男が腰布から鋭い短剣を取り出した。
光る剣先を見て、私は身震いした。
「この間はよくも邪魔してくれたな。ただじゃ済まさねぇぞ。俺様にたてついた事、あの世でたっぷり後悔させてやる!」
男が私に襲い掛かってきた。
逃げたかったが、恐くて動けない!
「やめろぉ!」
「!?」
何が起こったのか、次の瞬間、私の顔に何かが飛び散るのを感じた。
呆然としながら、私は顔についたものを手で拭った。
「・・・黒い・・・血・・・・」
無論、私の血ではない。
ゆっくり視線を前に向けると、男の短剣がおじさんの脇腹を切り裂いているのが見えた。
おじさんの体が崩れ落ちる。
「おじさん!!」
「バカな男だぜ。こんなガキ庇って無駄死にするとはな。どうせこのガキも死ぬのによ」
おじさん、私のために・・・。どうして、私なんかのために・・・!
「・・・ないから・・・」
「あぁ?」
私は目にいっぱい涙を溜め、それでも力の限り男を睨み付けて言う。
「あんた、絶対に許さないから!!」
「は!ガキ一人で何ができる?所詮、俺様には敵わねんだよ!!」
男が再び短剣を私に振り下ろす。
私は咄嗟に、隠し持っていた皿の破片を取り出し、刃を受け止めた。
「ん、何だ?無駄な抵抗をするつもりか?受けれるもんなら受けきってみろ!」
男は狂ったように短剣を振り回してきた。
予測不能な動きと、男の力に、私は皿の破片一つでは男の攻撃を防ぎきれなかった。
「痛っ!」
腕を押さえて、その場にうずくまる。
深く傷つけられたのか、私の腕から赤い血が滴り落ちた。
それを見た男は急に動揺し始めた。
「ガキ・・・魔族だったのか!?俺様を食うつもりか!?」
・・・そうか、あの夜も切りつけられて血は出てたけど、暗くて色までは分からなかったんだ。
この男、私のこと本気で魔族だと思ってる・・・。
だったらとことん恐がらせてやるまで。
「そう、私は魔族。仲間だってその辺にうようよいる。皆、おいしそうなあんたを狙ってるよ。あんたはもう、どこにも逃げられないんだから・・・・」
真っ赤なウソである。
ハッタリもいいとこだ。
だけど男はもろに真に受けてしまっていた。
「う、ウソだろ!くそ!こんなところで・・・。このままやられるくらいなら、ガキも道連れにしてやる!!」
なんでそうなるの!?
恐怖の形相で、男は理性を失ったように私に向かって短剣を振りかざす!
予期せぬ行動に、私は成す術も無くその場に固まった。
「きゃああああ!!」
ドスッ!
頭上で鈍い音が聞こえた。
恐る恐る顔を上げると、白目をむいている男の顔が目に入った。
そのこめかみには、一本の矢が突き刺さっている。
短剣を振りかざしたまま、男は事切れていた。
「あ・・・・ぁ」
あまりのことに、言葉を失う。
恐怖とショックで涙が溢れて止まらなかった。
「メグミ、メグミ!!」
入り口から飛び入るように入ってきた誰かに、名前を呼ばれて我に返った。
「ロ・・・ビン?」
心配そうな眼差しでロビンが私を見つめていた。
弓矢を携えているところから、矢を放ったのはロビンに違いない。
「無事だね?恐い思いをさせてごめんね。怪我してるじゃないか。すぐに助けに来れなくて本当にごめん!」
ロビンの声も、私の肩を掴むその手も、震えていた。
どうして、そんなに取り乱しているの?
いつものロビンらしくないじゃない。
どうしてこの人は、わたしのためにこんなに必死になっているのだろう・・・。
「ロビン、来てくれてありがとう。・・・すごく、恐かったよぉ・・・」
私はロビンの腕の中で小さな子供みたいに、わんわん泣いた。