私はアジトの中で目を覚ました。
まだ眠たかったが、もう寝すぎて頭が痛かった。
目をこすって、伸びをする。外が見えないので、時間は分からなかったが、おそらく昼をとうに過ぎている頃だろう。
昨夜はいつまで話し込んだのか、気が付いたら眠ってしまっていた。
隣で眠っていたはずのアランは、いなくなっていた。
「あんなに私から目を離そうとしなかったくせに・・・」
私は、昨日話したことを整理してみた。
アランは私と同じ中学の日本人で、彼も私と同じように図書室で本を見つけて、この世界にやってきた。
しかも三年も前に。
それにもかかわらず、三年後に私が開いたときもまだこの本は白紙のままだった。
つまり、お話が一向に進んでいないということ。
そのことに気が付いたとき、私は卒倒しそうになった。
「私が来てから、ちゃんとお話は進んでんのかな・・・」
不安をかかえながらも、話題は初めてこの世界にやってきた時の事に移った。
私はハトリック城のある小島の外側にいたが、アランは何と、城下町にいたらしい。
だから最初は城のことも、魔族のことも知らなかったようだ。
城下町で今のレジスタンスの仲間たちと会って、一緒に生活しているうちに、赤い血を見られて魔族と城のことを知ったらしい。
始めはわけも分からず恐れられて、大変だったようだ。
その辺は、私も分かる気がした。
同じく大変な目に遭っているので。
そういうわけで、彼は城に入る機会が全く無かったわけである。
お話が進まないはずだ。
彼は登場人物の、ちょいキャラと化していた。
私はパルバンに襲われたことで、運よく城に入ることができたし、不思議な力も持っているみたいだから、もしかしたら私が物語を進める鍵になるかもしれない、というところで、昨日の話は終わった。
「で、今日はハトリック城に帰らせてもらえるはずなんだけど・・・」
再び部屋を見回すが、肝心のアランがやはりいない。
仕方がないので部屋を出て、彼を探すことにした。
大部屋に行くと、なにやら皆、慌しく出かける準備をしていた。
小刀や弓など持って、矢の入った筒を抱えあげている。
なんて物騒な・・・。
「アランたち、どこかに行くの?」
私の問いかけに、アランが振り向く。
「やっとお目覚めか。あぁ、俺たちは昨日の借りを返しに行くところだ。お前、少しの間ここで留守番しててくんねーか」
「借り・・・?」
「仲間が殺されかけたからな。このまま黙っていられないだろ」
まさか、毒を盛った料理屋の店主に仕返ししに行くつもりなの!?
私は慌ててアランの腕を掴んだ。
「だめだよ!元はといえばあんたたちが盗みを働いたせいでしょ?確かに向こうもやりすぎだと思うけど、やり返すのは良くないよ!」
「今回は、お前に助けられてみんな感謝してる。だが、いくらお前に止められても、向こうのしたことは絶対に許せねぇ。下手したら、死人が出たかもしれねーんだぞ。殺人より重い罪ってあるか?」
「・・・そりゃ・・・その・・・」
アランは的を射たことを言ってる。
だから、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
同じく武装したフィオネがやってきて、私の肩に手を置いた。
「心配いらないって。殺しやしないよ。ただ、あたしらも舐められっぱなしじゃいられないもんでさ。少し、思い知らせてやりに行くだけだから」
それにしては皆様、危ない武器を持っていらっしゃるけど・・・・。
ここはしっかり止めにかからなきゃいけないんだろうけど、昨日のフィオネたちの苦しそうな様子を思い出すと、言葉が出てこなかった。
「さぁ、行くぞ」
アランの掛け声で、武装した皆が次々にアジトを出て行く。
私はただ見ているしかなかった。
「しっかり、留守番しとけよ」
そう言い残して、アランはアジトの鍵を閉めて行ってしまった。
「留守番って・・・早く城に帰してよぉ・・・・。そうすれば、レッテやロビンたちにあんたたちを止めに行ってもらえるのに・・・」
私は近くの椅子に座り込んだ。
レジスタンス全員で仕返ししに行くなんて・・・。
毒を盛った店主、バカだよ。恨みを買うに決まってるのに・・・。
店主の身に何が起こるのか、想像しただけでもゾッとした。
そして、ある考えが頭に浮かぶ。
――今なら、誰もいない。ここから逃げ出して、城にこのことを伝えよう!