビンは無言のまま私に歩み寄ってきた。


「メグミ、ちょっといい?ゲルダ、あとは頼みます」


そう言い残して、ロビンは怪我をしていない方の私の手を引っ張って、部屋を出て行った。


「こりゃ、面白い事になってきたね」


ロビンと私が出て行った後で、ゲルダがレッテに意味ありげにささやいた。





手を引っ張られ、連れて来られたのは、なんとロビンの部屋だった。


初めて入る気がする。


「その辺の椅子に適当に座ってて。今、お茶を持ってくるから」


「え、あの・・・・」


何か言おうと思ったが、ロビンはてきぱきとお茶を汲み、私の目の前に置いた。


「さぁ、どうぞ」

 

何を考えているのか、さっぱり分からない。


とりあえず、出されたお茶を飲むことにした。


「ダージリン茶だよ。おいしい?」


「うん、ありがとう・・・」


「メグミ、腕の傷を見せてみて」


唐突だなぁ。


指示されるまま、腕に巻きついている包帯を取る。


すると、そこに残っていたはずの傷跡が、なくなっていた。


前と同じだ。またすぐに治ってしまった。


「やっぱり、そうなのか・・・」


ロビンは腕を組み、何かを考えていた。


私の治癒の力のことだろう。


瀕死の番人を目覚めさせ、自分の傷もあっという間に治してしまったんだから。


「メグミは自分に治癒の能力があることを、知っていたの?」


「ううん。誘拐されるまでは・・・」


「どうやって、この能力の事を知ったの?」


あ、そういえば、ロビンたちは私が番人と犯人に誘拐されたと思い込んでるんだよね。


本当は違うのに。


でもここでレジスタンスの事を話したら、アランたちが危なくなっちゃう。


なんとかして誤魔化すしかないのかな・・・。


でもロビンは私を助けてくれた。


城にも置いてくれている。


んな恩人に、私はウソをついてもいいの?


ロビンには、ロビンにだけは真実を伝えなくちゃ。


「実は・・・私、レジスタンスっていう集団に誘拐されたの・・・」

 

そこから話は始まり、私はアジトで経験した事や出会った人たちについて事細かにロビンに説明した。


「じゃあ、その集団が今まで城下で起こっていた騒動の首謀者たちで、その中に君と同じように別の世界から来た男の子がいるんだね?」


「そうみたい。信じられなかったけど」


「ふむ。レジスタンス、城側にとっての敵のはずだけど、メグミは偉いね。その人たちの事を見捨てなかった。何とかしようと偶然にも治癒の能力を発揮させて彼らを救ったんだから」

 

そんなふうに言われると、ちょっと照れくさい。


当たり前のことをしただけだと思うのにな。


「彼らが留守の間にたまたま犯人と番人がアジトで休息していたわけだね」


「うん。ところでロビンはどうして私の居場所が分かったの?」


「強いて言うなら、カノンのお陰ってとこかな」


「カノンの?」


「そうだよ。カノンは耳がいいし、鼻も利く。君を探すために一緒に連れてきたんだけど、急に一匹で勝手に森の奥に行っちゃったから、カノンを途中で見失っちゃったんだ。暫くカノンの消えた方を探していたら、ピンチに陥った君が窓から見えたってワケさ」

 

そうなんだ。


私、カノンに助けられたんだ。


あの子はいつも私を見守っていてくれる。


危なくなった時も助けてくれた。


私は、次に会った時に必ずカノンにお礼を言おうと心に決めた。